2017.08.23 Wed

短編アニメ『イリオンとカリシア』>>なかむら たかし監督の持ち味を、白組が3Dで表現

短編アニメ『イリオンとカリシア』(2017)は、短編アニメ『寫眞館』(2013)の監督、劇場アニメ『AKIRA』(1988)の作画監督などで知られる、なかむら たかし監督の最新作だ。Edinburgh International Film Festival 2017(以降、EIFF2017)や、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2017(以降、SSFF&ASIA2017)で上映され、芸術性の高さや、なかむら監督の持ち味である緻密で繊細な表現が評価された本作は、同監督が手がける初の3DCGアニメーションという点でも注目を集めた。前述のなかむら監督の持ち味と、3Dならではの複雑でダイナミックな表現を両立させた本作は、なかむら監督作品の新たな魅力を観客に提示している。そんな本作の約100カットにのぼる3Dは、白組のゼネラリストチームによって、約4ヶ月間で制作された。以降では、同チームの4氏へのインタビューを通して、3D制作の舞台裏を紹介する。

吉田裕行氏(ディレクター/VFXディレクター)

株式会社 白組

本作のCGディレクター。なかむら監督が目指す画づくりを限られた時間内で実現するため、スタッフ編成・制作方針・監督による修正指示の解釈など、多方面にわたり采配をとった。

鳥居 豪氏(VFXディレクター)

株式会社 白組

本作では、前半に登場する妖魔のモデリング・シェーダ設定・セットアップと、妖魔登場カットの制作を中心に担当した。

奥山 光太郎氏(VFXデザイナー)

株式会社 白組

本作では、メインキャラクターであるイリオンとカリシアのモデリング・シェーダ設定・ベースコンポ制作(3ds MaxからAfter Effectsへ各種素材を出力する際の基本設定の制作)に加え、イリオンとカリシアが登場するカットの制作も担当した。

矢野 剛氏(VFXディレクター)

株式会社 白組

本作では、プロジェクト専用のWiki(情報共有・管理ツール)の制作、作業効率化のための各種ツール開発などを担当。さらにアクションが得意という強みを活かし、前半の妖魔とイリオンが戦うカットの制作も担当した。

shirogumi.com

カット単位で監督の要望に応えるため、ゼネラリスト中心のチームを編成

「仲の良い姉弟のカリシアとイリオン。ある日、ユニコーンを捕まえようとする父親の行為によりカリシアが連れ去されてしまう。10年後、イリオンは強い戦士として成長し、王より賜ったユニコーンの角の剣を手に、ユニコーンの棲む空中庭園を目指す......」というのが本作導入部のストーリーだ。全体の尺は7分28秒で、イリオン、カリシア、妖魔、ユニコーンといったキャラクターは基本的に3Dで表現されている(一部カットは2D)。エフェクトは3Dと2Dを併用しており、どちらも白組が手がけた。背景はでほぎゃらりーによる2Dの美術で表現されている。

白組での制作開始は2016年7月中旬で、なかむら監督によるキャラクター設定や絵コンテは完成していた。「絵コンテの段階から、なかむら監督が目指す画づくりは非常に明確でした。カット単位で監督の要望に応えられる、柔軟な制作体制が必要だろうと感じたので、各々が全工程に対応できるゼネラリスト中心のチームを編成しました」とCGディレクターの吉田裕行氏は語る。制作に関わった白組スタッフは吉田氏を含めて16名で、3D制作(メイン)9名、3D制作(サポート)4名、2Dエフェクト制作2名からなる。

約1ヶ月でキャラクターのラフモデルを仕上げ、8月中旬からはレイアウトやアニマティクスの制作も開始された。その後、ラフモデルを完成モデルに差し替え、カット単位の微調整を経て、11月初旬に全ての作業が完了したという。「まずはキーとなるカットを先行して制作し、なかむら監督の反応を確認したうえで、関連するカットの制作に着手するという手順を踏みました」(吉田氏)。

前半に登場する妖魔は3Dならではの表現が求められており、イメージを共有しながら進めた結果、比較的スムーズにOKをもらえた。その一方、妖魔と戦うイリオンのアクションや、空中庭園でのカリシアのカットはチェックが厳しく苦戦したという。

▲【左】鳥居 豪氏が担当したカット12。妖魔のアニメーションの方向性を探るため、鳥居氏が最初に手がけたキーとなるカットだった。シンプルなカットだが、妖魔の神秘的な雰囲気が感じられるよう努めたという/【右】矢野 剛氏が担当したカット38。イリオンの剣のクロースアップショットから、剣のギミックが展開し、イリオンのクロースアップショットを経て、ロングショットへと移り変わる約3秒のカット。短い尺の中で、カメラワークもキャラクターのアクションも目まぐるしく変化する。「なかむら監督に細やかなご意見をいただき、イリオンの一瞬の表情やシルエットにもこだわり、1フレーム単位で調整しました。どのフレームを切りだしても、格好良いカットに仕上がったと思います」(矢野氏)


