2017.08.16 Wed

藤原淳雄氏(Sony Pictures Imageworks シニアアニメーター)>>12原則は各工程でどのように使われるのか

アニメーションの12の基本原則(以降、12原則)は『Disney Animation / The Illusion of Life』(1981)という書籍(※1)において解説されている用語で、Walt Disney Animation Studios(以降、Disney)を起源とする欧米スタイルのアニメーションの根底を支える技術であり、共通言語でもある。しっかり修得することで、キャラクターに命を与える手助けとなる。加えて、欧米スタイルの映画業界においては、ディレクターやスーパーバイザー(以降、SV)からのアニメーション・レビューを理解する手助けにもなる。

そんな12原則は、実際のアニメーションの各工程において、どのように使われるのだろうか。CGアニメーションに特化したオンラインスクールAnimation Aidにて、12原則やその応用などを教えるSony Pictures Imageworks(以降、SPI)シニアアニメーターの藤原淳雄氏に解説していただいた。

※1 本書は『生命を吹き込む魔法』(2002/徳間書店)というタイトルで日本語版も出版されている。

藤原淳雄氏(シニアアニメーター)

Sony Pictures Imageworks

大阪府出身。東京でCGデザイナーとしてキャリアを開始。4年後の2006年よりカナダに移住し、CM・TVシリーズ・ゲーム・映画など様々なジャンル、複数の会社で経験を積む。現在はバンクーバーのSony Pictures Imageworksに所属。『The Emoji Movie』(2017/日本未公開)、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(2016)、『スーサイド・スクワッド』(2016)、『ソーセージ・パーティー』(2016)、『スマーフ2 アイドル救出大作戦!』(2013)などの制作に携わる。オンラインスクールAnimation Aidの発起人であり、2016年初頭の開校後は同校の運営にも携わっている。
藤原氏のアニメーションリール
www.imageworks.com

物理法則に則った美しいアニメーションを通して、ストーリーをシンプル&クリアに伝える

CGWORLD(以降、C):Animation AidのWorkshopでは、最初に12原則を教えているそうですね。

藤原淳雄氏(以降、藤原):Workshopはアニメーションの技術に関するレクチャーと、課題のレビューがメインとなるコースで、Workshop1〜5に分かれています。12原則とアニメーションの基礎を理解していなければWorkshop2以降に進めないので、Workshop1の受講者が一番多くなっています。

▲【左】AnimationAid のWorkshopの構成/【右】インタビューに答える藤原氏。本取材は、「アニメーションエイドによるアニメーション中上級テクニック講座:1日目 キャラクターの魅力を引き出すポーズ」の開始前に行われた


▲AnimationAid 2016年9月クラスの優秀作品がまとめられたリール


C:どんな方が受講しているのですか?

藤原:学生もいれば、日本のCGプロダクションやゲーム会社に勤務している現役のアニメーターもいます。僕自身、日本にいた頃は12原則を含むアニメーションの基礎を学ぶ機会がなく、学校も知らなかったので、カナダへの移住後に勉強しました。特に、欧米スタイルのアニメーションに携わるのであれば、12原則は必須の技術です。12原則を使う目的は、大きく分けて3つあります(下記参照)。

12原則はなぜ必要か?
違和感のない物理世界を表現するため
観客を魅了する、美しいアニメーションを表現するため
ストーリーを、シンプル&クリアに伝えるため

アニメーションの観客は、生まれてから今日まで、物理法則が機能する世界で生きています。誰もが物理世界を見慣れており、熟知しています。そのため、アニメーションのキャラクターが物理法則に反した動きをすると、即座に違和感をもち、ストーリーに集中できなくなるのです。物理法則に則った美しいアニメーションを通して、ストーリーをシンプルに、クリア(明確)に伝えることが、12原則を使う目的です。

3つの方法を混ぜ合わせ、アイデアをできるだけ早く形にする

CPixar Animation Studios(以降、Pixar)や、Disney、SPIのアニメーションは、5つの工程を経て、完成度を高めていくそうですね(下記参照)。まずは、各工程の内容を教えていただけますか?

