2017.09.13 Wed

中高生のための3Dカリキュラム&教材開発への挑戦>>Life is Tech ! サマーキャンプ2017 Maya 3DCGコース

中学生、高校生のためのプログラミング・ITキャンプ、スクールを運営するライフイズテック(Life is Tech ! )は、2017年7∼8月のサマーキャンプより、新たにMaya 3DCGコースをスタートさせた。5日間を基本に設計された本コースのカリキュラムと教材には、3D制作を初めて体験する中学1年生∼高校3年生のメンバー(※1)が、楽しみながら伸び伸びと3D作品をつくるための工夫が数多く盛り込まれている。技術監修を担当したメンター(※1)の佐藤海里氏へのインタビューを通して、本コースの企画から実施までの内幕を紹介する。

※1 ライフイズテックでは、キャンプやスクールに参加する中学生・高校生を「メンバー」、メンバーの学びをサポートする大学生を「メンター」と呼称している。

佐藤海里氏(Maya 3DCGコース メンター)

デジタルハリウッド大学4年生

同大学1年次より、ライフイズテックにてメンターを務める。Unity ゲームプログラミングコースのメンターを経て、現在は映像制作コースとMaya 3DCGコースのメンター、およびテクニカルサポートを担当。Maya 3DCGコースでは、カリキュラムや教材開発にも関わっている。
vimeo.com/user26443317

ガチのMaya使いの意見のみを集約した教材だと、中高生にはレベルが高すぎる

CGWORLD(以降、C):佐藤さんはMaya 3DCGコースに加え、映像制作コースや、サマーキャンプ2017のOP映像制作にも関わっているそうですね。

佐藤海里氏(以降、佐藤):メンター仲間にドローンを所有している人がいたので、それを使ったOP映像を撮れば、見てくれるメンバーのテンションが上がるだろうと思いながら制作しました。デジタルハリウッド大学では板屋宏幸先生(同大学 客員教授)のゼミで映像制作を学んでおり、学外ではミュージックビデオ制作などの仕事にスタッフとして参加しています。ライフイズテックではMaya 3DCGコースにも深く関わっていますが、どちらかというと、3Dよりも映像制作の方が得意なのです。

▲全国各地のサマーキャンプの会場にて、キャンプ初日に上映されたOP映像。佐藤氏を含むメンター2名で制作している。「『夏』『発見』をコンセプトに、絵コンテを描きながらイメージを膨らませました。撮影に1日、合成・編集に1週間ほどかけています。使用ソフトウェアはAfter EffectsとPremiereです」(佐藤氏)(OP映像制作:佐藤海里、清水良広)


C:Mayaを使ったVFXやフルCGアニメーションよりも、After Effectsを使った映像制作やモーショングラフィックスの方が得意というわけですね。Maya 3DCGコースの技術監修やテクニカルサポートを担当なさっているので、「ガチのMaya使い」だろうと勝手に予想していました。

佐藤:デジタルハリウッド大学には、徹底的にMayaだけをやり込んで卒業していく人もいますが、僕は全然ちがいます。1∼2年次にMayaや3D制作で挫折を味わい、映像制作に転向したという「ガチ」からほど遠い過去の持ち主です(苦笑)。

C:意外すぎますね。どんな経緯があって、今の役割を担うようになったのでしょう?

佐藤:1∼2年次にMayaを勉強した際、僕より技術力の高い人たちに圧倒されたのです。「3Dはできる人たちがやれば良い。僕は映像の方が向いている。映像で勝負しよう」と思うようになりました。その頃から、ライフイズテックでも映像制作コースのメンターに転向しました。一方で、「いずれはMaya 3DCGコースを立ち上げたい」という話は、僕がライフイズテックに関わり始めた当初から耳に入っていたのです。その話が本格化し始めたのが2016年の後半で、「Mayaを学んだ経験があるなら、カリキュラムや教材開発に参加しませんか?」という誘いを受けました。

C:一度は距離をおいたMayaと再び向き合うことになり、抵抗はありませんでしたか?

