2018.03.07 Wed

CM、アニメ、ゲーム、映画、各界の専門家がプリビズ最新事情を解説(後編)>>神奈川工科大学 特別講演会

本記事の前編では、2017年12月16日に神奈川工科大学(神奈川県 厚木市)で開催された特別講演会「プリビズを導入したメディアコンテンツ制作」の中から、プリビズについての基本的な解説と、CM制作における最新事情をお伝えした。後編では、アニメーション制作、ゲーム制作、ハリウッド映画制作におけるプリビズの最新事情をお伝えする。

野口光一氏(プロデューサー)

東映アニメーション株式会社

1989年、テクニカルディレクターとしてリンクス(現:IMAGICA)へ入社。1994年に渡米し、映画のVFX制作に従事。帰国後、ポリゴン・ピクチュアズなどを経て、東映アニメーションへ入社。映画・ドラマのVFXスーパーバイザーとして活動する傍ら、初プロデュース作品となる映画『楽園追放』(2014)をヒットへ導く。2017年には、2作目のプロデュース作品となるTVアニメシリーズ『正解するカド』が放映された。
www.toei-anim.co.jp

百瀬季之氏(カットシーン・ディレクター)

株式会社スクウェア・エニックス

1991年、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)へ入社。『FINAL FANTASY TACTICS』(1997)でOP、EDなどのムービー演出を手がけて以降、主にイベントやカットシーンと呼ばれる映像の演出を担当。代表作は『FINAL FANTASY IX』(2000)、『CRISIS CORE -FINAL FANTASY VII-』(2007)、『The 3rd Birthday』(2010)、『FINAL FANTASY XV』(2016)など。
www.jp.square-enix.com

Daniel Gregoire氏(代表/プリビズ・スーパーバイザー)

HALON Entertainment LLC

プリビズ・スーパーバイザーとして『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002)、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(2005)などの制作に参加。2003年、プリビズ制作会社のHALON Entertainment LLCをロサンゼルスに設立。数多くの映画、TV番組、ゲームの映像制作に携わる。近年はゲームエンジン、VR、AR技術を使ったプリビズ制作にも取り組んでいる。
www.halon.com

プリビズ段階から作画アニメの感覚になじむ画づくりを追求

「アニメーション制作におけるプリビズ」と題した野口氏の講演では、同氏がプロデューサーを務めた『楽園追放』と『正解するカド』におけるプリビズが紹介された。一般的な作画アニメの制作では、プリビズがつくられることはなく、絵コンテとタイムシートを使って映像が設計される。監督や演出など、アニメ制作の中枢に関わるスタッフは、絵コンテとタイムシートを基に頭の中で映像を設計する力を身に付けているという。「アニメ制作は、才能ある方々の力に頼っている状態と言えます。ワークフローは細かく分業化されており、基本的に逆戻りすることはありません。そのため、絵コンテとタイムシートの精度が作品に大きく影響します」(野口氏)。

▲【左】アニメ制作のワークフローを解説するスライド/【右】絵コンテとタイムシートを解説するスライド。絵コンテには、各カットの番号、画面のレイアウト、キャラクターの演技や動きの説明、カメラワーク、映像の編集方法、効果音、音声、尺(カットの所要時間)などが記入される。絵コンテをもとに、動画の枚数やタイミング、撮影時のカメラワークや特殊効果の指定などがタイムシートに書き込まれる


一方、『楽園追放』と『正解するカド』では3DCGが多用されたため、プリビズがつくられるようになった。「3Dアニメーションはカメラを柔軟に動かせるため、プリビズをつくらなければ、どういう画になるのか想像しづらくなったのです。『楽園追放』では、立体感のあるシェーディングのCGでプリビズをつくっていました。しかしこの状態だと、最終的にどんな画になるのか想像しづらいという問題がありました」(野口氏)。

▲『楽園追放』のプリビズと完成作品の比較映像。プリビズは立体感のあるシェーディング、完成作品はフラットなシェーディングになっている。フラットなシェーディングはレンダリングに時間を要するため、当時のプリビズでは全編を通して立体感のあるシェーディングが用いられた


