2018.05.30 Wed

Pixel Challengeの作品群に見る可能性と課題~ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート<2>~

前回に続き、ケベック・シティー(カナダ)のデジタルメディア産業について紹介するレポート第2弾。4月5日から7日までケベック・シティーで開催された複合型GameJam「Pixel Challenge2018」は、同一テーマにもとづき48時間でグループ制作を行うもので、成果物にはゲームだけでなく短編アニメーションも含まれる。今回は、この世界的にも珍しいイベントから、同市の現状と課題を考察する。


TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada


<1>48時間で開発された入賞作品群


毎年1月末に全世界で実施されるGlobal Game Jamを筆頭に、世界中で開催されているGameJam。IT業界におけるハッカソン(ハック+マラソンの意味の造語)イベントを参考に、2000年代後半から草の根で始まったゲーム開発イベントだ。しかし、Pixel ChallengeにはGameJamと大きく異なる点がある。ゲームだけでなく、短編アニメーション(15秒~2分)も対象にしていること。そして総額15500カナダドル(約131万円)の賞金が用意されていることだ。

2013年にスタートし、今年で6回目となった同イベントには、地元のゲーム開発者や学生をはじめ合計384名が参加し、「パーフェクトストーム」をテーマに、60作品以上が制作された。夕方5時に開発が終了すると、そこから約4時間かけて審査が行われ、夜9時過ぎから受賞式がスタート。会場はスポットライトや音楽でショーアップされ、発表の度に歓声が上がるなど、さながらお祭り騒ぎの様相を呈した。

なお、2018年の入賞作は公式サイトから確認できる。また、佳作を含む全作品の映像はYouTubeで公開されている



入賞作品一覧

■団体部門

ゲーム部門(プロ)
『Wannable Gods』(BEYOND FUN) 賞金5000カナダドル
地元のゲーム開発者3名によるチームで、制限時間内に風圧で、どれだけ相手をステージから吹き飛ばせるかを競うアクションゲーム。相手を吹き飛ばすと得点が加算され、希に登場するボーナスアイテム(トライデント)をゲットすると、さらに得点が加算される。最大8人まで対戦可能。



ゲーム部門(学生)
『BREAKING STORM』(Melonslice) 賞金2500カナダドル
Cégep Limoilou単科大学の学生を中心とした6名のチームで開発。暴風雨に見舞われた都市を舞台に、ヘリコプターを操作して他のヘリコプターを妨害しつつ、様々なミッションを遂行していく。最大4人まで対戦可能。



3Dアニメーション部門(プロ)
『Storm, please』(Pixeliseurs De Challenge) 賞金2500カナダドル
地元のアニメーター3名によるチーム開発で、「アニメーションの脚本部門」を受賞したJean-François Faucher氏が脚本で参加している。宇宙人が銀河ショップで暴風雨アイテムを購入し、ケベック州に雪嵐を発生させるという、シュールな内容だ。



2Dアニメーション部門
『La vie en rose』(AquaDoges) 賞金2500カナダドル
ラヴァル大学の学生を中心とした6名のチームで開発。マッドサイエンティストが自分の発明品で暴風雨を巻き起こし、街中をウサギだらけにしてしまう。ヴォーカロイドを使用したと推測されるエンディングテーマにも注目。



■個人部門
※カッコ内は個人名/チーム名で表記

アニメーションのBGM&サウンドデザイン部門
『Qui Croque le Criquet?』(Philippe Grant/LESquads) 賞金500カナダドル
ラヴァル大学の学生による作品。ハエを補食しようとしたカメレオンが想像を働かせすぎて......? PIXAR/Disney作品を彷彿とさせるシュールでコミカルな内容。



ゲームのサウンドデザイン部門
『Perfect Neighbour』(Dave Gagné/MessengeInABottle) 賞金500カナダドル
Bart College単科大学の学生とプロの混合チームで、オーディオ担当はUBIケベックに所属するプロのクリエイター。送風機を用いて家の前のゴミを、通りを挟んだ反対側の家に押し付け合うアクションゲームだ。ゲーム内容と音楽のミスマッチが評価された。



