2018.03.28 Wed

京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科 池田ゼミ×カナバングラフィックスの「CGクリエイター塾」

個性豊かなキャラクター表現に定評あるカナバングラフィックス。同社代表を務める富岡 聡氏は近年、CG制作やコンテンツビジネスに関する講演にも精力的だ。富岡氏にとって、初めての美術大学における講義となった本プロジェクトを追った。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 236(2018年4月号)からの転載となります

information
オリジナル短編アニメーション『ぶたの貯金箱バートン』
制作:京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科/参加学生:池端翔太、中野真佑、満山雄一、荒磯沙也加、井上香奈子、今木雄太、黒木 茜、酒井万梨子、長谷川拓海、林 純菜、日髙 渚、山﨑 彰、山吉 翔/プロダクションマネージャー:池田篤史、富岡 聡/音響:田口雅敏/音楽:DOVA-SYNDROME/協力:カナバングラフィックス

京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科
www.kyoto-art.ac.jp/art/department/character
京都造形芸術大学公式ブログ
www.kyoto-art.ac.jp/production
カナバンCG塾
www.kanaban.com/cgschool

確かなビジネスマインドをもったアーティストを育成するために

2016年度より京都造形芸術大学・キャラクターデザイン学科キャラクターデザインコースで開催された特別授業『京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科 池田ゼミ×カナバングラフィックスのCGクリエイター塾』(以下、CGクリエイター塾)。教壇に立ったのは『ウサビッチ』、『やんやんマチコ』、『イナズマデリバリー』でおなじみのカナバングラフィックス・富岡 聡氏だ。

ことの始まりは、キャラクターデザイン学科長の丹羽貴大氏から「ただのクリエイターではなく、ビジネスに向けてクリエイターを育ててほしい」との依頼に非常に感銘を受けたことにさかのぼる。かねてより、ビジネスマインドをもったCGクリエイターを育ててCG業界全体の活性化を目指してきた富岡氏にとって、「ビジネスとクリエイター」を紐付けた同学科の教育方針は非常に感銘を受ける提案だったという。

富岡氏は日頃より「"CGデザイナーにとって素晴らしいCGしか考えないCGデザイナー"を育てるのではなく、"社会性をもったCG"を考えられる人材を育て、CG業界全体を活性化させていきたい」と語っている。その背景には、専門学校で確実な基礎を身につけるに至らないまま就職し、就職先で基礎的なテクニックを教わりながら日々の作業に追われ、マネジメントや組織、クライアントとの関係性を意識できないまま年月が経ってしまうという事実がある。これは雇用側にとっても大きな痛手となっており、CG業界全体の血流を滞らせている要因のひとつであり、また、おおいに改善可能な部分ではないだろうか。このことに先駆けて富岡氏は、基礎的なテクニックを身につけつつ、マネージングを意識した組織的なCG制作を体系的に体験できる授業を目指してそれを実践した。

今年3月をもって同特別講義が終了となるにあたり、京都造形芸術大学キャラクターコースの生徒たちと富岡氏の2年間にわたる挑戦をここで紹介していこう。

Topic 1
プリプロダクションについての講義

実際の企画資料を交えてわかりやすく、キャッチーに

1年目(2016年度)の取り組みを具体的に紹介していきたい。キャラクターデザインコース・池田篤史ゼミから特別講義に参加した生徒は、2回生、3回生、そして4回生を合わせて20数名。月に1回しか開かれない特別講義の限られた時間の中で、「ひとつひとつの作業を丁寧に積み重ねて楽しくCGをつくる」ことを目標に、1年かけてCGツールの基礎から制作フロー全体のながれを身につける「基礎編」となる。

まず、CG制作の大元となるプリプロダクションからしっかりと体験できるよう、企画書の作り方からコンテンツ制作の過程を学んでいく。クライアントに可能性を感じてもらえるわかりやすい企画書とはどのようなものか? カナバングラフィックスで実際に使用された企画書をサンプルに、学生にとって初めての企画書制作が始まった。

