2017.09.27 Wed

KLab Creative Fes'17動画部門グランプリ作品メイキング>>ハリウッドレベルの壮大な空気感を追求

2015年に始まり今年で3回目となるKLab Creative Fes(以降、KCF)は、モバイルオンラインゲーム会社のKLabが実施する学生向け3DCGデザイナーズコンテストだ。8月5日に実施されたKCF17の本戦には、318名の中から選ばれた動画部門5作品・静止画部門4作品の作者が登壇し、熱意溢れるプレゼンテーションを行なった。動画部門グランプリ作品に選ばれた『THE SEABED』をつくった今川真史氏(京都造形芸術大学)は、KCF16の動画部門準グランプリに続き、2年連続の受賞となった。本記事では今川氏へのインタビューを通して、同氏のグランプリ獲得までの道のりをお伝えする。

今川真史氏

京都造形芸術大学 キャラクターデザイン学科 4年

大学1年次の講義で初めて3D制作を経験する。2年次の終盤に「ハリウッド映画のVFX制作に携わる」という目標を定め、本格的にVFXを学び始める。3年次、『traveler』でKCF16動画部門準グランプリ受賞。4年次、『THE SEABED』でKCF17動画部門グランプリ受賞。卒業後の2018年4月からは、AnimationCafe VFXでVFX制作に携わる予定。
twitter.com/masashivfx
www.artstation.com/masashivfx321

大学での3Dの講義は週2時間。VFXは自分で勉強

CGWORLD(以降、C):グランプリ受賞、おめでとうございます。KCF16の『traveler』も十分素晴らしい内容でしたが、『THE SEABED』は技術力、エンターテインメント性の両面で進化していましたね。審査員の田島光二さん(twitter.com/kouji_tajima)は「審査員も満場一致の見事なクオリティ」「世界で活躍してほしい」とコメントしており、「ハリウッド映画のVFX制作に携わる」というご自身の目標に向け、着実に前進なさっているように見えます。

▲【左】今川氏が制作した『THE SEABED』のポスター/【右】インタビューに答える今川氏


▲KCF17動画部門グランプリを受賞した『THE SEABED』


▲KCF16動画部門準グランプリを受賞した『traveler』


今川真史氏(以降、今川):まだまだハリウッドレベルのクオリティには遠いですが、早く田島さんたちと同じステージに立ち、『スター・ウォーズ』の映画制作に携われるようになりたいです。

C:『スター・ウォーズ』シリーズには格別の思い入れがあるそうですね。ということは、目指すVFXスタジオはIndustrial Light & Magic(※)でしょうか。

※ ILMと呼ばれることが多い。ジョージ・ルーカス氏が開設したスタジオで、『スター・ウォーズ』シリーズをはじめ様々なハリウッド映画のVFXを手がけている。本社はサンフランシスコにある。

今川:はい。ILMは僕の目標です。父が大ファンだったこともあり、幼少期からずっと『スター・ウォーズ』を見てきました。特にエピソード4〜6に登場するゴツゴツした角張ったメカデザインが好きで、大きな影響を受けています。

C:そんな今川さんが、京都造形芸術大学のキャラクターデザイン学科に所属なさっているのは意外ですね。VFXとキャラクターデザインとでは、関連性が薄いように思います。

今川:大学入学当初は、2Dのイラスト制作を志していました。でも1年次の講義で3ds Maxを使ったキャラクター制作を勉強するうちに「3ds Maxはハリウッド映画の制作にも使われているから、がんばれば僕にもハリウッドレベルの作品がつくれるんじゃないか?」と思うようになったのです。とはいえ大学での3Dの講義は週に2時間しかなく、VFXを専門にしている先生もいないので、VFXは自分で勉強しています。

C:どうやって勉強しているのか、具体的に教えていただけますか?

