2018.06.08 Fri

真の意味で生身の役者と共存できるデジタルヒューマンを創り出す~映画『いぬやしき』が目指した新時代のVFX

俳優の演技に別の俳優、例えば亡くなった俳優の顔を差し替えて演技をさせることがハリウッド映画で多く見られるようになった。この「デジタルヒューマン」を日本映画ではいち早く導入した映画『いぬやしき』。土井 淳VFXスーパーバイザーにそのこだわりを聞いた。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 238(2018年6月号)からの転載となります


TEXT_石坂アツシ / Atsushi Ishizaka
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、UNIKO



映画『いぬやしき』予告編
© 2018映画「いぬやしき」製作委員会
© 奥浩哉/講談社



長年にわたり培ってきた実写班とVFX班の信頼関係

頭が割れて中から精巧な機械が現れる。無機質なメカの光沢とは裏腹に、半開きの顔は狼狽しながら自分の身体を見渡している。





奥 浩哉の大ヒットコミック「いぬやしき」は、ある日突然機械の身体に改造されたサラリーマン・犬屋敷壱郎(木梨憲武)と高校生・獅子神 皓(佐藤 健)のふたりをめぐる物語で、人類を破滅させられるほどの威力をもつ機械兵器の身体と、これまで通りのナイーブな人間の心との葛藤が大きな魅力だ。そして、そのコミックを実写映画化した本作でもまた機械と人間の描かれ方が魅力のひとつであり、映像においてはCGと生身の体のマッチングが最大のポイントになっている。したがい、制作の早い段階からカット内における実写とCGの振り分けが必要だったという。

「どこまでを実写でやるか、どこからをCGに置き換えるのか......まずは撮影手法の検討から着手しました」と、本作のVFXスーパーバイザーを務めた土井 淳氏(デジタル・フロンティア)は語る。機械が露出した後も生身の人間としての演技を保つ手法として、本作では犬屋敷についてはデジタルダブルではなく、よりリアルな人間の様態を描写できる「デジタルヒューマン」テクノロジーの導入が当初から決まっていた。しかし、画づくりにおいては実写撮影と3DCGのバランスが重要。もちろん作業期間や予算との兼ね合いもある。本作のVFXワークをリードしたデジタル・フロンティア(以下、DF)と佐藤信介監督は、『GANTZ』(2011)を皮切りにコンスタントにタッグを組んできているが、そんな佐藤組にとっても過去最大のチャレンジとなったのは想像に難くない。



左から、土井 淳VFXスーパーバイザー、鈴木伸広CGプロデューサー、吉井博之プロダクション・マネージャー、矢山広祐プロダクション・マネージャー(以上、デジタル・フロンティア)



デジタルヒューマンを盛り込んだリアルなVFXをいかにして創り上げていったのか、時系列で追ってみよう。まずは、アセット制作と並行して絵コンテをベースにアクション監督を務めた下村勇二氏率いるチームがビデオコンテを作成。これはワイヤーアクションも含む練り込まれたもので、佐藤監督以下スタッフが検証して、実際に撮影するアクションとCGで作成するアクションの振り分けを行なった。戦闘シーンでは機械の身体の破損表現も含まれているため、そういった部分でも実写かCGかの細かい判断が必要だ。「それでもビデオコンテで読めていない部分が現場で発生しました」と、土井氏。結果的に、現場で「ここはCGを挟み込みましょう」という箇所が増えていったという。



メカ質感のリファレンス撮影を行う土井氏



ビデオコンテでは後半の見せ場となる空中戦シーンの作成が不可能だったので、その部分はDFが新宿の都市スキャンデータを使いプリビズを作成した。絵コンテには空中戦でどのようなことをやりたいかが描かれているだけなので、土井氏は新宿の地図を見ながら空中戦のルートを考え、実際にそのルートのロケハンを実施。新宿の街を全てCGにすることは決まっていたが、地上からカメラ撮影したカットを挟み込んだ方がよりリアルな戦闘シーンになると考え、制作部が調べた撮影できそうな場所と合わせてルートを検討したという。ビデオコンテとプリビズに基づくシーン検討の後、いよいよ撮影に入る。