アニメーションの工程
Kickoff(キックオフ)
Planning(プランニング)
Blocking(ブロッキング)
Splining(スプライニング)
Polishing(ポリッシング)

藤原:映画のショットにおけるアニメーション制作では、最初にディレクターやSVなどからショットの説明を受けます。これをKickoff(キックオフ)と呼びます。次に、各アニメーターがショットのディレクションに沿って、どんなアニメーションにするかアイデアを考えます。これをPlanning(プランニング)と呼びます。続いて、アイデアをできるだけシンプル&クリアな形にしてディレクターに見せます。これをBlocking(ブロッキング)と呼びます。アイデアに対するOKが出たら、どんどん完成度を高めていき、アニメーションカーブを滑らかにするSplining(スプライニング)、仕上げのPolishing(ポリッシング)を経てショットを完成させます。

Planning後の工程からは、実際にアニメーションを制作します。このときの方法は3種類あります(下記・下図参照)。

アニメーションのつくり方
Straight Ahead Action(ストレート アヘッド アクション)
Pose to Pose(ポーズ トゥ ポーズ)
Layered(レイヤード)

▲Planning(プランニング)後の工程では、3種類のつくり方がある


藤原:Straight Ahead Actionは、1フレームずつ順番に動きをつくっていく方法です。Pose to Poseは、最初にキーポーズを付け、後からキーポーズ間の動き(中割り)をつくる方法です(※2)。この2つのつくり方を説明した「Straight Ahead Action & Pose to Pose」は、12原則の中でも異質な存在と言えるでしょう。

※2 日本の作画アニメの場合、キーポーズが原画、中割りが動画に相当する。

▲「Straight Ahead Action & Pose to Pose」はアニメーションのつくり方に関する原則であり、ほかの11原則とは性質が異なる


▲Straight Ahead Actionでつくられたアニメーション


▲Pose to Poseでつくられたアニメーション


藤原:CGアニメーションの場合は、もう1つ、Layeredというつくり方もあります。

C:Layeredは、12原則にない用語ですね。

藤原:はい。LayeredはCGアニメーション特有のつくり方です。最初に土台となる動きをつくり、その上に付属する動きを重ねていきます。付属の動きには、それをリードする動きが常に存在するため、リードする動きから付属する動きへと、動きのLayer(階層)を重ねていくことで全体の動きをつくります。

例えば人型のキャラクターであれば、最初に腰の動きをつくり、2番目に胸郭の動きをつくり、3番目に腕の動きをつくり......というように、段階的にアニメーションを付けるLayerを増やしていくわけです。 特に、細かいディテールを足していくPolishing工程や、顔の筋肉と皮膚のつながりを表現する際に多用します。


▲Layeredでつくられたアニメーション


藤原:Layeredを使ってBlockingする場合には、最初に土台となる動きのアニメーションカーブをつくります。このカーブは、最終イメージに限りなく近い形にします。このカーブをコピーして、タイミングをずらしたり、動きの大小を調整したりして、付属の動きをつくっていくのです。生物の関節は全てつながっているので、最初のカーブをしっかりつくっておけば、コピーして微調整するだけで付属のカーブもつくれて、制作スピードが飛躍的に速くなります。一方で、最終イメージがはっきりしないままに進めてしまうと、最初のカーブがうまくつくれず、全体が駄目になってしまいます。Layeredは、アニメーションの技術とタイミングのセンスが問われる非常に難しいつくり方なのです。

C:CGアニメーションを熟知している人でなければ、使いこなすのは難しいというわけですね。

藤原:はい。どのつくり方を選択するかは、基本的にアニメーターの自由です。それぞれにメリットとデメリットがあるため(下図参照)、それを理解し、自分に合うつくり方や、各ショットに合うつくり方をチョイスしていく必要があります。

▲Straight Ahead Actionでつくる場合のメリットとデメリット


▲Pose to Poseでつくる場合のメリットとデメリット


▲Layeredでつくる場合のメリットとデメリット


C:SPIでは、どの方法が多用されているのでしょう?