ゲームBGM部門
『不明』(Xavier-charles Fecteau/Conjure) 賞金500カナダドル
ケベック大学高等工科大学の学生チームによる作品。雲の上のステージを豊体に、4人で対戦するアクションゲームで、雲をまとめて雨をふらし、他のプレイヤーを落下させる回数を競う。ファミコン的なBGMが特徴。



アニメーションのBGM&サウンドデザイン部門(SilverJack賞)
『Got PLANS?』(Marie-France Gilbert​/Flying Fries) 賞金500カナダドル
ラヴァル大学の学生チームによる作品。離れた家に住む女の子の気を惹こうとして、男の子が様々な工夫を重ねるが......? コメディタッチのロマンチックな作品で、アコーディオン風のBGMが印象的。



アニメーションの脚本部門(Spira賞)
『Rien ne sert de pomper』(Pablo Escobar Tuduri/LES AXOLOTLS) 賞金500カナダドル
フランス出身で元モントリオールの映画館勤務、現在はフランスでカフェの店長を務める脚本家と、地元チームの共同作品。タイトルは「走っても無駄(=丁度良いときに出発する必要がある)というフランスのことわざから。ボディビル大会が舞台のコミカルな作品。



アニメーションの脚本部門(Le Clap賞)
『Storm, please』(Jean-François Faucher/​Pixeliseurs De Challenge) 賞金500カナダドル
3Dアニメーション部門の受賞作品で、脚本は子ども向けの書籍執筆やドラマの脚本を手がけるライターによるもの。



<2>参加者に聞く開発のふりかえり


Pixel Challengeのもう1つの特徴は、サウンドとシナリオで個人部門が設定されていることだ。いずれも開発チームと事前にペアを組んでの参加となる(双方が望めば複数チームで掛けもち参加もできる)。特に今年度はシナリオ部門が新設され、3名のシナリオライターが参加した。前編の記事でも紹介したとおり、主催者側でトランスメディア(=メディアミックス)の可能性を重視したためだという。

実際、ゲームエンジンをレンダリングに使用するなど、ゲームと映像の垣根は急速に崩れつつある。ただし、ゲームとちがい映像では、尺を伸ばせばそれだけ制作にマンパワーが必要になるなど、両者は本質的にちがうメディアだ。その一方で同イベントでは、短編といえども物語性を備えた、興味深い映像作品が次々と制作された。ここからケベック・シティーの潜在的な開発力の高さを伺うことができた。

そこでイベント終了後、入選チーム・個人にメールでインタビューを行なった。団体2チーム、個人2名から回答を得たので、ここに紹介する。


『Wannable Gods』(BEYOND FUN)
ゲーム部門(プロ)受賞

Samuel Lapointe氏(中央)


――簡単にメンバーの紹介をお願いします。

Samuel:BEYOND FUNはケベック・シティー在住の3人のゲーム開発者、Samuel Lapointe、Jean-Benoit Guertin、Jonathan Nadeauによるチームです。自分とJean-Benoitはアーケードゲーム開発を手がけるSarbakan Games、JonathanはインディゲームスタジオのCradle Gamesで働いています。


――Pixel Challengeに参加された理由は何ですか?

Samuel:Pixel Challengeのゲーム部門はプロ部門と学生部門に分かれています。自分とJean-Benoitは学生時代に参加経験がありましたが、Jonathanにとっては初めての体験でした。私たちが参加した理由は、楽しい時間を過ごしたかったことと、勝つチャンスがあると信じていたからです。実際、その通りになったでしょう?


――役割分担はどうでしたか?

Samuel:自分とJean-Benoitはプログラマー、Jonathanはアーティストです。 当然ですが、Pixel Challengeでは皆、それ以外のあらゆる業務も担当しました。


――過去にどういったゲームを開発されてきましたか?

