こんにちは。デッサンは好きだけど自宅ではまったくやらない成冨ミヲリです。絵を描いている人はいつでも描いているタイプと、オフでは全然描かないタイプに分かれるようですね。私はアイデアが枯れてしまわないように、オフでは映画、ゲーム、音楽、本などからのインプットに勤しんでいます。と言うと聞こえが良いですが、1人ではそんなにストイックにトレーニングに励んでいないということですね。デッサンは大勢でやる方が楽しいし、人と比較することで自分の個性や癖に気が付きやすくなると思います。

さて、今回はデッサンとクリエイティブについて、もう少しくっつけて考えられるようにしたいと思います。第1回第2回を読んだ方の中には「デッサンをやると基礎力が上がることは理解した。デッサンのやり方もちょっとわかった。でもまだ自分の作品とデッサンが結びつかない」と感じている方もいることでしょう。そんな方がよくもつ疑問を取り上げてみました。

記事の目次

    成冨ミヲリ

    アートディレクター・プランナー

    ゲーム会社、コンテンツ制作会社を経て、有限会社トライトーンを設立。富士急ハイランドや商業施設の企画デザイン、集英社のCMやドキュメンタリーTV番組におけるCG制作、アニメDVDの監督など幅広く活動。そのほか、デッサン技法書の執筆、音楽・小説などの制作もしている。著書に『絵はすぐに上手くならない:デッサン・トレーニングの思考法』(2015/彩流社)がある。

    タブレットでデッサンをしてもいい?

    最近の仕事では、絵の具やペンでイラストを描いている人はぐっと減り、タブレットを使用したデジタルで制作をしている人が増えてきました。絵の具なんて学校の美術の授業でやっただけで、最初からデジタルという方もいるかもしれません。ということは、デッサンだってタブレットでやりたいという方も出てきて当然です。

    私もタブレットでデッサンをしてみました。今回使用したのはiPad ProとApple pencilです。さすがにパソコン用の液晶タブレットだとモチーフを見ることができませんので、この場合はモバイル端末が最適ですね。

    ▲鉛筆より仕上がりは早く20分くらいで描きました

    かなりチューニングして使ってはいますが、やはり普段の鉛筆に比べると、筆圧や鉛筆の傾きなどはちゃんと反映されないため、ストレスはあります。でもデジタルも確かに同じデッサンです。

    紙や鉛筆、カルトンやイーゼルを用意することを考えて気が重くなっているくらいなら、そこにある使い慣れた道具でデッサンを始めてください。ものを見る訓練という意味では大差ありません。

    ただ理解しておきたいことがいくつかあります。描画アプリやソフトを使ってみて「本物っぽい」と思いませんでしたか? 最近のソフトは鉛筆のかすれや絵の具の滲みなど、本物そっくりに描くことができます。ソフトの開発者は、本物にいかに似せられるか苦心して開発しているのがよくわかりますね。

    その一方で、本物を目指して開発されたアプリを使っている人が、本物を触ったことがないというのはちょっと変だと思いませんか? デジタルで絵を描いてみて、楽しいと感じたらぜひアナログも試してみてください。絵の具や鉛筆は、もっともっと自由です。デジタルよりできることがたくさんあります。枠を飛び越えて自由になってください。そしてまたデジタルに戻ると、さらに自分が進化していることがわかると思います。

    ここで先ほどのデッサンの最初の線画を見てみましょう。

    ▲補正なしで描画。最初の1分が経過したところです

    まだ形も直していない、最初の線画です。陰影が乗っていない絵というのは心もとないですね。この絵を見てどう思いましたか? なかなか下手でしょう?
    デジタルで描くと、線は補正されますし、色もムラなくきれいに塗れます。テクスチャや効果、レイヤーを使うとさらにきれいに仕上がります。そうやって作品がきれいになっていくのは楽しいですね。そしてその絵を良いと言ってくれる人がいたらとても嬉しいことです。

    ですが、本当のあなたの実力はこの線の状態です。厚化粧をして「きれいだ」と言われても、本当の自分の素顔はどうですか? 自分の実力がイマイチなのを知っているのは自分だけ。本当は弱々しい線しか引けないし、自分の手できれいに画面を仕上げることができない。仕上がったイラストを褒められるほど、自分の本当の実力とのギャップに苦しみます。

    デジタルはあくまでツールです。自分の画力を上げるものではありません。紙と鉛筆だけでもちゃんと絵が描けるということは、とても強い自信になります。もし「本当は自信がない」と思っているのであれば、よりシンプルなごまかしのきかない画材で練習すると、根本的な解決になるかもしれません。

