2018.01.10 Wed

SIGGRAPHと歩んだ20年>>SIGGRAPH Asia 2017 | Symposium on Education チェア 青木美穂氏

SIGGRAPH」は世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ関連技術のカンファレンスだ。その関連イベントである「SIGGRAPH Asia」は、2008年から今日までの間にシンガポール、日本(横浜、神戸)、韓国(ソウル)、中国(香港、深圳、マカオ)、タイなど、アジア各国で開催されてきた。来年のSIGGRAPH Asia 2018は2018年12月4日(火)∼7日(金)にかけて東京国際フォーラム(有楽町)で開催される。

そんなSIGGRAPHの学生ボランティアを1997年からやり始め、後にACM SIGGRAPH(※1)のメンバーとなり、SIGGRAPH Asiaでは過去3年間にわたりSymposium on Educationのチェア(議長)を務めてきたのがアラスカ大学 フェアバンクス校 准教授の青木美穂氏だ。本記事ではSIGGRAPH Asia 2017(※2)の会期中に行なった青木氏へのインタビューを通して、約20年にわたるSIGGRAPHと青木氏の関わりと、学生や教育関係者にとってのSIGGRAPHの価値をお伝えする。

※1 SIGGRAPHを主催する組織。

※2 SIGGRAPH Asia 2017の模様はCGWORLD.jpの下記記事を参照。
「SIGGRAPH Asia 2017 BANGKOK」開催。その見どころを「2018 TOKYO」カンファレンスチェアの安生健一氏が解説

青木美穂氏(准教授)

アラスカ大学 フェアバンクス校

日本の東京に生まれ、1998年にオハイオ州立大学で美術学修士号を取得。現在はアラスカ大学フェアバンクス校でコンピュータアートの教育や研究に携わっている。ACM SIGGRAPHのInternational Resources CommitteeやEducation Committeeのメンバーとしても長年活動しており、SIGGRAPH Asiaでは2015∼2017年の3年間にわたり、Symposium on Educationのチェアを務めてきた。
www.uaf.edu

3年間の学生ボランティアを経て、International Resources Committeeのメンバーとなる

CGWORLD(以降、C):まずは青木先生がSIGGRAPHと関わるようになったきっかけを教えていただけますか?

青木美穂氏(以降、青木):私は1995年に渡米して、オハイオ州立大学の修士課程に進学しました。その後、同大学で教えていた北川 みどり先生から「SIGGRAPHの学生ボランティア(Student volunteer)をやった方がいい」と勧められ、よくわからないままに応募したのです。

▲【左】SIGGRAPH Asia 2017にて、来場者に会場の説明をしている学生ボランティア/【右】同じく、記念撮影をする学生ボランティア
image courtesy of ACM SIGGRAPH


▲【左】学生ボランティアのユニフォームには、スポンサー企業のロゴに加え、来場者が質問しやすいようにとの配慮から「ASK ME」の文字もプリントされている/【右】SIGGRAPH Asia 2017の学生ボランティア集合写真。Student volunteers 163名、Team leaders 16名、Student volunteers production 10名、Student volunteers committee 6名、Student volunteers chair 1名で構成された、総勢196名の大所帯だ。なお、Student volunteers productionはSIGGRAPH Asiaのプロモーション映像を撮影・編集するチームで、彼らが制作した映像はYouTubeにアップロードされ、世界中に配信される

学生ボランティアの情報はこちらで確認できる。SIGGRAPH Asia 2018の学生ボランティアは2018年3月から公式サイトで募集を開始する予定だ
image courtesy of ACM SIGGRAPH


C:SIGGRAPH 1997はロサンゼルスでの開催でしたね。ひとくちに学生ボランティアと言っても様々な役割がありますが、何を担当なさったのでしょう?