Samuel:自分とJean-BenoitはSarbakan Gamesで『Rabbids Shooter』、『Tomb Raider』、『Rampage』、『Crossy Road』などに携わってきました。Jonathanは現在、『Hellpoint』というゲームを開発中です。空き時間には3人で自分たちのゲームもつくっています。『Wannabe Gods』も継続開発して、いつか発売したいですね。


――テーマを聞いてどうでしたか? すんなりと開発は進みましたか?

Samuel:最初は3人ともポカーンでしたね。その後1時間ほど企画会議をすると、様々なアイディアが出ました。ただ、本当にそのアイディアがおもしろいか否かわからなかったので、最初にモックをつくってコアゲームメカニクスをテストしました。その上で、つくっているうちに、どこか薄味だと感じ始めたんです。そこで最後の最後で「トライデント」というボーナスアイテムを加えました。これによって完璧な仕上がりになりました。


――どのようなツールやミドルウェアを使いましたか?

Samuel:UnityMayaPhotoshop、それからフリーの波形編集ツールAudacityを使いました。


――開発でトラブルはありましたか?

Samuel:会場で無線LANがダウンする事態がありました。そのため進捗が少し遅れましたが、幸いにも他に大きな技術的課題はありませんでした。全てがスムーズに進みました。


――受賞した瞬間はどうでしたか? また賞金(5000カナダドル)は何に使いますか?

Samuel:チーム名がアナウンスされたとき、みんな狂ったように叫び始めましたね。とても幸せな瞬間でした。泣いている者もいました。賞金はとりあえずお祝いをして、あとは独立資金の一部に充てるつもりです。


――Pixel Challengeをもっと良くするためのアイディアはありますか?

Samuel:年々参加者が増えているので、運営スタッフをもう少し拡充した方が良いかもしれません。また、賞金総額をもっと増やしても良いと思います。それによって、参加者がますます増えるでしょう。


――ケベック・シティーのゲーム産業を発展させるために、どうしたらいいでしょう?

Samuel:インディゲームスタジオを増やすことです。実際、たくさんのゲーム開発者がインディとして起業したがっています。自分の夢を信じて欲しいですね。


――あなたはケベック・シティーの市民としてのアイデンティティを感じていますか? ケベック・シティーらしいゲームとは、どんなゲームでしょうか?

Samuel:私はケベック・シティーの市民としての誇りがありますし、市内には多くのインディゲームスタジオがあります。Cradle GamesSweet BanditsParaboleSabotage StudioBishop Gamesなどです。多種多様なゲームが開発されているので、「これがケベック・シティーのゲームだ」と簡単に言うことはできません。しかし、どのゲームも情熱・技術・才能にあふれた人々によってつくられています。そして、だからこそケベック・シティーでつくられたゲームは皆、おもしろいのです。


『Storm, please』(Pixeliseurs De Challenge)
3Dアニメーション部門(プロ)、アニメーションの脚本部門(Le Clap賞)受賞

Jimmy Labrecque氏(中央)


――簡単にメンバーの紹介をお願いします。

Jimmy:私たちは3名の3DCGアーティストからなるチームです。Viviane BrieはON Animation Studiosで働いています。Anaïs LarocqueはVox Populiで働いていて、自分は求職中です。3人ともケベック・シティー校外にあるCégepde Matane単科大学の卒業生なんですよ。本当はもう一人、参加する予定だったんですけど、結局来なかったんですよね(笑)。

これ以外に、シナリオライターのJean-FrançoisFaucherが後から加わりました。Jeanは子ども向けの書籍やドラマの脚本を書いています。今はフリーランスですが、企業で働く機会も探しています。Jeanは本作でアニメーションの脚本賞も受賞しました。


――とてもおもしろい映像作品に仕上がりましたね。

Jimmy:今回のテーマは「パーフェクトストーム」でしたよね。実際、ケベック州はたびたび、ひどい雪嵐に見舞われます。そこで異星人がどこかの店で雪嵐を購入して、ケベック州に降らせているんじゃないかと考えました。最後に地元住人を代表して、呪いの言葉を付け加えました。


――Pixel Challengeに参加した理由は何でしたか?