デジタルヒューマンに見る日本映画の未来



スタジオ撮影にて、犬屋敷を演じる木梨憲武に演出意図を説明する佐藤信介監督



モーションキャプチャとフェイシャルキャプチャはクランクアップ後に行われた。一連のモーションキャプチャで気をつけたのは、犬屋敷と獅子神というふたりのキャラクターの動きのちがいだったという。例えば、機械の身体に慣れて飛行も自在の獅子神に対して、犬屋敷の飛行はおぼつかず手足をバタつかせる。リアルな人肌やメカの造形や質感を詰めるのと同時に、そのリアルに人間としての感情を込めるためのつくり込みがアニメーション以降の工程へと継承されていった。



デジタルヒューマンショットの撮影。トラッキングの精度を高めるべくターゲットマーカーが新作された



フェイシャルキャプチャはアフレコ収録と同時に実施。アフレコはプリビズの映像を見ながらシーンごとに収録するため、フェイシャルキャプチャもシーン単位で一気に行うことになる。Paul Debevec/ポール・デベヴェック氏が率いるICT(USC)が開発したLightStageによるスキャンデータを基につくり込んだ精巧な犬屋敷役の木梨憲武の顔。それに本人の芝居のフェイシャルキャプチャを充てるので、リアルさは保証されている。はずであった......「ほんの一瞬の表情ですが、『木梨さん本人との違和感を感じます』と監督に言われてしまうことがあったのです。最終的に手付けで細かな修正を行う必要もありました」と、土井氏は苦笑いする。造形としても動きとしても役者本人のキャプチャデータを用いていてもわずかな差が違和感につながってしまったわけだが、こうした経験は確実にリアルなCG描写の礎となり、その結果、本作でのデジタルヒューマンは単に技術としてだけでなく、ストーリーテリングの面においても効果的に機能していることはまちがいない。



台湾のNex Animation Studioが所有するLightStageにおける3Dキャプチャの様子



「機械の身体になってしまった自分に慌てる犬屋敷をはじめ、表情をしっかり見せるシーンがいくつか登場するのですが、それらのフェイシャルが上手くいったら今回のデジタルヒューマンは成功かなと思っていました。『いぬやしき』では、LightStageの導入やパイプラインの刷新など、あらゆる意味で新たなチャレンジに取り組むことになりました。ですが、その一方ではリアルな人間描写の奥深さを痛感することにもなりました」と、土井氏は語る。



映画『いぬやしき』
全国東宝系にて公開中

<キャスト>
木梨憲武 佐藤 健
本郷奏多 二階堂ふみ 三吉彩花
生瀬勝久  濱田マリ 斉藤由貴 伊勢谷友介

<スタッフ>
原作:奥 浩哉「いぬやしき」(講談社「イブニング」所載)/監督:佐藤信介/脚本:橋本裕志/音楽:やまだ 豊/プロデューサー:梶本 圭、甘木モリオ/撮影監督:河津太郎/美術監督:斎藤岩男/CGプロデューサー:豊嶋勇作、鈴木伸広/VFXスーパーバイザー:神谷 誠、土井 淳/GAFFER:小林 仁/ポスプロプロデューサー:大屋哲男/VFXプロデューサー:道木伸隆/DIプロデューサー・カラーグレーダー:齋藤精二
製作:映画「いぬやしき」製作委員会
制作プロダクション:シネバザール
配給:東宝
inuyashiki-movie.com

改訂版 月刊CGWORLD + digital video vol.238(2018年6月号)

第1特集:Unity 2018最新事情
第2特集:映画『いぬやしき』

定価:1,512円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2018年5月24日

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