2018.02.28 Wed

CM、アニメ、ゲーム、映画、各界の専門家がプリビズ最新事情を解説(前編)>>神奈川工科大学 特別講演会

CM、アニメ、ゲーム、映画などの映像をつくるとき、準備段階(プリプロダクション段階)で制作される映像の「設計図」のことをプリビズとよぶ。プリビズ市場が着々と拡大しているハリウッドでは、NASAや軍隊までもが顧客となり、プリビズ技術を応用したビジュアライゼーションやシミュレーションを行なっているという。そんなプリビズの最新事情を解説する特別講演会「プリビズを導入したメディアコンテンツ制作」が、2017年12月16日に神奈川工科大学(神奈川県 厚木市)で開催された。本記事の前編では、プリビズについての基本的な解説と、CM制作における最新事情をお伝えする。さらに後編では、アニメーション制作、ゲーム制作、ハリウッド映画制作におけるプリビズの最新事情をお伝えする。

福本隆司氏(教授)

神奈川工科大学

日本のCGプロダクションの草分けであるトーヨーリンクスやポリゴン・ピクチュアズの創設に関わり、以後30数年間、ディレクター/プロデューサーとして、映画、CM、博覧会映像、アニメーション、ゲーム分野のCG制作に携わる。2015年より神奈川工科大学 情報学部 情報メディア学科 教授となり、映像コンテンツ制作の基本や、プリビズをはじめとするCG映像制作を教えている。
www.kait.jp/index2.php

山口 聡氏(代表取締役/プリビズ・スーパーバイザー)

株式会社ACW-DEEP

1990年代、日立系企業にて業務用フライトシミュレータを開発しながら、CG技術のイロハを学ぶ。1997年にIMAGICAへ入社。映画、CMなどの実写とCGとの合成に携わる。2000年、特殊撮影にてプリビズ技術を導入。2007年よりプリビズサービスをスタート。2011年末IMAGICAを退職。2013年、アジア初のプリビズ専門会社である株式会社ACW-DEEPを設立。2015年、Previs Society ASIAを設立。
www.acw-deep.jp/ja-jp/

「映像の一級建築士」を育てたい

本講演会には福本隆司氏(神奈川工科大学)、山口 聡氏(ACW-DEEP)、野口光一氏(東映アニメーション)、百瀬季之氏(スクウェア・エニックス)、Daniel Gregoire氏(HALON Entertainment LLC)の5氏が登壇し、各界のプリビズ最新事情を解説した。

▲【左】本講演会を企画した神奈川工科大学 情報学部 情報メディア学科の佐藤 尚教授(写真左)と、小島一成准教授(写真右)/【右】会場風景。本講演会には、在校生に加え高校生も招待された


「情報メディア学科におけるプリビズ教育」と題した福本氏の講演では、後に続くより専門的な4氏の講演に対する理解を深めるため、プリビズについての基本的な解説がなされた。「プリビズ」は「プリビジュアライゼーション」の略で、英語では「Previs」「Pre-Visualization」と記される。「Pre」は「...以前の」、「Visualization」は「視覚化」という意味だ。つまりプリビズとは、映像制作をする前に、より簡単な方法でイメージを視覚化したもののことを指す。昔も今も、映像を制作するときには「絵コンテ」や「ストーリーボード」と呼ばれる紙に書いた「設計図」が使われている。これに加え、近年はより精度が高く、最終形をイメージしやすい映像による「設計図」もつくる場合が増えてきた。

▲プリビズの意味を解説する福本氏のスライド


HALON Entertainment LLCが手がけたプリビズのハイライトを紹介する最新リール。VFXが多用されるハリウッド映画では、このように高精度なプリビズをつくることが一般的になっている。HALON Entertainment LLCの代表で、プリビズ・スーパーバイザーでもあるGregoire氏の講演の模様は本記事の後編でお伝えする


映像を場面分けしたときの最小単位をカットとよぶ(※)。カットが複数集まり、ある状況を描写した映像をシーンとよぶ。シーンが複数集まり、1つの物語として成立する映像をシークエンスとよぶ。絵コンテにもカットの内容や長さは描かれているが、理解するためには知識や経験、想像力が必要とされる。プリビズがあれば、画面構成、カットのつながり、監督のアイデアなどが、スタッフ間でより誤解なく共有されるようになる。それがプリビズを導入する効果だ。

※ 欧米ではショットと呼ばれることが多い。

▲【左】プリビズの効果を解説するスライド/【右】プリビズの方法を解説するスライド。日本では言葉の使い分けが定着しておらず、まとめて「プリビズ」あるいは「アニマティック(アニマティクス)」と呼ぶことが多い。「ハリウッド映画のメイキング映像を見ていると、字幕には反映されていなくても、語り手はちゃんと言葉を定義して使い分けている場合が多いです。例えば『スター・ウォーズ』シリーズのメイキングでは、ジョージ・ルーカス氏がちゃんと使い分けていました」(福本氏)


映像制作の工程を大まかに分けると、プリプロダクション、プロダクション、ポストプロダクションの3段階となる。基本的にプリビズがつくられるのは、準備段階にあたるプリプロダクションだ。プロダクションに入ると、何十人、多い場合は何百人ものスタッフが一斉に仕事を始めるため、事前の設計が非常に重要となる。設計が甘いと、クオリティの低下をまねき、コストやスケジュールに大きな無駄が発生する。

