2018.08.23 Thu

フォトリアリスティックな恐竜たちを8Kで描く、BSプレミアム『これが恐竜王国ニッポンだ!』

NHKスペシャル『生命大躍進』(2015)を皮切りに、フォトリアルな動物VFXをコンスタントに手がけるNHKのVFXチームが8Kプロジェクトに挑戦。表現としてのクオリティを高めつつ、フルHDの約16倍という圧倒的なデータ負荷をどのように克服したのか。その取り組みを追った。



※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 241(2018年9月号)からの転載となります。

TEXT_大河原浩一(ビットプランクス
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada



NHK BSプレミアム『これが恐竜王国ニッポンだ!』

8月29日(水)午後9:00
※4Kと8Kでも放送予定(放送日は未定)
REDのHELIUMで8K撮影。大島での水中撮影や、山口・千葉でのRONINやドローンを使った撮影で太古の恐竜世界を再現。
www6.nhk.or.jp
© NHK



4Kの約4倍、フルHDの約16倍
圧倒的な高解像度、大容量への挑戦

NHKスペシャル『生命大躍進』(2015)やスーパープレミアム スペシャル時代劇『荒神』(2018)など、ドキュメンタリーやドラマ作品を通じてフォトリアルな生物表現にチャレンジしてきた松永孝治VFXスーパーバイザーを中心としたNHKのVFXチームが、8月29日(水)放送予定のBSプレミアム『これが恐竜王国ニッポンだ!』で再び太古の恐竜世界のリアルな再現に挑戦している。


■ 前列:左から、浅山文秋氏、田中朝幸氏、石川善一郎氏、松永孝治VFXスーパーバイザー、日髙公平氏、舟山美稀氏、古川泰行氏/■ 後列:左から、加藤晴規氏、北川茂臣氏、安藤隼也氏、加藤久典氏、早坂 渉氏、中島中也氏、渡部辰宏氏。以上、NHK


BSプレミアムでの放送はフルHD解像度だが、実は年末から始まる「4K・8Kスーパーハイビジョン」本放送への試金石として、一連の制作が8Kベースで行われた意欲作だ。8K(W7,680×4,320)は、4Kの約4倍、フルHDの約16倍という、圧倒的な高解像の情報量なのは衆知のとおり。「4KベースのVFXはいくつも手がけていますが、8Kベースは初めて。世界的にも類を見ないので、絶好の機会だとチャレンジしました。ただし、フォトリアルな画づくりを実践する上では、レンダリングコストを厳密に管理することも徹底しました」と、松永氏はふり返る。中核スタッフの多くが、今年2月17日に放送された『荒神』プロジェクトからシームレスに携わっている。これまでと同様に、キャラクターモデルの制作やアニメーションは外部パートナーの協力を得つつ、NHK内では全体のディレクションとVFXカット制作を手がけるという体制が構築された。8KベースのVFX制作では、想定外の課題も多く発生したという。その典型が、8KサイズのDPXファイルは大容量のため、NUKE上でのプレビューに時間がかかることや、レンダーサーバでレンダリングを回した際、ネットワークの負荷が高くなり、他プロジェクトにも影響を与えるなどという問題だ。最終的に4Kにダウンコンバートした上で再生しながらブラッシュアップを重ねるというワークフローが採られた。「本作でも、画づくりでは"目の前に存在するものを撮影している感じ"を追求しました。8Kになると臨場感が格段に増すのが確かな魅力ですね」(松永氏)。

Topic 1
モササウルス、アンモナイトたちが暮らす海中世界

1枚のレンダリングに最大2時間フィッシュボール(魚群)

本作で制作されたVFXショットは、モササウルスやアンモナイトが棲息する海中世界と、むかわ竜などが棲息する陸上世界に大別される。まずは、海中世界の表現でも見どころとなる最大で体長11mに達すると言われる巨大海棲爬虫類モササウルス、最大で14.6万匹の魚で構成されるフィッシュボール(魚群)の表現を中心に紹介したい。今回実写素材と最終コンポジットは8Kだが、3DCG素材についてはレンダリングコストを考えて4K解像度で作成されている。登場する恐竜たちのモデルは、2017年10月頃から制作を開始(一部のキャラクターは、過去プロジェクトのアセットをそのまま流用することができたという)。

