2018.05.16 Wed

彫刻家出身のデジタルアーティスト、ルイジ・オノラが実践するiMac Proを活用した映像制作術


iMac Proのプロモーションとして、6人のプロフェッショナルたちがiMac Proで制作したショートムービーがAppleの特設サイトで公開されている。その中の1人として作品が紹介されたのが、フランス出身のアーティスト ルイジ・オノラ/Luigi Honorat氏だ(以下、ルイジ氏)。武蔵野美術大学で彫刻を学び、現在は母校である武蔵野美術大学で講師をしながら日本を拠点に活動しているルイジ氏に、iMac Proによる作品づくりについて、話をうかがった。


TEXT_安藤幸央(エクサ) / Yukio Ando(EXA)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_山田桃子 / Momoko


iMac Pro -- Artist Films Trailer -- Apple


iMac Pro -- Luigi Honorat Artist Film -- Apple

<1>3DCGを独自に勉強した後、日本で彫刻を学ぶ

――最初に、ご自身の経歴についてご紹介ください。

ルイジ・オノラ氏(以下、ルイジ):もともと3DCGを独学していたのですが、3DCGだけではもの足りなくなってきたため、武蔵野美術大学に入学し、彫刻の勉強をはじめました。当初の計画としては、少し彫刻を勉強して3DCGに戻るつもりだったのですが、けっきょく6年間も彫刻を学び、3DCGと彫刻の両方を続けています。また、現在は武蔵野美術大学で、彫刻を教える講師をしています。

――iMac Proのショートフィルムを制作することになったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

ルイジ:米国Appleの担当者から「一緒に何かできないかと思ってるが、興味はあるか?」という連絡がありました。彼らは、私のInstagramに投稿されている3DCG作品を見て「何か新しい作品をつくりたくない?」とオファーしてきたようです。私は少し考えてから「OK」と返事をしました。


Luigi Honora氏のInstagramより
@luigihonorat


ルイジ:以前、Instagramに1日1作品、オリジナルの映像作品をアップロードし続けていたことがありました。そのときに制作していたシリーズをAppleのために、さらにスケールアップして大きな作品にできそうだと考えたのです。いつもはInstagramに投稿していた作品の環境を拡張して、iMac Proの新しい環境でつくってみようと考えました。音楽はイギリスのユニット マッシヴ・アタックのものを使用し、制作ツールはSide EffectsのHoudini、レンダリングはSolid AngleのArnoldを使っています。

――以前から、SNSでの作品発表を積極的に行なっていたのですか?

ルイジ:いえ、2017年より前はそれほど作品を公開していませんでした。アーティストのポートフォリオ作品紹介サイトとしてよく使われるBehanceも全然使っていなかったほどです。ところが、2017年の6月からInstagramを使い始め、毎日1つずつ、3DCGの作品動画を投稿し始めると、そこから様々な仕事のオファーが増えていきました。今回のAppleからのオファーも、Instagramのおかげだと思っています。

Behanceの場合、見ているのはほとんどプロフェッショナルな人達ばかりなのですが、Instagramなら、普段3DCGに興味のない人にも見てもらうことができます。マーケッターから一般の人まで、多くの人がInstagramで興味の惹かれる作品を探しているのです。ちなみに自分自身は、3DCGを独自に学んでいるとき、CGTalkをよく見ていました。

<2>彫刻をつくる時の制限を、あえて3DCGにもち込む

――作品づくりの際に心がけているのはどんな点ですか?

ルイジ:Appleのサイトに「Behind the Scenes(メイキング)」の映像があるのですが、このメイキング映像のために長い時間、撮影した中で、一番多く時間を割いて説明したのが「作品づくりのリミテーション(制限・制約)」についてです。

彫刻をつくる場合、素材の制限や技法の制限、空間の制限や限界を考えなくてはいけませんが、3DCGはとても自由でなんでもできます。ところが、作品をつくるときに自由すぎると、逆に何もつくれないのです。ですから、3DCGで作品をつくる際もあえて私は自分でリミテーションを設定して、その点を考えながら制作します。彫刻のリミテーションには、人間のスケール、存在する空間の制限、一種類の素材だけでつくる、人の手でつくれる形しかつくれないといった具合に、無意識ながらも様々な制限があります。私はこうした彫刻のリミテーションを踏まえ、今回の作品でも「本物の彫刻だったら、どんな風になるだろうか」ということを意識しながら、作品をつくり上げました。


iMac Pro -- Luigi Honorat Behind the Scenes -- Apple


――3DCGツールは、どんなものを使っていますか?