    背景が描けない! デッサンで解決する? ~絵づくりと構図~

    「描けない!」とよく言われるのが背景です。その原因は、2つのパターンに分かれます。1つは「パースが分からない。立体を描くことが難しい」というテクニック的な問題です。もう1つは「人物は描けるのに、背景は真っ白で何を描けばいいかわからない」という絵づくりの問題です。

    テクニックはデッサンや書籍で学ぶことができます。絵づくりは構図とテーマ、あとはその人の想像力にかかっています。この絵づくりが、慣れないとうまく実践できないのです。

    ここで話をデッサンに戻しましょう。以下に4枚のデッサンがあります。デッサンは目の前のモチーフをただ忠実に描くだけと思う方も多いのですが、そうすると漫然とした絵になりがちです。デッサンを始めたころは「どのモチーフを描きたいか」という見方になりがちですが、モチーフを描くだけがデッサンではありません。それぞれ、何をテーマに描いたのか解説してありますので、参考にしながら見てみてください。

    ▲手前のブロックの質感が細かく、手触りまで伝わりそうなデッサンです。石膏像の頭の一番上などはあえて手を抜いており、距離感や空間も表現しようとしています

    ▲量感を表現しようとしています。量感とは、重さや存在感など、触ったり持ち上げたりできそうな感覚のことです。細部にはほとんどこだわっておらず、全体感を重視していると思われます

    ▲逆光を表現しようとしています。奥のパイナップルは質感をあえて描かずシルエットが際立つような表現をしており、瓶のラベルは透けています。アルミホイルも奥は白く飛ばして描いています。モチーフは光を表現する道具として利用されているだけです
    ▲モチーフに強い関心があるようです。手前の花の詳細な描き込みとは対照的に、瓶は最低限しか描いておらず、奥の花は時間がなかったのかほとんど線画のままです。手前の花の描きこみ具合のしつこさに強く視線が引き付けられる絵となっています

    単純なデッサンを描く場合ですら、テーマ、主役・脇役の関係、画面全体をどう構成して見どころをつくるか? などを考えるのです。いえ、単純だからこそ、作者の意図がより強く現れます。

    絵づくりが苦手な方は、漫然とデッサンを進めてしまいます。1つずつモチーフを描いて、全部描き終えたら完成。何が描きたかったのか、何を面白いと思ったのかが伝わりません。そういう方は、イラストなどの作品も同じように漫然と描き進めてしまうため、背景が真っ白になりがちです。

    まず鑑賞者に画面のどこを見てもらうのか? その次にどこに目を移してもらいたいのか? 全体に流れる世界観はどんなイメージなのか? そういうことを考えながら画面を仕上げる癖が付くと「背景が白いままではもったいない」と思うようになるでしょう。

    ▲画面内のあちこちに強弱のある見どころをつくり、鑑賞者の視点を移動させることができれば、じっくり絵を見てもらえます。美術館に行ってたくさんの絵を眺めるとき、つい立ち止まって時間を忘れて見てしまう絵は、このような見どころが多いと言えます

    キャラクターの顔を見て、服を見て、背景を見て「ああこういう場面なんだ」とわかる。またキャラクターを見ると「だからこんな表情なのか」と伝わり、また背景をよく見ると所々こだわりが見つかって「なるほど、この子はこんな職業なのかな? 性格はちょっと気が強そうだよな」というように詳しい情報が伝わってきます。画面を支配できると、画面のあちこちに目を動かしてもらい、見る人を楽しませることができるのです。

    さて、後半ではデッサンと絵づくり、構図について述べましたが「これってイラストやラフスケッチでも練習できるのでは?」と思った方もいることでしょう。その通りです。デッサンをやらずにイラストが上手くなった人は、こういう基礎的なことを本能的に作品制作から学びとっているのです。

    ですから、あなたが言われなくとも作品制作でこれらを習得できるのであれば、デッサンは不要です。でもほとんどの人がそんな天才ではありません。私だってそうです。だからデッサンを通じて、これらのことを学んできたのです。

    構図、主役のつくり方、背景の処理など、デッサンで練習できるものは作品にも活かすことができます。イラストだけでなく、写真、3DCG、デザインでも同じです。目の前のものを描くというシンプルな作業から、自分だけの世界を構築する能力をぜひ養ってほしいと思います。

    TEXT_成冨ミヲリ
    ARTWORK_成冨ミヲリ/トライトーン・アートラボ講師
    EDIT_尾形美幸(CGWORLD)