2017.10.11 Wed

ワーキングマザー(WM)開発者の悩みと解決策の共有>>時短勤務の中で、いかにして仕事と育児を両立するか

2013年以降、主にCEDEC参加者を対象に行われている「ゲーム開発者の生活と意識に関するアンケート調査」の最新版によると、配偶者を有する開発者は37.8%、子供を有する開発者は24.5%となっている(有効回答数1,936件)。これらの値が今後どのように推移するのか、ゲーム業界での就職を検討している学生の中には気になる人もいるだろう。もちろん、現役の開発者にとっても無視できないテーマだ。就職し、結婚し、子供をつくった後も、継続して働いている開発者が多いほど、後に続く人の参考になる情報やモデルケースは充実していく。本記事では、そんなワーキングマザー(以降、WM)開発者であるスクウェア・エニックスの久保絢子氏(プログラマ)と服部弥生氏(レベルプランナー)への取材を通して、子育て中のゲーム開発者が抱える悩みと、その解決策を紹介する。

久保絢子氏(プログラマ)

株式会社スクウェア・エニックス

第2ビジネス・ディビジョンに所属。数年のゲーム業界勤務を経て、2011年早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了。同年、スクウェア・エニックス入社。2015年に娘を出産。現在は、寝言でも「やだよー」と言うイヤイヤ期真っ盛りの2歳の娘の子育てと、仕事の両立に悪戦苦闘している。

服部弥生氏(レベルプランナー)

株式会社スクウェア・エニックス

第2ビジネス・ディビジョンに所属。テーマパーク勤務・出版営業・アパレル・書籍販売などを経て、28歳でゲーム業界に就職。主にファイナルファンタジーシリーズの開発において、レベルプランニングとクエストの実装を担当。朝なかなか起きてくれない&保育園を嫌がる5歳の息子に悩まされる日々。

www.jp.square-enix.com

CEDECで議論すれば、WMの悩みや解決策を、WM以外の人々も認識してくれる

CGWORLD(以降、C):久保さんと服部さんは、CEDEC 2017(※1)において、「【ラウンドテーブル】 WM(ワーキングマザー)開発者の悩みとその解決策を共有しよう!-ワークライフバランス実現のためのTIPS」と題したセッションを実施されました。CEDECでは、過去にも女性開発者の働き方をテーマとするセッションが複数実施されてきましたが(下記参照)、ラウンドテーブルという形式は初の試みだったのではないでしょうか。

女性開発者の働き方をテーマとするセッション
【CEDEC 2014】ゲーム業界における女性の働き方
【CEDEC 2014】産休・育休取得者の上司の心得 課長が育休とってみた
【CEDEC 2013】変化するゲーム開発現場と女性クリエイターの実状

※1 ゲームとコンピュータエンターテインメントの開発者を対象とした、国内最大規模のカンファレンス。CEDEC 2017は、8/30∼9/1にパシフィコ横浜で開催された。

久保絢子氏(以降、久保):確かに、ラウンドテーブルという形式は初めてだったと思います。20人くらい集まれば上出来だと考えていたら、用意した40人分のラウンドテーブル席だけでなく、周囲の見学席まで埋まり、椅子を追加してもらったのは嬉しい誤算でした。徐々にWMが増えつつあるタイミングだから、多くの女性開発者が参加してくださったのだと思います。

服部弥生氏(以降、服部):少数ですが、男性開発者がラウンドテーブル席に座ってくださったことも印象的でした。「これからパートナーがWMになるので、どういう悩みを抱えるのか知っておきたい」という話をされ、男性の中にも不安に思う人がいることに気付かされました。

▲ラウンドテーブルを実施中の久保氏。ラウンドテーブルの参加者は、8人ずつ、5つのテーブルに分かれて悩みと解決策を話し合い、出された意見をポストイットに記入していった。「出た意見の半分くらいしか書き取れませんでした。書く人より話す人の方が多かったですし、話に聞き入ってしまい、書くのを忘れる場面もありました(苦笑)」(久保氏)


▲ラウンドテーブルを実施中の服部氏。ラウンドテーブルの終盤では、各テーブルの代表者が主な意見を参加者全員に向けて紹介した。「かなり活発なディスカッションが展開し、セッション終了後には、会場近くのレストランで27名参加のランチ会も実施しました」(服部氏)


C:そもそも、どのような動機からラウンドテーブルを実施しようと思ったのでしょうか?