プリプロの授業では、(1)原案制作、(2)キャラクターデザイン・コンセプトアート制作、(3)脚本作業・絵コンテ制作の大きく分けて3つのステップを経験する。1年目の授業では、企画書制作のながれを経験してもらえるよう「ハロウィン」をテーマにしたダミー企画を用意し、授業内でログライン(3行ストーリー)の説明を行い、各学生は課題でログラインを作成。順次、発表していった。「3行という短い文章で確実に面白ければ、映画になっても面白い作品になる」と富岡氏。ストーリーをたくさん考えてアイデアの選択肢を増やすことができる上、読み手の意見がもらいやすく議論もしやすくなるため、挫折しにくく効率的なのだ。実際、2年目の短編制作では学生たちはブレストを通して多くのログラインを作成したが、1年目の授業や課題の経験があったのでスムーズに取り組んでいたという。

原案が決まると次はキャラクターデザインだ。「個人の育ってきた環境に大きく依存するので、作家性のあるキャラクターの描き方については教えることはできません。しかし、物語を魅力的に演出するためのキャラクター設計の手法は押さえておくと良いだろうと考えました。作家性はその上に乗せていけば良いのです」と富岡氏は語り、観客がひと目でキャラクターの状況や背景、性格や職業までわかるよう設計する方法を伝授。個性的でアーティスティックなものではなく、観る人に伝わるキャラクターをいかに「設計」していくか。つくりたいものをつくるだけでは成り立たない「ビジネスとしてのCG制作」を意識しつつ、キャラクターデザインは行われた。脚本作業・絵コンテの描き方では、演出において"状況をいかに説明するか"を学んでもらうため、絵や時間がジャンプすることなくシームレスに繋いでいく手法を『ウサビッチ』制作当時に使用された絵コンテを用いて説明。こういった実際に制作現場で行われている制作フローを現実的なものとして理解した上で、ダミーの企画書制作に取りかかった。

ストーリー構成の考え方

脚本執筆のコツを解説した資料より。ハリウッドで主流の三幕構成とは、どのようなストーリー構造のものなのか。視覚的にもわかりやすくまとめられている

キャラクターデザイン

キャラクターならびに背景(美術)のデザイン要領を解説した資料より。『ウサビッチ』をはじめとするカナバンの代表的な作品の設定画を交えつつ、キャラクターデザインの原点と言える人体三面図の描き方についてもしっかりと解説

デモンストレーション


今回の講義用に富岡氏が作成したダミー企画の企画書と演出コンテより。カナバングラフィックスのアートディレクターたちの協力を得ており、まさにプロのクオリティが「百聞は一見にしかず」で図解されている



Topic 2
CG実技~モデリング、リギング、アニメーション、ライティング~

習得が早い生徒を飽きさせずに脱落者を極力出さない教材とは

池田ゼミでは3ds Maxをメインツールにしているため、次のレベルとしてMayaの習得を目指した。実技の講義では、ラフモデルの制作を通してツールの基礎からしっかりと覚えられるよう、誰が見ても理解できるほどわかりやすいPDFマニュアルを用意。マニュアルは、授業に出られなかった生徒でもきちんと基礎を押さえてついてこられるよう丁寧に順を追って説明されており、またこういったマニュアルの制作は富岡氏がかねてより構想していたアイデアでもあったという。実際、「カナバンCG塾」のWebサイトではCGを学びたい全ての人のために「Mayaインストール編」がすでに無料で配布されており、今後も随時公開されていく予定とのことだ(今回の特別講義で使用されたマニュアルとは別のもの)。

モデリングの講義では、「ツール操作の基礎」、「ハイレゾモデリング」、「UV展開」、「テクスチャ作成」とモデリングのステップをひとつひとつ踏んでツールに慣れていく。Mayaになかなか馴染めない生徒も多かったが、なるべくシンプルに考えられるよう理解のポイントを復習したり、無駄のないモデリングをするための習慣やデータ管理の重要さを知ってもらったりと、基礎をしっかりと固めることに集中した。リギングの講義では、カナバングラフィックスのリギングアーティストがマニュアルを作成し授業を担当。キャラクターセットアップではアニメーションを付ける前の重要なステップであること、「スキニング」ではおおまかに作業してから細部を詰めていくことを意識してもらうなど、次の段階であるアニメーションをスムーズにこなすための効率的な制作を心がけて作業していった。