筆者が特に感心させられたのが最大で15万匹近い数の魚で表現されたフィッシュボールだ。プランニングの段階では、実際のフィッシュボールを撮影してCGを合わせるということも検討したそうだが、実写の魚群と、モササウルスをはじめとするCGキャラクターとのインタラクションが難しいという結論に達し、3DCGが選ばれたという。フィッシュボールのエフェクトは、ターゲット(魚群のリーダー)となる数匹の魚のアニメーションを森江康太氏が率いるMORIEが作成し、そのアニメーションデータをHoudiniでパーティクル化してシミュレーションしたものをHoudini ENGINEで出荷。そのデータをMayaに読み込みParticle Instancerで展開し、レンダリングするというワークフローが採られた。このフィッシュボールのエフェクトをリードしたのが、北川茂臣氏だ。「ご覧いただければおわかりのとおり非常にチャレンジングな表現なので、北川くんにはプロジェクトが正式にスタートする前からR&Dに着手してもらっていました。まずは数百匹規模でシミュレーションさせてみたところ、手応えを得たので、それをベースに本制作を進めていきました」(松永氏)。このフィッシュボールのレンダリングには、レンダレイヤーだけで1フレーム2時間程度も要したそうだ。

そのほかにも、水中感をどのように表現するのかという点もポイントとなったという。モササウルスに落ちるコースティクスの表現やマリンスノーのエフェクトも作成されており、画づくりに多くの素材作成が必要になったが、海中のシーンでは接地の調整やマスク処理などがなかったため、8K解像度でのコンポジットでも予想していたほどの作業ストレスはなかったとコンポジターの加藤晴規氏は語る。

最大で約15万匹のフィッシュボール(魚群)


プロジェクト開始前に行なったフィッシュボールのテスト。球状のものと、移動する魚群を作成(画像は球状)。パーティクルをベースに、図では約10万匹の魚群で構成されている


Houdiniによる魚群のシミュレーション例。10匹程度リーダーになる魚を決め(リーダーとなる魚の動きはMORIEが作成)、あらかじめ動きをシミュレーションしている。他の魚は近くにいるリーダーを追いかけるシミュレーション結果をポイント情報として出力し、アセット化。Mayaへのデータの受け渡しにはHoudini ENGINEが利用された。単にデータを受け渡すだけではなく、シミュレーションのバージョン管理やカットごとの細かな調整等も、アセット内で行えたので重宝したという


ブレイクダウン

Maya上でHoudiniから書き出したパーティクルのキャッシュを取った状態。ポイントの位置に魚が配置される

MayaのParticle Instancerで魚を配置。表示が重いため、バウンディングボックスとして表示



全てのキャラクターのレイヤーがレイアウトされた状態

コンポジットでカラーコレクション、CGのレイを足した状態



最終のレンダリングイメージ



アニメーションテクスチャによる、コースティクスの表現

水面から差し込むライトシャフトやキャラクター表面のコースティクス効果は、Mayaで作成した各種AOVをコンポジットワークで加工・調整している


一連のコンポジット処理を施した完成形

【左画像】から、水中表現のライトシャフトとコースティクスを外した状態



コースティクス素材

ライトシャフト素材



水中表現の素材には、aiGoboを適用したスポットライトを使用。ライトシャフトは、aiAtmosphereVolumeにスポットライトを当てて作成している


Mayaのパースビューでスポットライトを見た状態


aiGoboで使用している連番テクスチャ素材の例。「連番テクスチャは、アニメーションしている水面のようなテクスチャです。連番テクスチャには動きのスピードを変えたもの3パターンを、RGBの各チャンネルに入れることで、1つの素材で3種類のスピードを出力し、コンポジット工程でプレートの水面のスピードに合わせて選ぶようにしました」(加藤氏)



Topic 2
むかわ竜やティラノサウルスが暮らす陸上世界

高解像度、高精細を活かしたVFXのあくなき追求

続いては、むかわ竜やティラノサウルスが登場する陸上世界。8K映えする表現とはどのようなものだろうかと考えた末に、800頭を超える恐竜で構成された群衆表現へのチャレンジが決まったという。実写素材はRED HELIUMで撮影(先述の海中シーンも同様)。「8K解像度になるとちょっとした現代物の消し込みだけでも非常に時間のかかる作業になってしまうので、山口県宇部市にある海岸で行われた撮影には、われわれVFXチームも現場に立ち会って映り込みやバレものに対して入念なチェックをしながら撮影を進めていきました。HDRI素材もなるべく細かく撮影するようにしています。8KだとHDRのダイナミックさをよりダイレクトに活かせることが魅力ですね」と、日髙公平氏はふり返る。