久保:最初に「やりましょう」と言い出したのは私です。私は2015年に娘を出産したのですが、「社内のプログラマで、産休・育休を取る人は、多分初めてです」と聞かされました。もともと女性プログラマは少ないのに加え、私たちの上の世代の女性は出産を機に退職するケースが多かったのだと思います。同じような立場・職種の人と語り合うには、社外に出ていくしかないと感じ、CEDECへの応募を思い付きました。でも1人で実行する気にはなれなかったので、同じディビジョンに所属する服部を誘ったのです。

服部:ところが、あれだけ集まってくれたラウンドテーブルの参加者の中にも、プログラマのWMはいなかったのです(苦笑)。

C:久保さんにとっては、残念な結果でしたね。

久保:ただし「まだ結婚も出産もしていないけれど、今後いつまで仕事を続けられるのか、仕事と育児を両立できるのか、すごく不安に感じています。久保さんがプログラマだと知り、ラウンドテーブルに参加しました」と語ってくれた女性プログラマが2人もいたのです。彼女たちがキャリアプランを立てるうえで、今回のラウンドテーブルがプラスになってくれたなら、すごく嬉しいです。

服部:ここ数年で当社の女性開発者はかなり増え、WMの数も増えつつあります。私が所属するプロジェクトには、産休中の女性開発者が2名います。彼女たちが仕事に復帰したら、久保や私が蓄積してきたノウハウを伝授して、力になりたいと思っています。とはいえ、WM開発者はまだまだ少数派なので、プロジェクト内に同じ立場の人がおらず、周囲に相談しづらいというケースも多々あります。そういう人は悩みを抱え込みがちなので、このラウンドテーブルが悩みを共有するきっかけになればと思い、久保の誘いに応じました。CEDECのような開かれた場で議論すれば、WMの悩みや解決策を、WM以外の開発者や管理職、会社の人事も認識してくれるだろうという期待もありました。

「できないことはしょうがない。諦めよう」という切り替えができた後は、かなり楽になった

C:ここからは、ラウンドテーブル後に久保さんと服部さんがまとめた資料(下図参照)を拝見しながら、WMが抱える悩みと、その解決策を伺いたいと思います。

▲ラウンドテーブル実施前と、ラウンドテーブル当日に行われたアンケートの集計結果。約10社に勤務する、約55名のWMによる回答の中から、【左】「現在困っていること」上位5件と、【右】「職場・チームへの要望」上位5件を列記している


久保:私や服部を含め、多くのWMは短時間勤務制度(以降、時短勤務)を使い、限られた時間の中で仕事をしています。私の場合、出社時間は9時過ぎ、退社時間は17時前です。保育園へ娘を迎えに行く必要があるため、勤務時間は延長できません。土日出勤も難しいです。「現在困っていること」の1番上に書いてある「仕事量と作業時間のバランスが取れていない」という悩みは、すごく理解できます。

服部:プロジェクトが繁忙期に入ると、私もこの悩みが大きくなりますね。夫の協力を得て残業時間を確保できたとしても、今度は「現在困っていること」の上から4番目に書いてある「子供と関わる時間が持てない」という悩みが発生します。「一緒に遊びたい」と泣かれたり、「今日は、ママお家にいる?」と聞かれたりすると、「自分のやっていることは正しいのか?」という迷いがわき起こります。

C:そういう背景があるから「職場・チームへの要望」として、「在宅勤務ができる制度、体制」「柔軟な勤務時間の設定」が書かれているわけですね。「産前と変わらない作業がしたい」という仕事への意欲が書かれている点からも、仕事と育児の板挟みになっているWMの状況が想像できます。

▲【左】ラウンドテーブルの様子。見学席も合わせると、参加者は60人以上にのぼった/【右】ラウンドテーブル当日に出されたWMの悩みに対する解決策


▲同じく、ラウンドテーブル当日に出されたWMの悩みに対する解決策


久保:解決策のTIPSは、家事に関連したものが特に数多く出されました。子供の気分や体調にしろ、仕事にしろ、自分の裁量でコントロールできる範囲は限られています。一方で、家事の多くは自分でコントロールできるため、家事で調整するしかないというのが実情です。例えば、中途半端なところで仕事を切り上げ、後ろ髪を引かれつつ保育園へ急行したとしても、子供がすんなり帰る気になってくれるとは限りません。絵本の前にうずくまり、テコでも動かないという場合もあるのです。そうすると、帰宅後に使える時間がどんどん短縮されていきます。

服部:私も経験がありますが、無理に絵本から引きはがすとギャン泣きするので、そういうときは飽きるのを待つしかありません(苦笑)。

C:その結果、「乾燥機付き洗濯機、食洗機、ルンバ等の導入」「必要な家事しかしない」「なんでも適当を心がける」といったTIPSが列挙されるわけですね。

服部:出産直後は、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」「あれができてない、これができてない」というように、全てをタスク化してしまい、できないことへのストレスを溜め込んでいました。でも仕事復帰して、出産前の自分の考え方を思い出し、少しだけ自分を客観視できるようになってからは、だいぶ楽になりました。

久保:私も「できないことはしょうがない。諦めよう」という切り替えができた後は、かなり楽になりました。私の場合は、卒乳(※2)がターニングポイントでした。卒乳前は、頭は回らないし身体はだるいしで、仕事も育児もうまくいかず大変だったのです。でも卒乳と同時に身体が楽になり、気持ちも切り替えられました。授乳を通して、かなりのエネルギーを子供に吸われていたのだと思います(苦笑)。