▲【左】映像制作の工程を解説するスライド/【右】建築における設計図の役割を解説するスライド


福本氏は建築を例にあげ、事前に設計することの重要性を解説した。「建築家の頭の中にある『こんな建物をつくりたい』というイメージは、当然ながらほかの人には見えません。だから、まずラフスケッチを描き、より詳しい設計図をつくり、さらに詳しい詳細設計図を建築士がつくるのです。それを基にどれだけの材料、人員、日数が必要かを割り出した後、材料を集め、実際の建築に着手します。詳細設計図の精度が高ければ、コストやスケジュールの無駄がなくなり、建物の品質が上がり、建築家のイメージ通りの建物が完成します」(福本氏)。

▲【左】建築における設計図の役割を解説するスライド/【右】映像制作におけるプリビズの役割を解説するスライド。プロデューサーはコストやスケジュールに対して責任をもち、ディレクター(監督)はクオリティに対して責任をもつ(ハリウッドでは、プロデューサーとディレクターによる2極管理が徹底されている)


映像制作において、設計図に相当するのが絵コンテで、詳細設計図に相当するのがプリビズだ。「多くの場合、絵コンテは監督がつくります。では、プリビズは誰がつくると思いますか?」(福本氏)。

監督は忙しいため、自らプリビズをつくるような余裕はない。ハリウッドでは、Gregoire氏のようなプリビズの専門家がつくる。しかし日本では専門家と呼べる人は少なく、アニメーターなどが兼任でつくっている場合が多い。建築士のような国家試験や資格もない。この背景には、プリビズ制作にコストや時間を割けるだけの余裕をもったプロジェクトが少ないという事情がある。しかし今後は日本でも、映画制作の専門知識をもち、最新のテクノロジーを活用し、プリビズを制作できる専門家の育成が必要になるだろうと福本氏は語った。「神奈川工科大学にはプリビズ教育に必要な環境、要素技術が揃っているため、『映像の一級建築士』と呼べるようなプリビズの専門家を育てていきたいと考えています」(福本氏)。

▲【左】福本氏が実践しているプリビズ教育について解説するスライド/【右】プリビズ教育の展望について解説するスライド。近年のハリウッドでは、撮影現場でモーションキャプチャを行い、リアルタイムにプリビズを制作するOn Ser Privisも試みられているという


日本の映像制作事情に合わせた「リアルタイム プリビズ」

「CM制作におけるプリビズ」と題した山口氏の講演では、CM制作を中心に、山口氏が手がけてきたプリビズの仕事が紹介された。山口氏はIMAGICA在職時の2000年にいち早くプリビズ技術を導入し、独立後の2013年にアジア初のプリビズ専門会社であるACW-DEEPを設立した。2015年には台湾や中国のプリビズ関係者と共にPrevis Society ASIAも立ち上げた。台湾や中国では日本以上にプリビズが普及しており、プリビズ教育のための学科も設立されているという。「日本ではプリビズの必要性を長らく理解してもらえなかったため、へこたれないハート、諦めないハートが何より重要でした」(山口氏)。

今も理解を得ることは容易ではないが、「あらゆる手段を駆使して、クライアントのストレスを減らす」という山口氏の姿勢のおかげで、プリビズを導入するプロジェクトは徐々に増えているという。「CM、映画、ゲーム、プロジェクションマッピングなど、様々なジャンルのプリビズ制作に関わってきました。特にCMに関しては、かなりの頻度で使われるようになっています」(山口氏)。例えば、カメラをどのように動かせばいいか、セットをどのくらいの大きさで立てればいいか、空撮時にどのようなルートで飛行すればいいかといったことをシミュレーションするために、プリビズが使われているという。

「日本の映像制作はとにかく時間がないため、プリプロダクションに使える時間は限られています。プリビズをつくって見せて、意見を聞き、後日プリビズをつくり直すような余裕はない場合が多いです。加えて撮影現場の方々は、待ち時間が長いことは大嫌いです。とはいえ、監督もカメラマンも『このままでいい』と思っているわけではなく、『本当に絵コンテ通りに撮影できるのか?』という不安を常に抱えています。その不安を解消するために『リアルタイム プリビズ』という方法を考えました。最近のプリビズ制作では、主にこの方法を使っています」(山口氏)。

▲【左】リアルタイム プリビズのための機材。右上から時計まわりにMac mini、マウス、キーボード、モニタ。これらをカバンに入れて打ち合わせ場所に出向き、監督の話を聞きながらその場でプリビズをつくっているという/【右】モーションキャプチャ技術を応用した、バーチャルカメラシステム。山口氏が手にしているのは、バーチャル空間内のセットや人物を撮影するためのカメラで、モーションキャプチャ用のマーカー(白色の球)が付いている。「最初はもっとカメラらしい形をしていたのですが、『もっと軽い方がいい』という意見が多く出され、どんどん軽量化した結果、今の形になりました」(山口氏)


▲現実空間内のバーチャルカメラの動きと、3DCG空間内のカメラの動きが連動している。このシステムを使えば、3DCG制作に精通していない人であっても、カメラアングルやフレーミングを試行錯誤できる


▲VR空間内でのプリビズの実用化を目指し、開発中のシステム


現在、山口氏はVR空間内でのプリビズの実用化を目指し、開発を進めているという。「監督やカメラマンからは『空間全体を見渡しながらカメラアングルやフレーミングを決めたい』という要望をいただいています。それがVRによって実現できれば、自動車、建築、旅行など、映像産業以外への応用も可能です。実際、既にいくつか問い合わせをいただいているので、今後はプリビズ以外の分野へも仕事の範囲が広がりそうだと感じています」(山口氏)。


前編は以上です。後編では、アニメーション制作、ゲーム制作、ハリウッド映画制作におけるプリビズの最新事情をお伝えします。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年3月7日を予定しております)





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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