Jimmy:みんなで協力して短時間で何かをつくり上げるというPixel Challengeのコンセプトが好きだからです。実際、過去にも参加経験がありました。もっとも、みんな別々のチームだったんですけどね。


――各々の役割分担を教えてください。

Jimmy:みんなでネタ出しをして、アウトラインが決まったら、Jeanがストーリーボードとシナリオをつくりました。自分は3DCGアセット全てと、大半のテクスチャ、そしてレンダリングを担当しました。Vivianeはアニメーションの一部と、映像とサウンドの編集、それからリギングとスキニングも担当しました。リガーで参加する予定だった友人が来なかったので、彼女の仕事になってしまったんです。Anaïsはアニメーションと背景のテクスチャ制作を担当しました。


――テーマを聞いてどうでしたか? すんなりと開発は進みましたか?

Jimmy:まとめるのが大変でしたね。「嵐が友人を連れてくる」という内容から始まって、どんどん変わっていきました。宇宙人というアイディアを思いついたのは自分です。Jeanが全てのアイディアを書き留めて、整理してくれました。


――どのようなツールやミドルウェアを使いましたか?

Jimmy:レンダリングにUnrealEngine4を使いました。Arnoldよりはるかに高速だからです。モデリングは当初Mayaを予定していましたが、リギングの関係で3ds Maxになりました。テクスチャ作成はSubstance Painterです。これによってUE4との連携が容易になりました。コンポジットではPremiereを使用しました。


――開発はすんなり進みましたか?

Jimmy:チームメンバーが一人減ったので大変でしたね。また、3ds MaxとUE4との間で、リグ情報の受け渡しがうまくいかず、大変でした。本当に山あり谷ありで、ジェットコースターのような開発でした。


――受賞の瞬間はどうでしたか? 

Jimmy:Jeanは脚本部門での受賞をねらっていましたが、自分たちはアニメーション部門で賞が取れると期待していませんでした。トラブル続きだったし、無線LANはダウンするし、メンバーは不足するしで、最初から諦めていました。そのため、本当に信じられませんでした。


――脚本部門でも受賞されましたね。

Jean:Pixel Challengeで脚本部門が加わったのは今年からです。そのため参加者数が少なく、自分にも受賞のチャンスがあると確信していました。ただ、脚本部門よりもアニメーション部門での受賞の方が、より価値があります。みんな、本当に一生懸命でした。そのことは間近で見ていた自分が良く知っています。このチームに参加できたことを誇りに思います。


――ケベック・シティー市民であることにアイデンティティを感じますか? ケベック・シティーならではの映像作品とは何でしょうか?

Jimmy:正直、あまり感じたことはありません。ただ、この街には3DCGの技術を生かす機会がたくさんあります。そうした場所に生まれ育ったことは、とても幸運ですね。


『Got PLANS?』(Marie-France Gilbert​/Flying Fries)
アニメーションのBGM&サウンドデザイン部門(SilverJack賞)受賞

Marie-France Gilbert氏(左から2番目)


――簡単に自己紹介をお願いします。

Marie-France:子どもの頃からピアノが好きで、2009年にラヴァル大学に入学し、ÉricMorin教授の指導のもとで作曲学士号を取得しました。その後、大学院に進学して、2015年に修士号を取得しました。研究テーマは「私の最近の作曲における非西洋文化の影響」です。作曲活動も続けていて、今年は特別な年になりました。COGITO de l'Aeliés Competition、モントリオール国際映画音楽作曲コンクール、そしてPixel Challengeと3回も受賞できたからです。私の個人サイトはこちらです。また、YouTubeに作品をアップしているので、良ければ見てください。


――作品をYouTubeで拝見しました。とてもチャーミングな内容ですね。

Marie-France:誰にでも理解できるように、シンプルさを心がけました。見ず知らずの男の子と女の子が、通りを挟んで互いにコミュニケーションをするというものです。そこに、テーマである「パーフェクトストーム」を絡ませました。作曲のモチーフになったのはイタリア映画です。アパートに住んでいる二人が窓越しに話すイメージです。そこでイタリアの典型的な楽器、アコーディオンを使用しました。今回の作品もラブストーリーなので、おもしろくてロマンチックな音楽にしたかったのです。


――Pixel Challengeに参加された理由は何でしたか?