800頭を超える恐竜の群衆シーンは、まず20~30秒程度の汎用モーションを作成し、使用する際には各恐竜のタイミングをオフセットして適用していった。むかわ竜については、汎用モーションが8パターン作成されている。800頭の恐竜を海岸線にレイアウトする作業には、Arnorld Scene Source(ASS)を活用。この物量では、恐竜を1頭ずつ配置するのは物理的に困難なため、自動配置できるしくみが構築されたが、自然なレイアウトを求めて最終的には手作業による修正も重ねたという。さらに、恐竜たちが棲息している場所が海岸線の砂地ということで、歩行する恐竜の足跡や緩やかな起伏のある地表への接地など、難しい処理が多く求められたという。足跡については、NUKEのパーティクルで足跡を配置し、エンボスフィルタを使って立体的に見えるように調整。「Houdiniを使うことも考えたのですが、コンポジットワークで対応した方が手早く行える表現については、NUKEで作成しています。個人的にNUKEのパーティクルを初めて使用したのですが、とても使いやすかったので今後も活用したいですね」と、加藤氏。微妙な高低差のある地表とのマッチムーブはNUKEX、PFTrackSynthEyes等を使用し、結果の良いものを選択して使っているが三次元情報を形状化できないような場合は手作業で合わせているとのこと。「8Kだと実写の砂の粒が見えてしまったり、4Kに比べるとエフェクトと実写の馴染みなども大変になってきます。時にはトリッキーな手法など、目指す表現に応じて臨機応変に対応することが不可欠」とは、北川氏。また、ワークフローの構築やライティングをリードした渡部辰宏氏は次のようにふり返る。「8Kコンテンツは、しっかりやっただけ、その成果が表れてきます。裏を返せば"誤魔化しがきかない"ということを痛感しました」。

大小様々な数百頭から成る恐竜たちの群れ

群衆カットのブレイクダウン


完成形



実写プレート。8Kセンサーを搭載したRED HELIUMで撮影、3軸制御のジンバルシステム「DJI Ronin」が併用された

レイアウトとアニメーション。奥のボックス(赤色)は汎用モーションを.assファイルでエクスポートしてstandInに読み込み、フレームオフセットを付けて配置



影と映り込み素材

Houdiniで作成したエフェクト素材をAlembic形式でMayaに書き出してレンダリング



【影と映り込み素材】に恐竜を合成

水飛沫エフェクトを合成した状態



汎用モーションの.assファイルをstandInに読み込み並べた例。配置作業を効率良く行うため、各キャラがどれくらい動くかを表した矢印型のコントローラが取り付けられている

standInを実際に配置したMayaシーン。赤色のオブジェクトがstandIn。数や位置などはカット作業時に何度もブラッシュアップが重ねられた

植物を食べるむかわ竜 ~実写素材の活用~

本プロジェクトでも適宜実写素材を活用することでクオリティと作業効率の両立が実践されている



実写プレート。むかわ竜の口と木の接触部分のインタラクションを、実際に棒でアナログ的に行なっている

プレートに合わせて地形データを作成



キャラクターアニメーションを作成

むかわ竜本体をレンダリング



影素材をレンダリング

一連のコンポジットワークを施した完成形



実写プレート

Houdiniによる砂エフェクト



砂素材をMantraでレンダリング

恐竜のアニメーション



恐竜と砂を合成

カラコレなど一連のコンポジット処理を施した完成形

臨場感を高める波飛沫 ~モササウルス~



波打ち際に近づいた子供のむかわ竜を捕食するモササウルスのカット。波飛沫エフェクトは、HoudiniのFLIPシミュレーションで作成された。アップになるカットは、WhiteWater(白波)をメインに作成。FLIPシミュレーションでは解像度を抑え、その代わりに2次シミュレーションの白波を生成することでパーティクル数を増やし、解像度を稼いでいる。メッシュ化した水は解像度感が緩く8K制作には堪えられないが、白波は比較的短いシミュレーション時間で生成可能であることに加え、数を増やすのも比較的容易なため8Kにも対応できたそうだ。また、質感についてはボリュームのスペキュラ素材を作成することで、水らしさを高めている。ただし、この手法はモササウルスが暴れているという設定だからこそ有効だったとのこと



月刊CGWORLD + digital video vol.241(2018年9月号)

月刊CGWORLD + digital video vol.241(2018年9月号)
連載「アニメCGの現場」にて『詩季織々』CGメイキングを掲載! 定価:1,512円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2018年8月10日

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