佐藤:よくない言い方かもしれませんが「中途半端な僕の方が、中高生のためのカリキュラムや教材開発には向いているかもしれない」と思いました。「ガチのMaya使いの意見のみを集約した教材だと、中高生にはレベルが高すぎるんじゃないか」「一度は挫折した僕だからこそ、できない人の気持ちに寄り添った意見を提案できるんじゃないか」と考えたのです。

ひとくちに中高生と言っても、中学に入学したばかりの1年生と、高校卒業を目前にした3年生とでは、理解力も集中力も、興味の対象もまったくちがいます。キャンプの参加者全員に、今後の可能性を広げるような楽しい3D制作を経験してもらえるよう、「かつての挫折をカリキュラムや教材開発に生かしたい」と思いました。

意識して「区切り」を設け、しっかりMayaを勉強する時間を確保

C:サマーキャンプに先駆けて、2017年4月にMayaの1日体験会「Maya 3DCG Special 1day」(※2)を開催しましたね。そこでの手応えは如何でしたか?

※2 1日体験会の模様は、CGWORLD Entry.jpの記事「中学生・高校生が工作感覚で3DCG制作を満喫>>Maya 3DCG Special 1day」にて紹介している。

佐藤:モデリングに対する食い付きが凄かったです。そうなるだろうと事前に予想していましたが、予想を遥かに超える集中力を見せた人もいました。ひたすらモデルをつくり込み、「色を付けてね(マテリアル カラーを設定してね)」と言っても、素直に聞き入れてくれないケースもありました。言えば聞いてくれるだろうと思っていたのですが、甘かったです(苦笑)。

C:「モデリングが人気」という点は、専門学校や大学での3D教育にも共通していますね。モデリングに時間を使いすぎて、テクスチャ制作・マテリアルやシェーダ設定・リギング・レイアウト・アニメーション・エフェクト・ライティング・レンダリングといった後工程の学習がおろそかになりがちという話をよく聞きますが、中高生の1日体験会でも同様の傾向が見られた点は興味深いです。

佐藤:確かに、モデリングが人気という点では一緒だなと感じました。ただし専門学校や大学での3D教育とはちがい、ライフイズテックの目的は「楽しく3Dを学んでもらうこと」なので、中高生の表現欲求に合わせて、キャンプ用の教材はよりモデリングに重点を置いた内容へと変更しました。

キャンプの1日目∼2日目の午前中までは、「MOZER」というブラウザベースのオンライン学習システムに沿って、Mayaの基本操作とモデリングの基礎を学びます。モデリングの作例は車・ヒヨコ・ハンバーガーの3種類を用意しており、好きなものを選んで真似をしながらつくってもらいます。モデリングに重点を置くとは言っても、マテリアル設定・ライティング・レンダリングなど、3Dの醍醐味を味わう上で最低限必要なことは学べる設計にしてあります。

C:1日体験会の参加者のように、ひたすらモデルをつくり込むメンバーはいましたか?

佐藤:キャンプでは意識して「区切り」を設けるようにしたので、同様のケースは起こっていません。メンバーには「まずしっかりMayaを学んでみよう。その方が、後ですごい作品をつくれるようになる。焦らなくても、つくりたいものを自由につくれる時間も用意してあるよ」と説明しています。キャンプの場合は5日間を基本に設計されているので、メンバーもメンターも、余裕をもって取り組めています。

C:2日目の午後からは、自由制作の時間ですか?

佐藤:その前に、つくった作品を見せ合う共有会をやります。Maya3Dコースの全メンバーが作品を見せ合い、自分の頑張ったところを説明します。合わせてメンターは、改善点や、つぎに取り組むと良い点などをアドバイスします。それが終わったら、3日目の午前中までは自由制作の時間です。「MOZER」にはMayaの様々な操作を学べるTIPSも数多く用意してあり、必要に応じて参照してもらいます。キーフレームアニメーションをはじめ、アニメーションの基礎も学べるようにしてあるので、アニメーションをやりたい人にはTIPSを勧めます。

▲【左】メンバーの個人作品。「MOZER」(教材)の作例を真似てつくったヒヨコと個人作品が並んでいる/【右】同じく個人作品。このメンバーは3D制作に初めて挑戦したが、実在する戦車の資料をインターネットで検索し、素晴らしい集中力で地道に再現していったという


▲同じく個人作品。スケートリンクとスケート靴をはいた女の子をモデリングし、キーフレームアニメーションを付けている


▲同じく個人作品で、ゲーム『Minecraft』のプレイヤーキャラクターとして知られるスティーブを再現している。長方形のポリゴンメッシュに色を割り当て、顔や衣服までつくり込んでいる点が面白い。さらに関節位置に回転アニメーションを付け、歩行モーションも表現している

伸び伸びとつくることに重点を置き、問題が起こったらリカバリーを手伝う

C:先ほど自由制作の様子を見学しましたが、多角形ポリゴン、法線反転ポリゴン、ねじれポリゴンなど、いわゆる「不正ポリゴン」を量産している人もいましたね。ポリゴンの分割数が必要以上に多い人もいて、なかなかに衝撃的でした(苦笑)。あの様子だと「法線とは何か」を教えたり、「三角形、あるいは四角形ポリゴンしか使わない」といった縛りを設けたりはしていないのでしょうか?