ルイジ:最初はMODOで形をつくることを学びました。その後、ZBrushを勉強し、最近はHoudiniに移行しています。Houdiniのプロシージャルモデリングがとても面白く、現在は遺伝的アルゴリズムを活用してたまたま出会う形状など、幸運な偶然性にとても興味があります。

MODOやZBrushによるモデリングでは人間が考えてつくる形を、Houdiniでは自然が生み出す形をつくっているという感覚があります。また、Houdiniで設定する数式やアルゴリズムのおかげで、自分のクリエイティビティが高まっている感じもしています。つくる前から結果がわかっているわけではなく、何かを発見するために制作し続けているという感覚です。


■ルイジ氏の主な使用ツール
Canon EOS 5D Mark III、Adobe After Effects、Adobe Creative Cloud、Arnold、Houdini、MODO、PTGui Pro

<3>講師として、様々な学生たちと触れあう

――大学ではどのようなことを教えているのですか?

ルイジ:武蔵野美術大学では、主に彫刻学科で教えています。担当している授業は入門的な内容で、前期はMODOやZBrushを、後期はHoudiniを勉強します。彫刻や建築、ファッションなど、多種多様な学科から学生がやってくるので、彼らから様々なアイデアを聞くのがとてもおもしろいです。ひとつ残念なのは、自分の講義はレポートが中心なので学生たちが個別に制作している作品を見られない点ですね。

授業では、シミュレーション、プロシージャル、デジタルスカルプティングなど様々な手法を取り上げています。昨年はZBrushアーティストとして有名なScott Eaton氏を招いて、一週間のワークショップも開催しました。

<4>日本のゲーム、漫画、アニメ作品への興味

――日本に興味をもったきっかけは?

ルイジ:日本に来る前から日本が好きで、中でも『メタルギアソリッド』シリーズの監督 小島秀夫さん、アートディレクターの新川洋司さんの影響をとても受けていると思います。なので、14・15歳のころはゲームの仕事がしたかったんです。『メタルギアソリッド』や『シェンムー』のようなゲームをつくりたいと思っていました。

その頃はメガドライブから初代PlayStation、PlayStation 2への進化を見て、10年後、20年後にゲームがどう進化していくのか、想像するのが楽しかったですね。けれども現実には想像と異なり、興味の対象がどんどんゲームから離れていきました。今でも遊んでいるゲームは、唯一『メタルギアソリッド』シリーズだけです。

最近はAR/VRのおかげで、新しいメディア、新しい表現が可能になり、子供の頃に想像した未来に戻ってきたような気がしています。もともとはゲームのテクノロジーだったものをゲームのためではなく、研究や物事の発見などにも使われるようになってきて、今はそれらに興味をもってきています。

ほかの作品では、日本に来る前に読んだ『AKIRA』、『攻殻機動隊』、『カウボーイビバップ』などが好きでした。日本に来てからは忙しくてほとんど読めていませんが、最近だと......と言ってもずいぶん前になりますが、劇場長編アニメーション『鉄コン筋クリート』(2006)は良かったですね。


Luigi氏の本棚。『AKIRA』、『攻殻機動隊』など日本の漫画も並ぶ

<5>iMac Proによる作品づくり

――お使いのカメラ機材について教えてください。

ルイジ:Canonの「EOS 5D Mark III」と、フィッシュアイ(魚眼)のレンズを使っています。HDRパノラマ写真を撮影して空間そのものを記録し、その素材をもとに3D空間を構築するのです。リモコンを使って1回のシャッターで絞り(露光)を変えながらHDR用に5枚撮影できるようにしています。パノラマ写真のほかには、フォトジオメトリや、粘土でつくったものをスキャンして使うといった用途にカメラを用いています。カメラそのもののスキルはあまりなく、写真撮影の趣味もありません。



ルイジ氏の所有する「EOS 5D Mark III」、魚眼レンズ、HDR撮影用のリモコン

――iMac Proを使ってみた感想を教えてください。

ルイジ:iMacを使うのは初めてでしたが、電源をつないだら終わり......というくらい設定が簡単でした。現在、10コアのマシンを使っていますが、モニタが素晴らしいのと、GPUのスピードが速い点が気に入っています。