※2 母乳やミルクを断ち、離乳食へ移行すること。

服部:それから、季節を問わず、子供はいとも簡単に病気になります。ヘルパンギーナ、手足口病、アデノウイルスなど、大人であれば滅多にかからない病気に感染し、その度に仕事を休んでの看病を余儀なくされます。

久保:アンケートの中に「夏も風邪の季節」という重たい一言を書いたWMもいましたね。夏であっても、子供は風邪をひきますし、ウイルスに感染する場合もあります。

服部:最近は「去年の今頃は熱を出したから、バッファを取っておこう」「いきなり高熱が出たから、3日くらい休めば回復するかな」「徐々に熱が上がってきたから、1週間くらい長引くかもしれない」といった予測が立てられるようになりましたが、1〜2年目は見積もりが甘く苦労しました。そういう情報を事前に先輩WMから得られれば、かなり働きやすくなると思うので、現在産休中の後輩にはしっかり伝えていくつもりです。

仕事の見積もりでは、通常バッファに加え、「子供バッファ」が必要

C:「仕事の評価」と「夫の協力」に関しては、特に掘り下げた資料(下図参照)をつくっていますね。

▲【左】「仕事の評価」に関する意見をまとめた資料/【右】「夫の協力」に関する考察をまとめた資料


服部:時短勤務のWMは、仕事に使える時間が限られていますし、給料もフルタイムで働く場合より少なく設定されています。条件がちがうのだから、フルタイムで働いていた頃と同じ仕事はできません。自分ができること、できないことを理解して、どこまでならできるのかという見積もりを出せるようにならないと、評価する側も判断に困ると思います。

C:フルタイムの人が仕事の見積もりをする際にも、不測の事態に備えたバッファを設定しますよね。「何事もなければ100の仕事を処理できるけれど、不測の事態を考慮して、見積もりは80に留めておこう」といった具合です。WMの場合は、子供の病気などを考慮して、このバッファを多めに確保する必要があるということでしょうか。

久保:通常のバッファに加え、「子供バッファ」が必要だと思います。しかもWMの場合は仕事の時間を延長できないので、より厳密な見積もりが必要とされます。私自身、ちゃんと見積もりが出せるようになるまでは辛かったです。

服部:私の場合、上司も子供をもっており、WMに対して理解があるので、小まめに状況を確認してくれます。「どうですか?できそうですか?」「間に合わなくなってきました」といったやり取りができているため、大きな不安はありません。一方で、上司の理解が得られない場合には、自分の状況を具体的に説明し、理解をしてもらう努力をする必要があると思います。

このテーマについては、私が座ったラウンドテーブルでも話し合われ、「まずは自分を評価する直属の上司に説明し、理解してもらいましょう」という結論になりました。たとえ上司に子育ての経験がなかったとしても、自分の状況を素直に隠さず説明することが大切だと思います。相手に自主的に情報を拾ってもらうことは難しいでしょうから、自分から発信する積極性が必要だと思います。

久保:私のラウンドテーブルでも似たような意見が出ました。時短勤務に関しては、「WMだけでなく、介護などを理由に時短勤務をしている人もいる。そういう人も取り上げるべき」という意見もありました。私には、そこまで議論を広げるキャパシティはありませんが、「限られた時間の中で、いかに評価を下げずに働くか」という課題は、WMだけのものではないという点には共感しました。

C:上司と同様、夫の協力を得る場合にも、まずは「説明し、理解してもらう」という努力が必要と言えそうですね。

服部:そうだと思います。私のラウンドテーブルでは、「数値化すると、男性は理解が早くなる」という意見が出ました。感情で迫ると男性は萎縮するので、夫婦の収入や可処分時間などを数値化し、お互いが協力しなければ、家計も育児も回らないことを説明すると理解が深まるという意見が出され、なるほどなと思いました。

久保:ラウンドテーブルの参加者は夫もゲーム業界勤務という人が多かったですが、私も含め、そうではない人もいました。夫が他業種の場合、より一層理解を得にくいと思うので、お互いの仕事についてよく話をする必要があると思います。家族に会社見学をしてもらうイベントを開催している会社もあるので、そういう制度があれば、積極的に活用すると良いでしょう。

C:問題解決のためには、問題を整理し、発信し、周囲の人と共有することが大切だということがよく理解できました。

服部:私自身、ラウンドテーブルの場でほかの人の悩みを聞くことで、自分が抱えている悩みに気付くことができました。悩みや問題を抱えていても、その存在に気付けなければ、解決しようとは思いません。周囲と意見を交わすことは、問題を発見するうえでも有効だと思います。

久保:今回のラウンドテーブルをきっかけに、Facebook上にWM開発者のためのグループを立ち上げました。今後はそこを拠点として、WM開発者の交流を続けていきたいと考えています。

C:お忙しい中、お話いただき有難うございました。





取材協力_小村仁美(CGWORLD)
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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