青木:International Centerに配属され、英語と日本語の通訳をやりました。当時からSIGGRAPHには日本人が多く参加しており、通訳の需要は高かったですね。翌年はSIGGRAPHの方から「応募してほしい」と要請され、International Centerでの通訳を3年間続けました。SIGGRAPHのInternational Centerは、往来の多い目立つ場所にあるので、座っているだけで色々な人に会えました。学生ボランティアだけで何百人もいますから、そこで他校の友達もでき、すごく面白かったですね。SIGGRAPHの委員をなさっている業界の方とも顔見知りになれて、刺激も多かったです。その後はInternational Centerを運営しているInternational Resources Committeeのメンバーになり、さらに色々な人とつながっていきました。

C:最初は学生ボランティアとして関わり、後に運営メンバーになったわけですね。

青木:学生ボランティア出身の運営メンバーや発表者は私以外にも数多くいます。International Resources Committeeでは、Art GalleryやEmerging Technologiesの多言語による音声ガイドやツアーを実施したり、TwitterなどのSNSでの多言語による情報発信をやってきました。私はその中の日本語担当を10年以上にわたり続けてきたのです。ここ数年はメンバーを退いていましたが、ほかのメンバーを指導する相談役のような立場を担ってほしいと依頼され復帰しました。ACM SIGGRAPHはSIGGRAPH以外にも年間を通して様々な活動をしていますが、あまり認知されていないので、SIGGRAPH以外の活動も盛り上げていくことが最近の課題です。

SIGGRAPH Asiaで積み重ねてきたものを、どのような形で次に生かすかが今後の課題

CEducation Committeeとの関わりはいつ頃から始まったのでしょう?

青木:SIGGRAPH Asiaでは、2008年にナンヤン理工大学のMark Chavez氏がチェアとなりEducators programmeを実施しました。続く2009年にもCG-ARTSの宮井あゆみ氏がチェアとなって実施しましたが、それ以降、教育者向けのプログラムはありませんでした。そんな中、SIGGRAPH Asia 2015を神戸で開催するにあたり、Symposium on Educationを含む3つのシンポジウムを同時開催しようという企画が立ち上がったのです。アジアのCG産業がさらに成長するためには教育が大事だと以前から感じていたので、ぜひ実施してほしいと思い、チェアを引き受けることにしました。その後3年間にわたり、SIGGRAPH AsiaのSymposium on Educationでチェアを務めてきました。合わせてACM SIGGRAPHのEducation Committeeにも入り、各国の教育関係者とのつながりを深めていったのです。SIGGRAPH Asiaで積み重ねてきたものを、どのような形で次に生かすかが今後の課題だと感じています。

▲【左】インタビューに応える青木氏/【右】SIGGRAPH Asia 2017 Committeeと、SIGGRAPH Asia Conference Advisory Groupの集合写真
image courtesy of ACM SIGGRAPH

C:Symposium on Educationが扱う内容は、CGそのものの教育に留まらない点が面白くもあり、大変そうでもありますね。

青木:はい。CGや、VR、ゲームなどの教育方法に関する発表がある一方で、医療や、歴史、語学などの教育における、CGや、VR、ゲームの活用法に関する発表もあります。例えば今年は、解剖学教育におけるVR教材の活用に関する発表(※3)や、VRとAIを組み合わせた英語学習システムに関する発表(※4)がありますね。ここ数年で3DプリンターやVRの導入コストが下がり、様々な分野で活用できるようになったことで、Symposium on Educationが扱う発表の幅も飛躍的に広がったと感じています。Educationが扱える内容は本当に幅広くて、事実上、SIGGRAPHの全領域を網羅しているのです。だから毎年、どんな内容の応募が来るか、蓋を開けてみないとわからなかったですね。

※3 Getting Up Your Nose: A Virtual Reality Education Tool for Nasal Cavity Anatomy

※4 SeLL: Second Language Learning Paired with VR and AI

C:CGが世の中に普及すればするほど、Educationを必要とする人々の幅も増えそうですね。

青木:今年は子供向けのゲームデザイン教育に関するワークショップ(※5)も実施します。今後は、子供やお年寄りと関わるような職業の方々の中にも、CGや、VR、ゲームを取り入れる人が増えてくると思います。それはすごく面白いことでもあるし、難しいことでもありますね。SIGGRAPHのEducation関係で扱うべき内容や対象が、どんどん広がっていくということですから。

※5 Game Design Workshop: Cultivating Creativity From Constraints

もっと多くの日本人がSIGGRAPHの運営に関わってくれることを期待したい

C:SIGGRAPH Asiaは開催国が毎回ちがうため、その国やその都市のカラーが出やすいという特徴があります。今年の開催地であるバンコクのカラーが出ているセッションはありますか?