ひとつ気に入らないのはマウスで、標準のマウスにはミドルクリックがないのです。3DCGソフトはミドルクリックを多用するものが多いので、少し不便です。それ以外はとくに不満はなく、アーティストにとってベストなマシンだと思います。なによりスピードが速いことは、作品づくりにインスピレーションをもたらしてくれます。デザインやmacOSがミニマルにできているおかげで、作業に没入できるのも良い点だと思います。

現在はiMac Pro上でArnoldレンダラを使っていて、とても気に入っています。パスシステムがとても強力な点と、トレースセットのシステムが良いですね。トレースセットのおかげで、HDRパノラマ素材をスペキュラに使う設定がとても便利です。また、パノラマ撮影した素材に対してテクスチャベイクを施したり、Photoshopで修正したりすることもあります。



ルイジ:HDRパノラマ撮影した環境を3DCG内に構築する際は、バックプレート(レンダリングのために配置した仮の板状のオブジェクト)などは使わず、実際に空間を構築して、その中に彫刻のようなオブジェクトを配置しています。空間をつくるのは面倒ですが、バックプレートとちがってカメラの自由さがあり、移動の自由さがあります。なのでコントロールができるように、オブジェクトを配置するための部屋を丸々3D空間につくってしまうのです。この手法だとOctaneRenderでもArnoldでも、自然に見えるような雰囲気をつくりやすいです。

<6>日本のデジタル・アーティストへのメッセージ

ルイジ:最近はInstagramが人気ですが、日本人アーティストはそれほど活用していないのがとても残念です。アメリカ、フランス、イギリスに住む人の中には日本のことを好きな人が多いのですが、情報があまりなく、日本のことをまだまだわかっていない気がします。日本のアーティストのことを、世界中の人がもっと知りたいと思っているのです。だから、日本人アーティストはもっともっとSNSに参加した方が良いと思います。Instagramは言語に関係なく写真や映像を軸に繋がっていけるので、とても良いツールです。

実際に最近、Instagram経由の仕事がとても増えたことにびっくりしています。私がInstagramを始めたのは2017年の6月で、最初はフォロワー数が150程度。Appleから仕事の連絡が来たころは、おそらく8,000フォロアーくらいだったと思います。今でも2万フォロワー程度ですが、それでも面白い仕事が次々にやってくるので、Instagramにはとても感謝しています。

そしてAppleのような大企業が、ひとりのアーティストを信頼してくれたことに、とても感謝しています。今は機材が整ってきてSNSもあるので、小さなグループや個人でも素晴らしい作品をつくり、世界に知ってもらうことができるということを、今回のプロジェクトを通して実感しました。



ルイジ:現在は休止中ですが、毎日1つずつ、映像作品をつくってInstagramにアップしていた頃は、作品制作に毎晩3~4時間かけていました。マテリアルや背景などは毎回同じものを使って、オブジェクトの形だけ新しくつくることで、1日1つの作品をつくりあげることができました。色はたいてい黒か、赤か、金銀とシンプルなものばかりでしたが、Instagramに掲載すると、なぜか赤系の色が綺麗に発色されないので、次第に使わなくなりましたね。

今、考えると、その頃どうしてそんな情熱をもって作品制作を続けることができたのかわかりません。2017年の3月に学校を卒業してアトリエをもちたかったのですがそれが叶わず、そのままの状態が続くと困ると思い、実験的な試みとして始めたことです。私自身のクリエイティビティがなくなるのが一番怖くて、つくり続けました。そのおかげで、今では仕事がたくさん来て、個展の話も舞い込んできています。そう言った意味でも、やはりSNSの活用はおすすめですね。

また、私は常々、3DCGで作品をつくるアーティストは、他の分野の作品もたくさん知った方が良いと考えています。少し極端なことを言うと、アニメの制作者はアニメしか見ていないからです。

私もアイデアが枯渇したとき、様々な分野の作品を見て、ヒントを探しています。たとえば、ZBrushのフォーラムを見ると様々な知識を得ることができますが、それはフォーラムのながれ、雰囲気、知識の中だけにとどまります。なので今後も3DCGだけでなく、彫刻、建築、ファッションにも興味をもって、SNSをもっと活用し、なんでも見て知るということを目指していきたいですね。



「iMac Pro films」特設サイト
参加アーティスト:Buck、Erin Sarofsky、Esteban Diácono、Luigi Honora、ManvsMachine、Michelle Dougherty

www.apple.com/jp/imac-pro/films

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