今川:一番よく使うのはYouTubeなどにアップロードされている動画チュートリアルです。コンポジットではNUKEを多用するので、英語のチュートリアルを見ることが多いですね。書籍に関しては日本語のものを使います。NUKEの勉強は2〜3回心が折れそうになりましたが、『NUKE 101』(2011/ボーンデジタル)を読むことで使えるようになりました。

つくった作品をインターネット上のSNS、投稿サイト、コミュニティなどにアップロードすると、プロからコメントをもらえることがあり、それも参考にしています。SNS経由でCGプロダクションの方から「インターンシップに来ませんか」と誘われたこともありました。

バンクーバーのVFXスタジオを見学し、「弱肉強食」というテーマを思い付く

C:『traveler』の主な使用ツールは3ds MaxとAfter Effects でしたが、『THE SEABED』ではMARIやNUKEも加わり、ツールの面でもハリウッドに近付いていますね。

今川:『traveler』は2年次後期の最終課題として制作したのですが、作品レベルにおいても、KCF16のプレゼンテーションにおいても、自分の実力を出し切れなかったという悔しさがありました。その頃から「ハリウッドに行きたい」と真剣に考えるようになり、制作環境を本格化させていったのです。3年の夏にはNVIDIAのグラフィックスカード(GeForce GTX 970)を搭載したタワーマシンを購入し、年明けからはKCF17に向けた作品づくりを開始しました。

▲2017年1月からスタートした『THE SEABED』の制作スケジュール


C:『THE SEABED』の制作に着手したのは、KCF17の締切(2017年6月30日)の半年前というわけですね。どんな順番で制作したのでしょうか?

今川:まずは1ヶ月くらいで探査船をモデリングしました。その時点ではストーリーを決めておらず、「しんかい6500のようなカッコ良い探査船が潜航する、深海の世界観にしよう」という方針だけが定まっていました。完成した探査船の静止画をTwitterで発表してみたら良い反響がもらえたのに加え、3DTotal.comにも掲載されたので、「これを主人公にしよう」と決めたのです。続いて、同じ世界観の深海魚とクジラもモデリングしました。

▲以降で紹介する画像は、KCF17の本戦でのプレゼンテーション用に今川氏が制作したスライドだ。上の2枚は最初にモデリングされた探査船で、しんかい6500という実在する深海探査船を参考にしている。「表面のディテールは軍用装甲車をイメージしました。深海は光の届かない暗い世界なので、探査船全体にライトを取り付けてあります」(今川氏)


▲間抜けさと不気味さが共存した、印象的な顔の深海魚。「実際の深海魚を調べてみると、地球の生物とは思えないもの、人のような顔をしたものなど、本当に様々な外見でした。本作の深海魚は、『未知の生物』だと感じさせる意外性をもたせつつ、魚らしさも残したデザインにしています。ディテール表現では、パソコンパーツやカメラといった身の回りにある小さな機械のスケール感を参考にすることで、『小さな魚』という設定が伝わるよう心がけました」(今川氏)


▲巨大感を出すにあたり、『スター・ウォーズ』に登場する巨大戦艦を意識したというクジラ。「実際のクジラの形をもとに3ds Maxでスプラインを生成し、全身のシルエットを形成しました。それに沿って脊柱と肋骨をつくった後、ディティールを加えています」(今川氏)


▲背景の岩の凹凸は、プリミティブを組み合わせてつくったモデルに対して、NoiseモディファイヤとSmoothモディファイヤを繰り返し適用することで制作している。「インターネット上で無料配布されていた岩を生成するスクリプトの内容を見てみたら、この方法でつくられていたので参考にしました」(今川氏)


C:制作スケジュールを見ると、3ヶ月未満で全てのモデリングを終えており、手の速さに驚きます。

今川:ハードサーフェイスは過去につくったモデルのパーツを流用しやすいのに加え、UV展開も比較的簡単です。つくればつくるほど、1体にかかる制作時間は短くなるように思います。

3月にはバンクーバーのVFXスタジオを見学するため、カナダに行きました。インターンシップ先のCGプロダクションや、KCF16の本戦で知り合ったプロの方々に紹介していただき、3日間でSony Pictures ImageworksMPCDouble Negativeを訪問したのです。現地で働く日本人との食事会も開いていただき、リアルな話を聞くこともできました。バンクーバーのVFXスタジオでは、1つのプロジェクトが終わるたびにチームを解散するため、輝かしい経歴の人たちがいる一方で、仕事を探している最中の人たちもいました。実力勝負の厳しい世界だと知り、そこから「弱肉強食」という『THE SEABED』のテーマを思い付いたのです。

C:濃密な経験をなさっていますね。

今川:バンクーバーでコンポジットの話をしていたとき、「コンポジットを極めたいなら、実際のカメラも勉強した方が良い」というアドバイスをいただいたので、帰国後に一眼レフカメラを買って実際の撮影も始めました。レンズのちがいによる画の変化、ノイズの入り方など、すごく勉強になっています。ハリウッドレベルの壮大な空気感を表現するため、気になるVFXショットを真似してみたり、実際の風景を観察したり、写真に撮ったりして、試行錯誤を続けています。