『楽園追放』の後につくられた『正解するカド』では、前作の経験を踏まえ、プリビズ段階からフラットなシェーディングが適用された。「技術が進歩し、フラットなシェーディングにかかる時間が短くなったことで、監督やスタッフが最終形を想像しやすいプリビズをつくれるようになりました。日本のアニメ制作は60年の歴史があります。その中に3Dアニメーションを入れようとすると、プリビズ段階から、作画アニメのスタッフの感覚になじむ、違和感のない画づくりが求められるのです」(野口氏)。

▲【左】『正解するカド』のプリビズを解説するスライド/【右】左はプリビズ、右は完成作品。プリビズの段階からフラットなシェーディングになっている
©TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI


「3Dアニメーションは今後も増えるでしょうから、プリビズの需要も増えると思います。とはいえ現在のアニメ制作にはプリビズの専門家がおらず、3Dアニメーターが兼任している状態です。アニメ制作は使う用語もつくり方も特殊なので、アニメーションなり、撮影なり、どこかのセクションで経験を積んだ人がプリビズをつくるようになるのがいいだろうと思っています」(野口氏)。

さらに野口氏は、次回作ではワークフローの改良も視野に入れていると語った。「『楽園追放』と『正解するカド』では、レイアウトの後にプリビズをつくりました。しかし次回作では、レイアウトの前、絵コンテの直後にプリビズの工程を設け、より早い段階で精度の高い設計ができる仕組みにしたいと考えています。長い歴史をもつアニメ制作のワークフローを変えることは簡単ではありませんが、いいフィルムをつくる上で必要なことだと思っています」(野口氏)。

▲【左】3Dアニメーション制作の職種と役割を解説するスライド。3Dアニメーターがプリビズとアニメーション制作を兼任している/【右】『楽園追放』のワークフローを解説するスライド。『正解するカド』も同様のワークフローで制作されている


▲【左】フル3Dアニメーションのワークフローを解説するスライド。作画工程がないため、絵コンテの直後にプリビズの工程が設けられている/【右】次回作で予定しているワークフローを解説するスライド


何度もプリビズをつくり、最善の道を探る

「ゲーム制作におけるプリビズ」と題した百瀬氏の講演では、『FINAL FANTASY XV』のカットシーン制作におけるプリビズが紹介された。講演の冒頭、百瀬氏はThéodore Géricaultの絵画『エプソンの競馬』(1821)を提示し、この絵の中にエンターテインメントの本質が隠されていると語った。「絵画の中では、伸ばした状態の馬の脚が4本とも地面に接地していません。現実にはありえない状態ですが、馬の躍動感、疾走感を表現する上では効果的な表現とも言えます。このように『観客をだましきること』がエンターテインメントにおける演出の大きなポイントだと思います。だましきれなければ、観客は夢から覚め、興味をなくしてしまいます」(百瀬氏)。

カットシーンとはゲーム内で再生される映像のことで、百瀬氏はその演出を担当している。「カットシーンの役割は主に2つあります。1つはリテンションで、ボス戦の前にプレイヤーのテンションを上げるために使うこともあれば、プレイヤーを落ち着かせるために使うこともあります。もう1つは次への展開を与えることで、プレイヤーが次に何をすればいいかを示すために使います」(百瀬氏)。

▲カットシーンの役割について解説するスライド


前述の作画アニメ制作とは対照的に、ゲーム開発に携わるスタッフの場合、誰もが絵コンテを読み解けるわけではないという。「スタッフ全員で映像の内容を共有するためには、プリビズが不可欠なのです。なお、現場ではプリビズのことをアニマティクスと呼んだり、レイアウトと呼んだりすることもあります」(百瀬氏)。

▲講演では、リヴァイアサン戦のカットシーンを例に、プリビズを使ったスタッフ間の意見交換の様子が紹介された


「リヴァイアサン戦のカットシーンでは、プリビズを数回つくり直しています。このように試行錯誤を重ね、何度も主要スタッフに確認し、設計に時間をかけることが非常に重要なのです。勝手に進めた結果、ゲーム本編とつないだときに整合性がとれないとなれば、全体のクオリティに大きな影響をおよぼします」(百瀬氏)。

最後に百瀬氏は、演出についての自身の考えを語った。「演出の選択肢は無限にありますが、観客に対しては、たった1つの道筋しか提示できません。だからこそ、その選択はゆるぎなく美しいものでなくてはならず、プレイヤーが納得するものでなければいけません。何度もプリビズをつくり、最善の道を探り、プレイヤーに『ここで、これが見たかった!』と思ってもらえる映像をつくる。それが非常に重要だと思います」(百瀬氏)。