藤原:基本的には何でもありです。大きな会社で、人の入れ替わりが多いのに加え、VFXもフルCGアニメーションも手がけるので、色々なつくり方が混ざり合っています。僕自身、3つの方法を混ぜて使います。Pose to PoseでBlockingする場合もあれば、LayeredでBlockingする場合もあります。動きの激しい短いショットや、動物の尻尾の動きなどは、Straight Ahead Actionでつくる場合が多いです。自分のアイデアをできるだけ早く形にするため、常にワークフローを見直し、色々な方法を試し、自分の引き出しを増やすことを心がけています。

Planningでは、頭の中にあるイメージやアイデアを具体化する

C:続いて、各工程と12原則との関わり方も教えていただけますか?

藤原:Planningでは、主に4つの原則を使います(下図参照)。

▲Planningでは、主に上記の4原則(赤文字の原則)を使う


藤原:Planningでは、CGソフトを使った実制作に着手する前に、動きのイメージやアイデアをはっきりさせます。やり方は人それぞれで、僕の場合は、Kickoffで感じたことやキャラクターをイメージしつつ、実際に演技し、その様子を撮影します。さらに、撮影したリファレンス映像を見ながら頭の中にあるアイデアを整理して、ショットのプランを練っていきます。

▲藤原氏がオンラインスクールの受講中につくった個人制作アニメーションと、そのリファレンス映像の比較動画


藤原:この段階で、動きのながれやタイミングも決めていきます。必要であればYouTubeなどから集めたリファレンス映像をもとに動きを確認したり、リファレンス映像をダイアログ(セリフ)に合わせて編集してみたりもします。同僚の若杉 遼さん(※3)の場合は、サムネイルと呼ばれるスケッチを大量に描き、ある程度イメージが固まってからリファレンス映像を撮影しています。

※3 藤原氏と同様、Animation Aidの運営に携わっている。

C:頭の中にあるイメージやアイデアを、具体化していくわけですね。Planning段階のリファレンス映像やサムネイルを、ディレクターやSVに見せることはあるのでしょうか?

藤原:人によりますね。リファレンス映像やサムネイル、ドローイングなどを使って自分の演技のアイデアをクリアに表現できる人は、作業時間の無駄がないよう、先に見せる場合もあります。ただし、リファレンス映像やサムネイルはあくまで参考資料なので、アニメーターの頭の中にある最終形とはちがう場合もあります。勘違いされる危険性もあるため、必ずしも見せることがベストではないのです。

そんなPlanningで主に使うのが、Staging、Secondary Action、Timing、Appealの4原則です。Stagingは、画面のどこにキャラクターを配置するか、観客の目線をどのように誘導するか、どんな演技(アクティング)を選択するかといった、演出を考える作業です。Secondary Action(※4)は、主要なアクションを支える、副次的なアクションを考える作業です。例えばキャラクターの「悲しげな表情」が主要なアクションであれば、その悲しみを強調するために「手で涙をぬぐう」という副次アクションを加えたりします。

※4 会社によっては、キャラクターの身体・手足・顔の表情などの主要なパーツの動きを付けることをプライマリーアニメーションと呼び、衣服・装飾品・髪の毛などの動きを付けることはセカンダリーアニメーションと呼んで区別する場合がある。この場合のセカンダリーアニメーションは、12原則のSecondary Actionとは全く別の意味をもつため、注意してほしい。

Timingは、どのタイミングでどういう動きをするのか考える作業です。Appealは、どう表現すればキャラクターを魅力的に見せられるのか考える作業です。

Blockingでは、ディレクターやSVに自分のアイデアを伝える

藤原:Blocking以降の工程では、CGソフトを使ってアニメーションをつくります。イメージやアイデアはPlanning工程でほぼ決まっているので、それらがディレクターやSVに誤解なく伝わるアニメーションをつくることがBlockingの目的です。Blockingを見たディレクターが、アニメーターのアイデアを気に入り、映画のストーリーを変更することもあります。自分のアイデアが映画に入ったら、すごく嬉しいですよね。アニメーターの仕事の醍醐味の1つだと思います。

C:Blocking段階のアニメーションは、キーポーズだけをつないだような粗いもので良いのでしょうか?

