2017.10.04 Wed

新卒からテクニカルアーティスト(TA)を育成するために必要なこと>>TAの素養ってなんだろう?

日本のゲーム・CG映像業界において、年々需要が高まっているテクニカルアーティスト(以降、TA)。CG映像業界では、テクニカルディレクター(以降、TD)と呼ばれることも多い。TAには、テクニカルを担うプログラマやエンジニアの思考と、アーティストの思考のちがいを理解し、問題解決のための方法を提案する力が求められる。そのためTAのキャリアパスは、経験を積んだプログラマやエンジニア、あるいはアーティストで、なおかつTAの素養を兼ね備えた人が、ある時点からTAに転向するというケースが多かった。しかし近年は、新卒で入社した若手が、最初からTAとして育成されるケースも増えつつある。そんな若手TAである清水宣寿氏(セガゲームス)と今野達斗氏(ヘキサドライブ)は、「若手テクニカルアーティストの業務効率改善への貢献、育成について話すランドテーブル」と題したセッションをCEDEC 2017(※1)にて実施した。本記事ではその模様を通して、新卒からのTA育成の可能性や注意点を探っていく。

※1 ゲームとコンピュータエンターテインメントの開発者を対象とした、国内最大規模のカンファレンス。CEDEC 2017は、8/30∼9/1にパシフィコ横浜で開催された。

清水宣寿氏(エンジニア)

株式会社セガゲームス

オンラインコンテンツ事業部 開発サポート部に所属。大学院でCGプログラミングを専攻し、2016年4月に入社。採用面接時に開発のサポートをする職種を希望し、現部署へ配属される。これまでに内製3DCGビューア、内製パーティクルエディタなどの機能拡張を担当。
sega-games.co.jp

今野達斗氏(テクニカルアーティスト)

株式会社ヘキサドライブ

開発部に所属。デザイナー志望だったが、学生時代からPythonに慣れ親しむ。テクニカルアーティストを志望し、2015年4月に入社。アーティスト業務を行いつつ、テクニカルアーティストとしてDCCツールのサポート、スクリプト制作なども担当。
hexadrive.jp

初めてTAが紹介されてから9年が経過し、今では業界内で広く認知

CEDECで初めてTAの役割が紹介されたのは、2008年の海外招待セッション「Haloの開発: テクニカルアートの役割」だと思われる。このセッションでは、BungieのSteve Theodore氏が、同社におけるTAの役割と、その重要性について解説した。この時点から、TAに該当する役割は日本のゲーム業界でも存在していたが、専門職として認知されるまでにはいたっておらず評価も曖昧だった。同セッションの質疑応答にて、筆者は「TAを育成するには、どうしたらいいでしょうか」とTheodore氏に問うた。これに対し、同氏が「TAという役割を、業界内で認知させることが先決です」と回答したことは今も記憶に残っている。

あれから9年が経過し、TAは日本のゲーム業界でも広く認知されるようになった。CEDEC 2017には、清水氏と今野氏のセッション以外にも、「Technical Artist Bootcamp 2017 vol.1」「Technical Artist Bootcamp 2017 vol.2」「Guerrilla Gamesにおけるテクニカルアート」「芸術と科学の融合とTechnical Artist」など、TAに関連するものが複数並んでいた。残念ながら学生の間でのTAの認知度は依然として高くないと筆者は感じているが、ゲーム開発者や教育機関の指導者にはしっかり認知されたと言えるだろう。

以上の背景のもとで開催された本セッションには、用意されたラウンドテーブルの40席には収まりきらない100名近くの参加者が詰めかけた。セッション開始直後に行われた挙手でのアンケートによると、参加者の約1/3は現職のTAで、新卒直後からTAとして育成されてきた若手も5名含まれていた(清水氏と今野氏を含めれば7名となる)。なお「『うちの会社にもっとTAがほしい!』と思っている人はどのくらいいますか?」という清水氏からの問いかけに対しては約3/4の参加者が手を挙げており、TA育成の必要性が伺えた。

▲【左】本セッションの会場風景。写真左端に立つ清水氏による司会のもと、活発な意見交換がなされた/【右】セッション中に、清水氏と今野氏が提示した議題を列記したスライド