▲奥山 光太郎氏が担当したカット98。イリオンが見守る中、カリシアとユニコーンがふれ合う約6秒のカット。カリシアの足が組み代わる際、髪や足が衣服にめり込まないよう、細かくボーンを追加して、手付けで動きを調整している。「シミュレーションを使うと動きすぎてしまうのに加え、めり込んだ際の修正が大変だったので、柔軟に形を修正できるようボーンを入れ直しました。手間はかかりましたが、違和感のない動きになったと思います」(奥山氏)

『手描きでは難しい表現』&『白組の強みを生かした表現』が探求された妖魔

モデリング・シェーダ設定・セットアップにおいて、最も試行錯誤を要したキャラクターは妖魔だった。「キャラクター設定の時点で、ほかのキャラクター以上に不確定な部分が多かったため、検討することが多々ありました。なかむら監督からは『手描きでは難しい表現で、なおかつ白組の強みを生かした表現にしてほしい』という宿題を頂戴していたので、早い段階から着手しましたね」と鳥居 豪氏は語る。

本作において、鳥居氏は妖魔のモデリングから、キーとなるカットの制作までを一貫して担当している。「短期決戦のプロジェクトだったので、メインスタッフには、各々の得意分野を集中して担ってもらいました。鳥居はスクリプト制作やアニメーションにも対応できるゼネラリストなので、妖魔の担当に最適だと判断したのです」(吉田氏)。

▲【左】なかむら監督によるキャラクター設定。植物のツルや根が複雑に絡み合った、手描きアニメーションでは表現しづらいデザインになっている。イリオンとの大きさのちがいも描かれている/【右】妖魔とイリオンが戦う際のアクションイメージ


▲前述のキャラクター設定を基に、鳥居氏が3ds Maxで制作した妖魔の3Dモデル。植物由来のキャラクターのため、骨格や筋肉といった制約に縛られない動きが期待されることを見越し、セットアップを進めたという。CAT(Character Animation Toolkit)をベースにしているが、複雑な伸縮・ツイスト(ねじれ)にも対応できるよう、スプラインIKなどを使ってリグが拡張されている


▲【左】手描きでは難しい3Dならではの複雑な形状にするため、全身を構成するツルには太さの変化とうねりをつけている。ツルは全て独立したモデルになっており、膨大な数にのぼるため、名前に規則性をもたせ、モーフィングの割り当てなどをスクリプトでサポートできるようにしている/【右】妖魔の頭部の内側は、SpeedTreeという樹木制作用ソフトでつくられている


▲【左】妖魔の体表から生える触手は、3ds MaxのHairで表現されている/【右】より複雑な動きにするため、Hairに加え、Tentaclesというタコの足のような動きを生成するスクリプトも併用している。かなり前に開発されたスクリプトのため、3ds Max 2016で動作するよう、一部を修正しているという


▲テスト段階の妖魔(ターンテーブル)


▲テスト段階の妖魔(歩行)。「妖魔の制作に当たっては、『AKIRA』をはじめ、なかむら監督が手がけてきた作品からイメージを膨らませています。3Dを使うことでどんな表現が可能になるのか、なかむら監督自身も手探りしている様子でしたが、初期のチェック段階から良い評価をいただけました」(鳥居氏)。妖魔のデザインと3Dならではの表現がマッチしたようで、妖魔に関しては、その後のカット制作も比較的スムーズに進められたという


▲鳥居氏が担当したカット4。3Dならではの表現を探求する一方で、2Dの美術と合わせたときに違和感が出ないよう、試行錯誤が繰り返された。色数を制限しつつ、印象に残る表現にするため、妖魔のハイライト部分に薄いグラデーションを加えたという


▲鳥居氏が担当したカット31。妖魔がツタをしならせながらイリオンを追跡する、ダイナミックなカットに仕上がっている


▲カット41の制作中に、なかむら監督が描いた参考資料。「なかむら監督が求める動きの勢い、タイミング、シルエットなどが伝わり、アニメーションを付けるうえでとても参考になりました」(鳥居氏)


▲前述の参考資料を基に、鳥居氏が仕上げたカット41

線1本のニュアンスにもこだわった、イリオンとカリシア

前述の妖魔とは対照的に、イリオンとカリシアの表現では、なかむら監督の持ち味に3Dを近付けることが求められた。「イリオンとカリシアのカットに対しては、作画監督修正のような細かい指示をいただきました。ある程度は予想して、自由度の高いリグやベースコンポをあらかじめ用意していましたが、想像以上に厳しいチェックで、どうやってご要望にお応えしたものか試行錯誤しましたね」(吉田氏)。

なかむら監督の絵コンテから、求められるレイアウトや線の流れをくみ取り、3Dで表現する。その画に対して、なかむら監督が修正指示をする。その指示を踏まえ、さらに理想の画づくりが探求されたという。

「上まぶたの線1本、カゲの線1本であっても、理想の線を探り、表現することが求められました。しかも、キャラクターの感情やポーズが変われば、答えも変化していきます。例えば、腕をふりかぶった場合の重心の移動を表すには、どんな線で体幹を表現するべきか......。そういった線1本のニュアンスに対して、なかむら監督は強いこだわりをもっていました」と、イリオンとカリシアのモデルや、カット制作を担当した奥山 光太郎氏はふり返る。