藤原:ディレクターによりますね。VFXのディレクターの中には、アニメーションの技術やつくり方を詳しく知らない人もおり、最終形に近いアニメーションでなければチェックしてくれない場合もあります。そういうときはBlockingとSplining工程を一体化して、アニメーションをつくり込みます。逆にディレクターが2Dの手描きアニメーション出身者だと、Pose to PoseでBlockingすることを求められる場合もあります。手描き時代から慣れ親しんできたPose to Poseの方が、良し悪しを判断しやすいからでしょうね。

▲Pose to PoseでBlockingする場合は、主に上記の6原則(赤文字の原則)を使う


▲LayeredでBlockingする場合は、主に上記の8原則(赤文字の原則)を使う


C:Pose to Poseの場合と、Layeredの場合とでは、使う原則が微妙にちがいますね。

藤原:Pose to Poseの場合はポーズを見せること、Layeredの場合はタイミングや動きのながれを見せることに主眼が置かれます。良いポーズを付けるためには、Appealに加え、ExaggerationとSolid Drawingが重要です。Exaggerationは、自分のアイデアをプッシュ(誇張)するための技術です。例えば、キャラクターのたくましさを誇張するポーズを付けたり、悲しみの感情を誇張する表情を付けたりします(下図参照)。

▲キャラクターのたくましさを誇張するため、左から右へ、ポーズを変更している


▲悲しみの感情を誇張するため、左から右へ、表情を変更している。皺眉筋や鼻根筋のながれを意識した眉間の縦皺、左右非対称の眉などにより、キャラクターの表情がさらに印象深いものになっている


藤原:Solid Drawingは、キャラクターに実質感をもたせるための技術です。例えば、身体の関節や筋肉のつながりを意識してポーズを付けたり、立体感を出すために口の位置や形を変えたりします(下図参照)。

▲肩の関節や筋肉のつながりを意識して、左から右へ、ポーズを変更している。腕を挙げると連動して鎖骨や肩甲骨も動くため、体幹が左右非対称になる


▲立体感を出すため、左から右へ、口の位置や形を変更している


藤原:Pose to PoseでBlockingする場合は、アニメーションカーブをステップ(階段状に段差のあるカーブ)からスプライン(滑らかなカーブ)に変えるSplining工程が加わります。最初からスプラインカーブを使ったり、LayeredでBlockingする場合には、Splining工程がなくなり、Blockingが終わったらPolishingに入ります。

Polishing工程までくれば演技も動きも全て決まっているので、12原則以外のアニメーション技術も全て使い、クオリティを上げていきます。それら1つ1つの積み重ねが大きなちがいとなり、キャラクターに命が吹き込まれます。

▲SpliningとPolishingでは、全ての原則を使う


藤原:このように、12原則とアニメーション制作は密接に関わり合っているのです。今回は、主にPose to PoseとLayeredを使ったアニメーション制作を紹介しましたが、アニメーターの中には、いきなりSpliningでアニメーションを付ける人や、ドローイングで完成形に近い動きを表現してしまう人もいます。

アニメーターの仕事は「動きをつくること」ではなく、「ストーリーを伝えること」です。どのような方法でもいいので、観客を魅了する美しいアニメーションをつくり、ストーリーをシンプル&クリアに伝えることで、キャラクターに生命を吹き込む魔法をかけましょう。

良いポーズを付ける力が飛躍的に高まる、ジェスチャードローイング

藤原:最後に、良いポーズを付けるための効果的なトレーニングである、ジェスチャードローイングをご紹介します(下図参照)。

▲藤原氏のジェスチャードローイング


藤原:モデルのジャスチャー(仕草)、重心、人体構造、体の動きなどを観察し、30秒〜3分程度で描き取るトレーニングです。実際にモデルを見ながら行うのがベストですが、難しい場合は写真でも構いません。インターネットで検索すれば、専用のトレーニングサイトが数多くヒットするはずです。例えばLine of actionというWebサイトでは、様々なポーズの人体や動物の写真を、任意の時間間隔で切り替えることができます。

ただ闇雲に描くのではなく、ポーズのどこが大切か、どのようなストーリーがあるのかを常に考えながら描くことで、観察力が向上し、良いポーズを付ける力が飛躍的に高まります。アニメーターを志す人は、ぜひやってほしいトレーニングです。

C:いつでも、どこでも、短時間でできる点が素晴らしいですね。多岐にわたってお話いただき、有難うございました。



TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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