ツールをつくるだけでなく、問題の本質を見極める

セッションの冒頭、意見交換の起点として、清水氏と今野氏は自身が経験してきたTA業務を紹介した。清水氏は2016年の入社以降、3DCGの中間ファイルを表示する内製3DCGビューアや、内製パーティクルエディタの機能拡張を担当してきたとふり返った。「既存ツールの機能拡張だったので先輩たちの書いたコードを参照できたのに加え、満たすべき要件を細かく提示してもらえたため、新人の私でも対応できました」(清水氏)。

▲【左】清水氏が経験してきたTA業務を紹介するスライド/【右】発表中の清水氏。内製パーティクルエディタの機能拡張においては、清水氏の働きによってパーティクルの編集機能が向上し、作業が大幅に効率化されたという


もう一方の今野氏は、2015年の入社以降、アーティスト業務を行いつつ、現場の要望に応じてTAとしての業務も行なってきた。代表的なものとして、過去のプロジェクトで使用した大規模なシーンデータを、一括で新規プロジェクトのシーンへ移行するスクリプトを制作した事例を紹介してくれた。「当初は複数人の手作業で行う予定だったのですが、スクリプトによってかなりの工数を削減できました。そのほかにも、新しく導入するDCCツールの検証や、細々としたツール開発などを随時行なっています」(今野氏)。

▲【左】発表中の今野氏/【右】プロジェクト間での大規模データの一括移行業務を紹介するスライド。「これまでに経験したTA業務の中で、最もわかりやすく効率化できた事例です」(今野氏)


清水氏と今野氏の発表を受けて、参加者からは「ツールの機能拡張やスクリプト制作は切り分けて依頼しやすいため、新人TAの育成に適した業務だと思います」という主旨の意見が出された。その一方で、別の参加者からは「これらの業務を担当する人たちは、当社ではプログラマを名乗っています。プログラマの知見でもって、提示された要望に応えることは比較的容易です。反対に、要望を提示するためには、テクニカルへの理解に加え、アーティストの知見も持ち合わせている必要があります。われわれは、それができる人をTAと定義しています。理想を言えば、そういうTAを、各タイトルに1〜2名配置したいと考えています」という趣旨の意見も出された。

また、新卒からTAとして育成されてきた若手参加者の1人は「先輩TAからは、『ツールをつくるだけでなく、問題の本質を見極め、本当にツールが必要なのか、そもそもワークフローを改善しなければいけないのか、判断できるようになることが大事』と言われています」と語った。

以上の意見をまとめると、TAには、能動的に情報を収集し、ときには他者と対話や折衝も行い、状況を理解・分析し、問題解決のための方法を提示する力が期待されていると言えるだろう。言うまでもなく、他者の要望に応じてツールをつくるだけでは前述の力は培われない。期待に応えるためには、タイトル開発に従事するチームメンバーのもとに出向き、要望を吸収し、最適解の提案を試みる経験が不可欠だろう。そのことを、本人はもちろん上長たちも理解し、目的意識をもったキャリアパスを構築していく必要がある。

実際、CGプロダクションでTDを務める参加者からは「私の隣の席にも、新卒からTDとして育成している若手がいます。ワークフローへの理解が浅い状態でツールを開発しても、使い勝手が悪く、現場ともめてしまいがちです。そのためアーティストとしっかり対話させることを意識しています。対話することで、それなりに使いやすいツールへと仕上がっていきます」という主旨の意見が出された。

余談になるが、ドイツにあるフィルムアカデミー(Film Academy Baden-Württemberg)のTD育成課程(2年間)では、TD志望の学生が、プロデューサー、コンセプトアーティスト、アニメーター、エフェクトアーティストなどを志望する学生と一緒にチームを結成し、1つの作品を制作する。その経験を通して、チーム内の問題解決のための、パイプライン構築、リギング、シミュレーション、シェーダ開発、ツール開発などに取り組み、TAの素養を培うカリキュラムとなっている。セッションで語られた先の内容と付き合わせてみると、このカリキュラムは理に適っていると感じる。