Marie-France:自分の実力を試すためです。Pixel Challengeについて初めて知ったのは去年のことで、UBIのFacebookページで知りました。しかし、そのときはすでに申込み期間が過ぎていました。そこで今年はモントリオール国際映画音楽作曲コンクールの受賞直後に申込みを行いました。ハッカソンのようなイベントに参加したのは、これが初めてです。すばらしい体験ができました。


――テーマを聞いてどうでしたか? 作曲はすんなりと進みましたか?

Marie-France:実は他のチームと掛けもちで参加したので、本作のブレインストーミングには、あまり参加できなかったんです。しかしこのチームのアイディアはすごくシンプルで、わずかしか議論に参加できなかったにも関わらず、とても印象的でした。そのため、様々なアイディアがすぐに沸いてきました。


――ラヴァル大学で作曲について学ぶ学生は、どういった業界に進みますか? ケベック・シティー以外での就職も多いのでしょうか?

Marie-France:これは業務内容によってちがいますね。作曲・編曲・サウンドデザイン・指揮者・研究者など、様々なキャリアが考えられます。その中でもラヴァル大学では作曲科の学生がアニメーションを学ぶ学生とコラボする機会があり、恵まれた環境にあります。もちろん、作曲家自身もそうした業界と繋がるために、様々な努力をする必要があります。私もまたPixel Challengeで多くの人と出会うことができて、良かったです。個人的には海外で働いてみたいですね。世界は音楽に満ちていますから。


――どういったツールやミドルウェアを使いましたか?

Marie-France:作曲面ではFinale Music Softwareを使用しました。その後、楽曲をMIDIデータにエクスポートして、REAPER Digital Audio Workstationにインポートし、編曲しました。他にEastWest Soundsの音源データも使用しています。膨大なデータライブラリがあり、愛用していますね。

チームの方ではMayaをメインに使用し、キャラクターの3DCDモデルやアニメーション制作ではMARIも併用しています。コンポジットはAfter Effectsで、他にPhotoshopも少し使用しました。


――作曲は順調に進みましたか?

Marie-France:だいたいにおいてうまくいきましたが、4~5時間ごとに映像のバージョンが変化するので、対応するのが大変でした。さっきも言ったように、別のチームとの掛け持ちでしたからね。特に最後の15分で、どちらのチームもバタバタと内容が変わりました。中でもこのチームでは、2つのシーンを入れ忘れるというミスがありました。そのため、あやうく3日間の作業が台無しになるところでした。最終的にうまくいって良かったですね。時間がない中で、自分自身でも良くやったと思います。


――48時間でCGアニメが1本つくれてしまうのですね。

Marie-France:私も隣で見ていて驚きました。どちらのチームもラヴァル大学の1年生チームで、Pixel Challengeは初参加でした。その中でも本チームのメンバーは皆、事前によく準備をしていました。みんなで一緒に短期間でつくることで、私自身も様々なことを学びました。3DCG制作にたくさんの高価なソフトが必要になることも驚きでした。それにラヴァル大学のCGカリキュラムは2Dが中心で、学生は自主的に3DCGについて学ぶ必要があります。みな良くやったと思います。もちろん学生なので完璧ではありませんが、誇りに思います。


――受賞の瞬間はどうでしたか?

Marie-France:とても驚きました。私の課題は期間内に2つのチームで、それぞれ1曲ずつ、時間内に作曲することでした。名前が呼ばれて、表彰されて、そこから席に戻って、泣きました。とても疲れていましたが、幸せでした。


――Pixel Challengeをもっと良くするために、何かアイディアはありますか?

Marie-France:初参加だったので、特に何も言うことはありません。ただ、あえて言うなら無線LANが途中でしばらくダウンしてしまったのは残念でした。私自身の作業に影響はありませんでしたが、みな苦労していましたから。それに、もしネットが問題なく使えていたら、もっと最後の修正で時間がとれたと思いますし。


――ケベック・シティー市民であることにアイデンティティを感じますか? ケベック・シティーならでなの映像作品とは何でしょうか?