アニメーションは、基礎でもある「歩き」と「ジャンプ」で重心の制御について学んでいく。「歩き」では腰と背骨の動きが重要であることを自身の身体を使って実感してもらい、重心と背骨の動きを軸にした「生き物の動き」をマスターすることで、ロボットのような不自然な動きになってしまう原因を理解。「ジャンプ」では物理をおさらいしつつ、重心の移動がアニメーションの鍵となることを確認していった。キャラクターを引き立てるライティングに関しては、シーンに合った最適なライトを使いこなせるようMayaで使われるライトの数と特性を理解してもらった。企画書の作成法とMayaによるCG実習をひと通りマスターしてひとまず終了となった1年目の特別講義。「ディレクトリの構造がなかなか理解できなかったり、モチベーションや技術力のちがいがあったりと生徒によって様々でした。CGは難しいけど丁寧につくったら楽しいという気持ちを維持し続けてもらえることを目標に、毎回わかりやすかった部分やわかりにくかった部分をヒアリングして、わかりにくかった部分は補足のマニュアルを追加していました」と富岡氏。カナバングラフィックスによる特別講義2年目「実践編:オリジナル作品制作」へと続く。

モデリング&テクスチャリング

三面図からラフモデルを作成する手順についての解説より。大半の生徒がMaya初心者であることを考慮し、MayaのUIやショートカットなどの基本的な操作についても明記されている

ハイレゾモデリングについての解説より。胴体を例に、メッシュの分割を増やしVertexを引っ張り形状を整えていく手順を図解

(左)planerマッピングを用いたUV展開と編集についての解説より/(右)Photoshopによるテクスチャリングの解説より

リギング

キャラクターセットアップの解説より。1.ジョイント、2.スキニング、3.リギングの各作業手順を視覚的にもわかりやすくまとめられている

アニメーション

歩行のキーフレーム作成についての解説

重心制御についての解説

ライティング

ライティング解説より。大原則となる3点照明について詳しく図解されている

Topic 3
オリジナル短編プロジェクト(グループ制作)

ターゲットの明確化とブレストゴールからの逆算

翌年、2回生と3回生が各々3、4回生へと進級し、総勢14名でスタートした特別講義2年目「オリジナル短編作品プロジェクト」は、30秒から1分のショートフィルムを1年かけて企画・制作し、完成した作品はSNSやYouTubeで発表することとなった。また、Mayaはハードルが高く馴染めない生徒が多かったことから、使用ツールを馴染みのある3ds Maxに変更し気持ちも新たにプロジェクトがスタートした。

富岡氏がマネジメントを引き受けることを前提に脚本・企画は今回もブレストで進められ、提案された多くのログラインの中から『ぶたの貯金箱バートン』が選ばれた。ログラインは「ぶたの貯金箱のバートン、裏で彼は主人のお金を勝手に使っていた。しかし、徐々に主人に怪しまれバートンは逃亡を図る。主人はそれに気づき、トンカチを手にバートンを割りにいく」といった具合で、ここから全員で登場人物の設定や脚本を固めていった。また、組織的なCG制作を体験できるよう14名全員でひとつの作品を制作する方針で、4回生をディレクターに据えて各生徒にそれぞれ役職が割り振られた。さらに各自タスク管理の意識を促すため、実際の制作現場でも使用されるGoogleスプレッドシートを用いて生徒ひとりひとりの作業を工数表で割り振り、随時富岡氏がマネジメントしていく仕様になっている。