画づくりに関わるのかと思いきや、一見すると関係ない仕事も多い

セッションでは、清水氏と今野氏以外の若手TA参加者5名が、学生時代から現在にいたる経歴を紹介する一幕もあった。その内容も列記しよう。

大学にて情報工学を専攻し、CGプログラミングを学ぶ。一方で背景制作を趣味としており、学業の傍ら、背景の仕事を受けていた。ゲーム会社に背景アーティストとして採用されたが、自主的にTA業務も行う。背景のモデリング、テクスチャリングと並行して、背景関連のツール開発、DCCツールの検証なども担当している。背景の改善案は提示できているが、モーションやエフェクトなど、他工程の改善案を提示できるまでにはいたっていない。

情報系の大学でプログラミングを学ぶ傍ら、CGプロダクションでリギング関連のツール開発、ショットワークを担当。2017年4月にゲーム会社へ入社。モデリングやアニメーションなど、社内の各セクションを周り、アート全般を網羅できるTAになるための勉強を続けている。

大学にて情報工学を専攻し、CG系の研究室に所属。ゲーム会社に入社した後、CG制作とプログラミングの中間に位置する仕事をしたいと希望し、TAの部署に配属される。現在は主にツール制作を担当しているが、自主的にアートの勉強をしており、自分で制作も行なっている。アートに対する理解がなければ、TAを名乗れないと感じている。

美術大学で手続き型(プロシージャル)のCG制作に関する研究や、デザインの勉強をする。学生時代は3DCGのDCCツールにほとんど触れておらず、ゲーム会社に入ってから本格的に扱うようになった。デザインへの理解がある一方で、プログラミングもできることからTAとして採用された。現在はTAの部署に所属している。ひとくちにTAと言っても、先輩たちの立ち位置は様々で、もっぱらツール制作に従事している人もいれば、モーション制作まで行う人もいる。

大学でシェーダを研究する傍ら、映像やゲームを制作していたため、ゲーム会社にTAとして採用された。

前述の5名全員が、学生時代からプログラミングやCG関連の研究を行う一方で、アートやデザインにも深い興味をもっていたようだ。その経験が評価された結果、新卒からTAとして育成されるようになったと推測される。

そんな彼らに対して、別のゲーム会社で若手TAを育成中の参加者から「TAという役割の中には、多岐にわたる仕事が含まれます。『最初に想像していた仕事とちがう』と思った経験はありますか?」という質問がなされた。これに対し、若手TAたちからは「確かに、入社前に想像していた内容とは全然ちがう仕事を割り振られることもあった」「画づくりに関わるのかと思いきや、ツールのバージョン管理、アセット管理システムのメンテナンスなど、一見すると画づくりに関係ない仕事も多い」「相当プログラミングに寄っている、というのが正直な感想」「ギャップはあったが、やっていくうちに楽しめるようになった」などの回答が寄せられた。

前述のCEDEC 2017における別のTA関連セッション「芸術と科学の融合とTechnical Artist」(※2)で出された意見ではあるが、セガゲームスで長年TAを務めてきた麓 一博氏は「グラフィックのクオリティを上げる仕事は、TAの仕事としては希少で、携わっている人は少ないです。TAの仕事は意外と泥臭くて、アーティストの細かい要求に応えたり、どうやったら1分1秒を短縮できるかを追求したりするものが大半です。成果としてはすごく見えづらく、評価が難しい。若手TAの採用においても、その人にTAの素養があるかどうかを見極めるのは難しいと思います」と語っている。

※2 本セッションは芸術科学会とCEDECのコラボレーションによるパネルディスカッションで、清水氏と今野氏によるラウンドテーブルの終了直後に実施された。ゲーム、あるいはCG関連の教育・研究に携わる大学教員3名と、麓氏を含むゲーム開発者2名によるパネルディスカッション形式で、TA育成に関する活発な議論が交わされた。

TAの仕事内容と重要性を若手が理解できるように説明する、TAの素養がある若手を発掘し、適正に評価する仕組みをつくるといったことも、継続して取り組む必要のある課題と言えそうだ。

以上が本セッションにて語られた内容の骨子である。今後も、TA育成に関する活発な意見交換や取り組みが実施されることを期待したい。





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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