青木:International Resources CommitteeとSymposium on Educationの共同で、女性をテーマにしたセッションを2つ実施します。Girls In STEMというセッション(※6)では、バンコクのタンマサート大学タンマサート高校の先生、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の先生によるパネルディスカッションを行います。STEMというのはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の総称ですね。国によって程度の差はありますが、STEMを専攻する女子学生は少ない傾向にあり、CGの研究者やエンジニアに女性が少ないことの原因になっています。

※6 Girls In STEM: Investigating The Reasons That Too Few Female Students Enter Technical Fields

C:日本でもその傾向はありますね。

青木:このセッションはSIGGRAPH Asia 2016でも実施しており、香港の先生や中国の研究者をお招きしました。今回はバンコクの先生に、バンコクの女の子がどのように育てられ、どういう状況にあるのかを語っていただきます。世界には女性の研究者が非常に少ない国もあり、大変な思いをされている方もいるのです。どうして少ない国があるのか、それに対してできることはあるのかといったことも話し合えればと思っています。もう1つは、Women in CGというセッションで、SIGGRAPH 2017でも実施して、非常に盛り上がったと聞いています。こちらはより産業界にフォーカスした内容で、この業界に男性が多いのはどうしてか、それはいいことなのか、もし変えた方がいいのであれば、どうあるべきか......といったことを話し合います。

C:日本のCEDECでも、今年はワーキングマザーの働き方について話し合うラウンドテーブルが開催され、非常に盛り上がりました(※7)。女性の教育や働き方は、国境を越えて盛り上がるテーマのようですね。

※7 詳しくはCGWORLD Entry.jpの下記記事を参照。
ワーキングマザー(WM)開発者の悩みと解決策の共有>>時短勤務の中で、いかにして仕事と育児を両立するか

青木:加えて、オリエンタル・ドリームワークスの方をお招きして、社内教育について語っていただくセッション(※8)も実施します。こういったセッションは、業界を目指す学生に加え、それを指導する先生にとっても参考になると思います。

※8 From Zero To One: Build Local Talent Team From Kung Fu Panda3 In China

▲【左】Girls In STEMの様子。右から2人目のSukanya Ratanotayanon氏は、Symposium on Educationのコチェア(副議長)も務めている/【右】オリエンタル・ドリームワークスのLois Liu氏。同氏のセッションでは、2012年にドリームワークス・アニメーションと中国の合弁によって上海に設立された同社が、約2年間でパイプラインとプロダクションチームを構築し、『カンフー・パンダ3』(2016)を制作するまでの社員教育の過程が紹介された。同社では、最初にビジュアルデベロップメント、モデリング、アニメーションなど、各セクションごとにマトリックス状のスキルマップを設定し、何をどのような順番で学ぶべきかを整理した。さらに、そのスキルマップに則ったトレーニングプログラムをつくり、未経験の学生に対しては8週間のインターンシップを実施した。また、既に業界経験のある若手に対しても、トレーニングを実施したという。Liu氏は「トレーニングを提供するだけでなく、容易に知識へアクセスでき、容易に自主学習できる環境を提供することが大切です」と語った。そのためのビデオ教材や、情報共有のためのWikiも用意したそうだ
image courtesy of ACM SIGGRAPH


C:SIGGRAPH Asia 2018は東京での開催ですから、ぜひ多くの日本の学生や教育関係者に、SIGGRAPHの価値を体感してほしいですね。

青木:来年はどういう形でSIGGRAPH Asiaに関われるかわかりませんが、私が先人たちから受けとったものを次の世代につないでいきたいと願っています。そのためにも、もっと多くの日本人がSIGGRAPHの運営に関わってくれることを期待したいです。関わる人が少ないと、どんどん視界に入らなくなり、忘れられていきます。それは非常にもったいないことです。私はアメリカで教えていますから、言語の面でのサポートはできますが、日本国内のネットワークやアジアの状況は把握しきれません。ぜひ日本を拠点にしている方々が、SIGGRAPHのCommitteeの中で、もっと存在感を増してくれることを願っています。







TEXT_尾形美幸(CGWORLD)

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