Marie-France:はい、私は市民としてのアイデンティティを感じています。しかし、世界中を旅行して、自分の音楽を聴いてもらうことも大好きです。ケベック・シティーで良い仕事があれば嬉しいですね。その一方で、別の国でチャンスがあれば、場所にこだわりはありません。ケベックのアニメーションは非常に興味深く、革新的だと思います。ケベック州は多くの才能であふれています。


『Perfect Neighbor』(Dave Gagné/MessengeInABottle)
ゲームのサウンドデザイン部門 受賞

Dave Gagné氏(中央)


――簡単に自己紹介をお願いします。プロのゲーム作曲家ですよね?

David:ゲーム業界には様々な文化・国籍・経歴の人がいますよね。学校を卒業後、すぐに業界で活躍する人もいれば、紆余曲折を経て、気がついたらゲーム制作に巻き込まれていた......なんて人もいます。私自身も後者で、ゲームは好きでしたが、自分が制作に携わることになるとは思っていませんでした。学校で音楽について勉強した後、映像業界でコンポジッターとして働き、その後Sunny Side Upのディレクター兼コンポジッターになりました。同社はケベック・シティーにあるCGスタジオで、多くのゲーム向けトレーラー制作を手がけています。ここで経験を積んだ後、現在はUBIケベックに移籍し、未公開タイトルのプロジェクトでCinematic Designerをつとめています。

音楽はとてもユニークな存在です。それ単体でも作品になりますし、映像の良き伴侶でもあります。自分自身、これまで何度かインディゲーム向けの音楽制作を手がけたこともあります。現在も業務とは別に、あるインディゲームのプロジェクトに参加しています。将来的に仲間たちとインディゲームスタジオの設立も視野に入れつつ活動しています。


――YouTubeでゲームの映像を拝見しました。ガチなアクションゲームなのに、音楽がユーモラスで、そのギャップが印象的でした。

David:私たちの意図がしっかり伝わったようで嬉しいです。ぎこちないところも残っていると思いますけどね。チームメンバーも皆、カジュアルなアクションゲームなんだけど、ちょっとひねったサウンドを求めていました。これは自分にとっても願ったりかなったりでした。

トレーラーだけではわかりませんが、さらなる仕掛けも加えました。対戦して、ラウンドが進むにつれて、音楽やコード進行がどんどんダークな感じに変わっていくんです。これによって、2人のラグドールが真剣に、それでいて、ちょっと間抜けな感じでバトルする様子が、うまく演出できているのではないかと思います。


――Pixel Challengeに参加された理由は何でしたか?

David:今の世の中にはツールや環境が揃っているので、誰でも自分が好きなものをつくれるじゃないですか。ただ、実際に作品をつくるのは大変ですよね。それがPixel Challengeでは、本当に作品制作に集中できるんです。食事もコーヒーも、エナジードリンクも、運営側が用意してくれます。それに周りは才能と情熱にあふれた参加者でいっぱいです。優れた作品を制作する上で、こんな素晴らしい環境はありませんよ。去年初めて参加してみて、そう実感したので、今年もまた参加しました。

まあ、冷静に考えれば、仕事中毒の集まりなのかもしれませんけどね。ただ、一番大切なことは、大量のチームが競争しているときに、自分は評論家の側にいたくなかったということです。結局のところ、これは短期間で集中して行う創作活動であり、エクストリームなスポーツの一種なんです。


――「パーフェクトストーム」というテーマを聞いて、どのように感じましたか?