▲演出について解説するスライド


どんどんアイデアを出し、実践し、速く、何度も失敗する

「ハリウッド映画におけるプリビズ」と題したGregoire氏の講演では、ハリウッドにおけるプリビズビジネスの現状が紹介された。Gregoire氏がプリビズ制作会社であるHALON Entertainment LLCを2003年に設立して以降、プリビズビジネスのクライアントは大手映画会社が中心だった。しかし近年、ゲーム、玩具、VR、NASA、軍隊など、他業界のクライアントからの依頼が増加しているという。

▲【左】プリビズビジネスの従来のクライアントを紹介するスライド/【右】プリビズビジネスの新しいクライアントを紹介するスライド


「ロサンゼルスのプリビズビジネスは現在も成長を続けており、将来は有望です。例えば、ゲーム会社はプレイヤーキャラクターの動きをシミュレーションするためにプリビズを使っています。玩具メーカーは玩具展示のビジュアラーゼーション、NASAは宇宙空間での船外活動のシミュレーション、軍隊は戦闘のシミュレーションなどにプリビズを使います。これらの新しいマーケットは、まだまだ成長の余地があるでしょう。われわれは何度も新しいアイデアを出し、失敗しては再挑戦して、どんどん新しいやり方を見いだしています」(Gregoire氏)。

このようなプリビズビジネスの拡大にはゲームエンジンが大きく貢献しており、従来の撮影技術や、VR・AR技術と組み合わせることで、アイデアを可視化するスピードはさらに速くなっているという。

▲【左】HALON Entertainment LLCが手がけた『猿の惑星: 聖戦記』(2017)や『LOGAN/ローガン』(2017)のプリビズにはゲームエンジンが使用されている/【右】グリーンやブルーのスクリーンで囲まれたバーチャルセットの中でのプリビズ制作の様子


▲HALON Entertainment LLCが手がけた『猿の惑星: 聖戦記』(2017)のプリビズ。Unreal Engineでレンダリングするため、独自のツールとパイプラインを開発したという。「Unreal Engineを使うことで、リアリスティックなライティング、ダイナミックなエフェクト、ハイレベルなビジュアルを非常に速いスピードで制作できました。このプリビズは、Matt Reeves監督のアイデアをプロダクションへ伝えるための効果的な手段となったのです」(Gregoire氏)


最後にGregoire氏はプリビズ制作に必要とされることを紹介した。「第1に、映画制作に関する幅広い知識が必要です。皆さんがすぐ実践できることは、たくさんの写真を撮ることです。その写真を通して、どんな物語やアイデアを伝えたかったのか考えてみてください。今は多くの人が常にスマホをもっています。まずはスマホのカメラで、様々なものを撮影することから始めましょう。第2に、コンピューターで画をつくるとはどういうことかを知る必要があります。第3に、撮影技術も重要です。どのような技術で映画がつくられているかを理解しましょう。第4に、どんな人が映画制作に関わっており、どんな仕事をしているのかを知ってください。プリビズの専門家になるためには、幅広い分野にわたる知識や技術を少しずつ知る必要があります。さらにある一部分に対しては、非常に長けているという状態になることが大切です」(Gregoire氏)。

▲プリビズ制作に必要とされることを紹介するスライド


▲学ぶ上で最も重要なことを紹介するスライド


「フォード・モーターを創設したHenry Ford氏は、『もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう』と語りました。プロデューサーやディレクターは『こういうことがやりたい』と、非常に壮大なビジョンを語ります。重要なのは、彼らの要求をそのまま実践することではありません。彼らが本当に求めていることを理解し、それを実現できたときに皆さんは成功します。もちろん、何度か失敗した後にです。私自身、そうは見えないかもしれませんが何度も失敗してきました。実現が難しいと思うことであっても、どんどんアイデアを出し、実践し、速く、何度も失敗してください。その失敗から学び、次へ進む。それが失敗のルールです。今日お見せしたプリビズを素晴らしいと感じていただけたなら、それは私が何度となく失敗してきたからです」(Gregoire氏)。

▲【左】会場風景/【右】講演後の質疑応答の様子





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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