フィードバックを受け、深海らしさと見やすさが両立する画づくりを目指す

C:帰国後は、バンクーバーでの経験を起爆剤にして、ショット制作に取りかかったというながれでしょうか。

今川:はい。ライティングやアニメーションが終わったショットからレンダリングをやりつつ、並行して別のショット制作も行いました。コンポジットにはNUKEを使っていますが、レンズフレアなどの一部のポストエフェクトではAfter Effectsも使っています。最後の動画編集にはPremiereを使いました。

5月中旬には全工程が終わったので、制作期間は約4ヶ月半です。その後、7月7日に予選通過の案内と作品へのフィードバックをいただき、7月30日の本戦用データ提出締切に向けて、後半のカットをつくり直しました。

C:どのようなフィードバックをもらったのでしょうか?

今川:「深海魚やクジラの動きにメリハリを付けた方が良い」というフィードバックをいただきました。最初に送ったバージョンは全ての動きがゆっくりしていたので、後半のカットのアニメーションに速い動きを追加して、レンダリングもやり直しました。

もう1つ、「全体的に暗くて見づらいので、何を見せたいのかはっきりさせた方が良い」というフィードバックもいただいたのですが、こちらの対応には苦労しました。単純に明るく見やすくしてしまうと、深海らしさが損なわれ、浅い海のような印象になってしまいます。ライトの当て方を変えたりPremiereで色味を調整したりして、深海らしさと見やすさが両立する画づくりを目指しました。

それらと並行してプレゼンテーション用のスライドやメイキング映像もつくっていたので、この時期は非常に慌ただしかったです。

▲コンポジット工程での調整内容。NUKEとAfter Effectsを使い、実際のカメラで撮影した場合の現象を再現することで、画面にリアリティを与えている


▲NUKEを使い、深海を照らす調査船のボリュームライトを表現している。「NUKEのTrackerノードを使い、3ds MaxのSelf Illuminationのパスの動きを解析し、VolumeRaysノードのcenter pointにエクスプレッションでリンクさせました。アルファを使ってパーティクルを合成することで、ライトの範囲内だけ塵が光る演出を加えています」(今川氏)


▲深海を舞う塵はNUKEで表現している。「NukepediaというWebサイトで配布されているTX_FogというGizmosを使い、塵を表現しました。TX_Fogは、3D空間上にノイズを適用した平面を何枚か並べることで、疑似的な3D空間を表現するGizmoです。サイズやコントラストなどを調整し、細かいノイズをつくりました。これを3ds Maxのシーンデータから出力したカメラで撮影し、奥行きのある空間内の塵を表現しています。加えて、ゆらゆらと舞う様子を表現するため、NUKEに標準搭載されているNoiseノードでUVをつくり、 IDistortノードで動きを付けました」(今川氏)


▲3ds Maxのレンダリング時のパスと、NUKWのノードツリー


▲『THE SEABED』のメイキング映像


C:KCF16の本戦での経験が、KCF17の準備に生かされたのではないですか?

今川:そうですね。前回の経験を踏まえ、時間配分やプレゼンテーションのやり方を考えました。持ち時間の最後にメイキング映像を流したかったので、その余裕を残して話を終えられるよう、すごく意識しましたね。

C:持ち時間を過ぎると強制終了ですからね(苦笑)。最後に、2年連続のKCF本戦出場は今川さんにとってどんな価値があったか、聞かせていただけますか?

今川:1回目の出場前はすごく緊張していましたが、同年代のレベルの高い人たちが集まっていて、仲良くもなれて、後々まで続くつながりを得ることができました。本戦後の懇親会では、審査員の方々とも近い距離で話ができ、実際にハリウッド映画制作に携わってきた田島さんや、北田栄二さん(twitter.com/eijikitada)との面識ができたことも嬉しかったです。

C:お話いただき、有難うございました。今後も新作ができたら、ぜひTwitterで紹介してください。

▲今川氏の最新デモリール。インターネット上で無料配布されている実写の映像素材を使い、数秒のVFXショットをいくつも制作している。「最近は大学の講義がないので、ほとんどの時間をパソコンの前で過ごしています。今はほかのことには興味がなく、僕の部屋にはパソコンとベッドしかありません(笑)」(今川氏)





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

記事が気に入ったらシェアしよう!

New Post最新の記事はこちら

Ranking今週の人気記事

Findキーフレーズから探す

Top