「どうすれば最短時間で理想のカットを仕上げられるか、各カットの担当者と相談しつつ、最適解を模索しました。モデルでの調整、リグでの調整、マスクでの調整など、選択肢は多岐にわたったので、ゼネラリストでなければ対応は困難だったと思います」(吉田氏)。

▲【左】なかむら監督が描いた絵コンテ/【右】3Dによるカット108の上から描かれた、なかむら監督の修正。カゲの線、髪の配置などが、細かく指示されている


▲地面に広がる髪の配置は、モデル自体を調整している。一方で、動きが伴う部分はボーンを追加して調整する、ポーズ修正の場合は3ds MaxのFFD(Free-Form Deformation)で形を歪ませるなど、最適解が臨機応変に選択された


▲【左】奥山氏が制作したカリシアのベースコンポ。様々な修正に対応するため、アセットの構造に合わせて各種素材を3ds Maxから別々に出力できるようになっている。イリオンとカリシアが登場するカットであれば、2体分のベースコンポを、シーンコンポに読み込んで使用する。カットごとに素材の差し替えが必要だが、専用ツールも用意されている。ベースコンポを大きく組み替える必要はなく、レタッチが必要な場合は、ベースコンポ内のレタッチレイヤーを表示し、マスクを使って調整する/【右】カット108のカリシアのマスク


▲【左】同じく、基本色/【右】カゲ色


▲【左】同じく、髪のハイライトと、顔のパーツのマスク/【右】髪のハイライト。例えばレタッチによってカゲの面積を増やしたい場合には、カゲ色の素材と、マスク素材を使用する。マスク素材は、髪、肌、服(数パターン)、髪のハイライトなど複数存在し、部位ごとに切り分けてレタッチが行えるようになっている


▲【左】ベースコンポのレタッチレイヤーを使用し、なかむら監督の修正指示に合わせ、顔のカゲのラインを調整している。同様に、髪のハイライトもマスクによるレタッチで調整している/【右】完成カット。「本作の場合は、コンピュータの計算によって導き出されたカゲではなく、なかむら監督が美しいと感じるカゲが求められました。そのため、カゲ修正の多くはレタッチで対応しています」(吉田氏)

情報共有・管理を一元化するWikiを制作し、大幅な効率化を実現

本作は約4ヶ月という、白組としては比較的短期のプロジェクトだったが、カット数が多く、途中で加入するスタッフも多かった。加えて大半がゼネラリストのため、カット制作の全工程(レイアウト→アニメーション→ライティング/レンダリング→コンポジット)を1人で担当するケースが大半で、覚える仕様やツールが多いという特徴もあった。そのため、プロジェクトの初期段階で専用のWiki(情報共有・管理ツール)がつくられた。

「こういうプロジェクトの新任者は、必要な情報がどこにあるかわからず、情報の収集・習得に時間をとられがちです。加えて、先任者は新任者への情報通達・ノウハウ伝授に時間をとられがちです。そのためツール開発よりも、情報共有・管理の一元化の方が、より重要な課題でした」とWikiの制作やツール開発を担当した矢野 剛氏は語る。

日常的に使用する香盤表・仕様書・ツールの使用方法・ノウハウの蓄積(Tips集)などを誰もが迷わずに閲覧・追記できるWikiをつくったことで、「わからないことがあれば、まずはWikiを見る」「Wikiを読めば、誰でもわかる」というシンプルな体制が構築でき、大幅な効率化が実現したという。

▲『イリオンとカリシア』プロジェクトの専用Wiki。白組が契約しているGoogleのサービス内にある、Googleサイトという、Webサイト制作・共有サービスを使ってつくられている。例えば上記ページでは、3ds Max用ツールの位置と、使用方法が解説されている。ほかのプロジェクトを並行して担当している人のための「プロジェクトアイコン(プロジェクト切り替えスイッチ)」、現在ロードされているファイルがプロジェクトのフォーマットに適合しているかを表示する「シーンステータス」、深い階層のショットファイルに短時間でアクセスできる「ショットローダー」などのツールが並んでいる

なかむら監督のファンから良い反応をもらえたことが、一番嬉しかった

「プロジェクトの開始当初から、なかむら監督の持ち味や作風を3Dで表現することが、われわれの最優先課題だと思っていたのです。SSFF&ASIA2017での上映後の評判を確認して、その判断は間違っていなかったと改めて感じました」(吉田氏)。なかむら監督のファンは、監督の持ち味や作風に愛着をもっており、とても大事にしている。そんなファンから良い反応をもらえたことが一番嬉しかったという。

一方で、イギリス(エディンバラ)のEIFF2017で本作を見た観客には、芸術性の高い作品として、特にそのデザインが評価されたそうだ。

「本作が、なかむら監督作品の1つとして、多くの方々に認知していただけることを願っています。なかむら監督との仕事は学ぶことが多く、新鮮で楽しい経験でした。機会があれば、またお声がけいただきたいと思います」(吉田氏)。





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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