David:最初はゲーム内で、もっと「嵐」を直接表現する方法を検討していました。そのうちメンバーの1人が、都市を操作して嵐をぶつけ合うというアイディアを思いつきました。そこから都市のゴミを集めて他の都市に送りつけるアイディアになりました。これはけっこういけそうだぞということになり、最終的に街が人になって、家の前の落ち葉やゴミを互いに送風機で押し付け合う内容になりました。

作曲については、最初のうちはそれほど重視していませんでした。ゲームで重要なのはBGMよりも総合的なサウンドデザインですからね。ゴミ箱が風で飛ばされるときの音など、様々な効果音を録音したりもしました。朝の4時に会場のあちこちで、そんな録音をしていたので、バカですよね。みんなゲラゲラと笑いながら作業を進めました。おかげで、とてもおもしろいゲームになりました。

楽曲については最終日にまとめました。メンバーの一人が『SIMS』のサウンドトラックを聞かせてくれました。ボサノバやラテン系の音楽からも、大きなインスピレーションを受けました。これらが渾然となって、モチーフとなりました。


――チームメンバーについて教えてもらえますか? また、他のチームと掛けもちで作業をしましたか?

David:我々のチームは学生とプロが半々でした。学生はプログラマー2名と3DCGアーティストが1名で、みなBart Collegeに所属する、ゲーム開発コースの学生でした。ケベック・シティーの郊外にある単科大学です。

学校側では学生がPixel Challengeに参加することを望んでいました。ただ、希望者が中途半端な規模だったので、2つのチームに分割し、そこにプロがサポートで入る方式を採りました。自分は前からの知り合いがいたこともあり、喜んでそこに参加しました。

その一方で、複数のチームで掛けもちすることは望みませんでした。ゲームオーディオはデータ制作だけでなく、ゲームへの組み込みも重要ですからね。複数のチームに参加すると、それだけ作業時間が分割されてしまうので、1つのチームに集中しました。それが良い結果を生んだと思います。


――ツールやミドルウェアを教えてもらえますか?

David:メインで使ったのはQubecとWwiseで、これは多くのコンポーザー&サウンドデザイナーに愛用されている組み合わせだと思います。他にSteven Slate DrumsGarritan Personal OrchestraSpectrasonics' Trillian and Omnisphereなどのツールを使いました。他に電子ピアノをエミュレーションするプラグイン、Mr Rayも使いましたね。もっとも、自分は音づくりよりもインタラクティブミュージック全般が好きですし、今回もWwiseを使って、様々な挑戦をしました。他にゲームエンジンはUnity、DCCツールにはMayaと3ds Maxを使っています。理由は簡単で、2名のアーティストがそれぞれ慣れたツールを使いたがったからです。


――作曲中に何かトラブルはありませんでしたか? また賞金(500カナダドル)は何に使いますか?

David:最大の問題はどのGameJamでも同じだと思いますが、時間でした。ゲームはデータをバラバラにつくっておいて、最後に1つにまとめますよね。その結果、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。このプロジェクトはだいたいにおいて、うまくいった方でした。いくつかテクスチャが未実装なまま終わった箇所もありますが、けっこう満足しています。

ただ、サウンドについてはちがいます。十分に調整する時間が取れませんでした。ゲームのように操作によって音楽がインタラクティブに変わるメディアでは、操作と音楽の融合は非常に重要です。もう少し時間があれば、もっと良くなったと思います。賞金については......新しいツールやプラグイン、サウンドバンクなどに再投資するつもりです。


――Pixel Challengeの改善案について、何かアイディアはありますか?

David:端的に言って、より広い会場に移行することですね。運営スタッフは、これだけの参加者を閉所恐怖症にさせることなく、効率的に限られた場所に詰め込んだと思います。また、会場には海外からの参加者もいましたよね。数ヵ国だったと思いますが、より国際的なイベントになるのは良いことです。そのためにも、より広い会場が望まれます。


――ケベック・シティーでゲーム業界を成長させるためのアイディアがあれば教えてください。

David:正直に言って、私はケベック・シティーが北米ゲーム業界の大リーグに加盟する段階に達したと思います。ケベック・シティーはかなり小さな街です。しかし、街の規模に対するゲーム会社の比率には驚かされます。ケベック州全体で言えば、すでにモントリオールが重要なポジションにありますが、ケベック・シティーも姉妹都市的な地位に成長したと思います。

その上で業界を成長させるためには、もっと多くの企業を呼び込み、地元の人材を活用する必要があります。既存のスタジオは成長を続ける必要があり、インディゲームのスタジオ数も増やす必要があります。ゲーム業界とケベック・シティーは相思相愛の関係にあります。それはゲーム業界がケベック・シティーで成長するのに重要な要素です。


――あなたはケベック市民としてのアイデンティティを感じていますか? ケベック・シティーらしいゲームとは、どんなゲームでしょうか?