佐藤:していません。カリキュラムや教材開発に際しては、膨大にあるMayaの機能と3D制作に必要な知識の中から、何を残してどう伝えるか、すごく悩みました。メンバーたちが、どこまでなら楽しんでくれるか、どこからは難しいと感じるか、見極めるのは本当に難しかったです。悩んだ結果、「自由に伸び伸びとつくってもらうことに重点を置き、問題が起こったらメンターがリカバリーを手伝う」という今の方針に落ち着きました。

C:......お疲れ様です。メンターがデータ修復を手伝う過程で、少しずつ3D制作の理屈も理解していってくれると良いですね。

佐藤:教材はアップデートしていくので、徐々に詳しい知識や解説を追加したいとも思っています。

C:3日目の午後からは、何をするのでしょう?

佐藤:2日目と同じように、自由制作でも共有会をやります。その後はチームごとにテーマを決めて、テーマに沿った3Dモデルを各メンバーがつくっていきます。1チームの人数は4∼6人程度で、最終的には全てのモデルを1つのシーンにインポートします。カメラワークを付けるなどして動画にすると、メンバーたちはすごく喜んでくれますね。

▲【左】メンバーの個人作品。グループ作品の担当モデルをつくり終えた後、最終日(5日目)の数時間でつくり上げたという/【右】「机の上」をテーマとする、6人のグループ作品


▲「パソコンのCM」をテーマとする、6人のグループ作品。「リンゴのモデリングにこだわり、細かなところまでつくり込んだメンバーがいたので、そのリンゴとパソコンを組み合わせたグループ作品へと仕上げることを目指しました」(佐藤氏)


C:個人制作に加え、チーム制作も体験してもらうわけですね。

佐藤:チーム制作では、各メンバーの担当モデルの名前をポストイットに書き、チーム内で共有するようにしています。モデルが完成したら、「制作中」のエリアに貼っているポストイットを、「完成」のエリアに張り直します。実際のCG制作やゲーム開発でプロがやっているタスク管理を、ゆるく楽しく体験してもらいたいという思いで設計しました。

C:素敵な試みだと思います。チーム制作のテーマやつくるものも、メンバーが自由に決めているのでしょうか?

佐藤:基本的には任せていますが、中には何をつくったらいいのかわからないメンバーもいます。そういうメンバーから話を引き出し、何をつくるかを一緒に考える場合もあります。例えば、その人の好きなものを聞いて、それをつくるにはどうすればいいか、教材のどの部分が参考になるかをアドバイスしたりします。

C:3D制作は1つのゴールに対して様々なアプローチができてしまうので、そのメンバーにとって最適なつくり方を提案する手腕が問われそうですね。

佐藤:その通りです。メンターはMayaの様々な機能を知っている必要がありますし、メンバーに対するコーチングやファシリテーションの力も求められます。僕を含め最初から完璧にできるメンターはいませんが、必要に迫られ場数をこなしていく中で、次第に役割を果たせるようになります。

ライフイズテックを通して、僕自身がすごくいい経験をしてきましたし、この経験は今後の財産になると感じています。Maya3Dコースのメンバーも、コースでの経験を通して、自分の未来をより楽しいものにできるきっかけを掴んでほしいと願っています。

C:そうなることを期待したいですね。お話いただき、有難うございました。

▲東京大学 本郷キャンパスで8月に実施されたキャンプの様子。最終日の発表会で、他コースのメンバーや保護者を前に、Maya 3DCGコースの作品を紹介している


▲前述の発表会の直後に行われた体験会の様子。メンバーの中にはUnityゲームプログラミングコースなどでUnityを学んでいる人もおり、「いずれは、自作の3DモデルをUnityにインポートして使いたい」という豊富を語ってくれた





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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