実制作はモデラーとアニメーターでチーム分けされ、それぞれのタスクをこなしていく。なお、卒業制作や就職活動で多忙な4回生に配慮して作業は月1回の特別講義の時間に限られて行われたため、絵コンテを描かずにラフモデルを使ったアニマティクスで対応したり、コンポジットは一発レンダリングで対応したりと、省ける部分は極力省いて完成を目指した。このように実際の制作フローに則って制作した『ぶたの貯金箱バートン』は、荒削りながらも無事完成し、彼らの挑戦は終わりを迎えた。今回監督・編集を担当した4回生の池端翔太氏は、「観てくれる人を第一に考え、どうすればより多くの人に広げられるかをみんなで考えてターゲットを絞り企画・脚本を練りました。間口の広さやストーリーのキャッチーさを大切にしてキャラクターの魅力とアクションの面白さといった細かい演出にも気を配って制作しています」とコメント。そして富岡氏自身も多くのものを学んだと話す。「私が見ている風景と彼らが見ている風景が常にずれており、それを理解してマネジメントすることはとても良い経験となりました。私の方が学生たちと池田先生から勉強をさせてもらいました」(富岡氏)。

カナバングラフィックスは「カナバンCG塾」をはじめとする教育事業をさらに本格化させていく模様で、富岡氏は「これからCGを始めたいという全ての人たちに向けて、誰もがわかるマニュアルを配布したり1日体験をしてもらったりと、専門学校やスクールに通う以外の新たな選択肢を提供していきたい」と語り、ビジネスのできるCGクリエイターの育成と共にCG業界全体の活性化を目指していくようだ。

ブレスト

実際に学生たちが実践した、ログラインの作成を通じたターゲッティング。その後のブレインストーミングの履歴をまとめた資料より

アセット制作

学生たちが作成したキャラクターデザイン画

舞台となる部屋の美術設定とイメージボード(学生たちが作成)


富岡氏が考案した本プロジェクト用の「リファレンス(シーン参照)」構造を図示したもの

ショット制作

アニメーション作業のアドバイス



コンポジット&ルックデヴ作業のアドバイス

制作進行と担当作業を個別に管理

(左)ライティング以降の進捗をまとめたカットリスト/(右)学生たちの作業内容をまとめたリスト。毎回の講義に先立ち、必ず用意(更新)していたという。学生たちができるだけクリエイティブワークに注力できる環境を整えることにも心配りがされていたことが窺える

参加した学生たちの声

最後に、2年目の短編プロジェクトに参加した学生たちの感想をいくつか紹介しよう。

Q1. 参加した動機は?

「学生のCGアニメ―ションはその多くが自分たちのつくりたいものをつくるだけで終わってしまいます。ですが、本当は完成してからどう売っていくのか、広げていくのかが重要だと思うので、カナバングラフィックス制作手法を身をもって知りたかったからです」(池端翔太)

「4回生として参加するとなると卒制や就活と重なり、正直辛いことは目に見えていました。ですが、カナバンの富岡先生と制作できる機会をみすみす逃すのはもったいないと思い参加しました」(満山雄一)

Q2. 講義で印象的だったことは?

「ものを取るアニメーションをするときは、掴む動作をつくるのではなく、画面外から出すという技法が特に印象に残りました」(荒磯沙也加)

「『CG制作者のためのCGではなく、コンテンツとして視聴者の方々がいることを意識して』とよくおっしゃっていたことです。CG上手いねと言われることも大事ですが、それ以上に面白いねと言われたいと常々思っていたので背中を大きく押していただけました」(今木雄太)

「クリエイターが素晴らしいと思うものではなく、一般のお客さんが楽しめるものをつくるという、姿勢です」(長谷川拓海)

Q3. 今後に活かしたいことは?

「意欲を示すことは、制作をするにあたって重要なことだと思いました」(井上香奈子)

「私は『健康第一』だと学びました。後半はつくることに夢中になりすぎて、自己管理が行き届かなくなり、結果として効率が悪くなってしまいました。富岡先生からいただいたアドバイスを胸に、あせらず匍匐前進するように作品づくりに挑みます」(酒井万梨子)


制作終盤の記念写真と授業の様子





TEXT_UNIKO
EDIT_沼倉有人/ Arihito Numakura、山田桃子 / Momoko Yamada

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