David:ケベック・シティーは旧市街地に、北米でもっと古い時期に建てられた近代建築群を擁しています。北米におけるフランス文化のゆり籠であり、カナダで最高の生活水準を保っています(恥ずかしながら自分自身、その末席を汚しているわけですが)。なんにせよ、我々はケベック・シティー出身であることの喜びと誇りを感じるべきです。

実際、ケベック・シティーは野心的なゲームを世界に提供していると思いたいものです。どこか普通のゲームとちがっていて、そのちがいが強調されているからこそ、世界中にリーチできるのです。これはゲームだけでなく、あらゆる種類のメディアにも当てはまります。ケベック・シティーはテクノロジーが本当に強い都市で、そのことが市場に出回る製品の品質にも影響していると思います。

<3>ケベック・シティーがさらなる成長に向けて抱える課題


このように今回の取材ではPixel Challengeや、一連のDigital Week関連イベントなどを経て、ケベック・シティーに秘められた高い可能性を伺い知ることができた。しかし、それと共に地域が抱える課題も浮かび上がってきた。それは教育と雇用のミスマッチだ。

実際、本レポートの前編でも、Québec Internationalの広報担当、Sylvie Fortin氏の「企業が求めるレベルまで、教育機関が学生を育てられていないのは事実で、重要な課題の1つ」というコメントを紹介している。もっともPixel Challengeの取材を経て、学生の制作スキルは決して低くないと感じられた。

にもかかわらず、こうした市の担当者からこうした見解が示される背景には「学生数に対して地域の企業数が少なく、雇用者数に限界がある」うえに、「大手スタジオには世界中から求職のオファーがあるため、あえて地元学生を採用するメリットに乏しい」という事情がある。そのため地元の学生は、ケベック・シティー以外の企業(ときには海外企業)を視野に入れて、就職活動を行わなければいけないのが現実だ。

前述のDave Gagné氏も「地元のゲーム開発者教育のレベルは高いが、学校で知識は教えられても、経験を教えることはできない。その一方で企業は採用時、スキルとともに、過去の経験を重視する。そのため業務経験のない学生にとって、一般的に不利に働く」と説明した。だからこそ、より多くの企業を呼び込み、地域企業の持続的な成長を続けて、求人数を増やすことが、就業支援につながる。しかし、それには相応の時間もかかる。


もっとも、過去10年以上にわたって、様々な形でカナダのゲーム産業を取材してきた立場からすれば(初めてカナダを取材したのは2007年のことだ)、カナダにはある目標に向かって粘り強く取り組む姿勢に長けている。テクノロジー分野は好例で、多くのカナダ企業が特定の分野で粘り強く研究開発を続け、成果を上げてきた。多くのツールやミドルウェアがカナダ産であることからも、このことは明らかだろう。

今回の取材では、その背景に強固な産学官連携のスキームがあることが、改めてわかってきた。特にケベック・シティーの行政サイドがリーダーシップを発揮して、適切に産業育成を進めている様が印象的だった。だからこそ過去十数年間で、ケベック・シティーは大手スタジオの誘致から、インディゲームスタジオを中心とした産業支援へと、着実に段階を進めることができた。そして、次のステップは人材教育というわけだ。

Gagné氏は「今は地元の学生はケベック・シティー以外の企業で就職先を探さざるをえない。しかし、彼らがキャリアを重ねる過程で、再びケベック・シティーに戻ってきて、地元に貢献してくれることを期待している」とコメントした。そのためには、受け皿となる地域経済の活性化が不可欠となる。日本の地方都市においても広く参考になるケーススタディではないだろうか。


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