2017.07.12 Wed

制作進行概論No.04>>青谷崇司氏&森野浩典氏(サテライト)「目標をイメージしてから行動する」

「制作進行概論」は、東洋美術学校 クリエイティブデザイン科 高度グラフィックアート専攻でCGを教えるフレイムの北田能士氏が企画した連続講義で、デジタルコンテンツ制作に携わる会社から多彩なゲストが招かれる。CGWORLD Entry.jpでは、これまでに第1回第2回第3回の模様をお伝えしてきた。以降では、サテライトの青谷崇司氏(CGプロデューサー)と森野浩典氏(CGディレクター)が、TVアニメ『マクロスΔ(デルタ)』(2016)を事例に、同作におけるCGスタッフの役割を解説した第4回の模様をお届けする。

青谷崇司氏(CGプロデューサー)

株式会社サテライト

サテライト入社後、『マクロスFRONTIER』(2008)、『アクエリオンEVOL』(2012)などのCG制作進行を経て現職。

森野浩典氏(CGディレクター)

株式会社サテライト

サテライト入社後、『マクロス ゼロ』(2002)にてデザイナーとしての初プロジェクトを経験。その後『バスカッシュ!』(2009)、『M3~ソノ黑キ鋼~』(2014)などのチーフデザイナー、CGディレクターを経て現職。

株式会社サテライト

1995年の設立当初からデジタルの可能性に注目し、CGと作画をたくみに融合させたオリジナル企画のアニメを制作してきた。同社に所属する河森正治氏が総監督、原作、メカニックデザインなどを務める『マクロスシリーズ』、『アクエリオンシリーズ』をはじめ、多彩な作品を手がけている。
www.satelight.co.jp/

北田能士氏(取締役)

株式会社フレイム 株式会社冬寂

デジタルハリウッドにて1年間CGを学ぶ。2003年、大林 謙氏(代表取締役)と共にフレイムを起業。CM、映画、Web、ゲームなど、様々な媒体のCG・映像制作に携わる。2013年には自身が代表取締役を務める株式会社冬寂を設立。デジタルハリウッド、東洋美術学校ではCGの講師も務めている。
www.flame-design.co.jp
www.w-m.co.jp

シナリオの第1稿からチェックして、CGのボリュームを把握する

北田能士氏(以降、北田):サテライトが手がけてこられた作品は、結構なボリュームでCGが使われている印象があります。そんな会社のCGスタッフはどんな働き方をなさっているのか、今日は『マクロスΔ』を事例にお話いただけると聞いて期待しています。

青谷崇司氏(以降、青谷):サテライトは、CGによるメカアクションを得意としています。『マクロスΔ』にも、全長約20メートルのVF-31 ジークフリード(以降、ジークフリード)から、全長約800メートルのSDF/C-108 マクロス・エリシオン(以降、マクロス・エリシオン)まで、多彩なメカが登場します。基本的に、作中のメカはCGで、キャラクターは作画で表現されています。今日は、本作の制作工程を通して、アニメ制作の楽しさと、大変さを少しでもご理解いただければと思っています。

森野浩典氏(以降、森野):できればアニメ業界も、皆さんの将来の選択肢の中に加えていただければ嬉しいです。

▲本講義は、2017年4月27日、東洋美術学校にて実施された


▲アニメ制作のワークフローを解説する、森野氏と青谷氏


青谷:『マクロスΔ』の場合、ワークフローの初期段階、つまりシナリオ打ち(※1)からCGスタッフも参加させていただいております。シナリオの第1稿が届いたら、まずはCGプロデューサーの私が目を通していました。シナリオには1話分のストーリーが縦書きの文字で書かれており、CGを使いそうな部分を見つけては色を付けていくのです。

※1 シナリオは脚本とも呼ばれる。「打ち」は打ち合わせの略。

北田:CGプロデューサーがシナリオを1行1行チェックするというのは、珍しいように思いますね。

青谷:サテライトでは特にCGの比重が大きい作品の場合、そうさせてもらっています。当社はオリジナル企画のアニメをつくることが多いので、企画やシナリオの段階から、CGスタッフも密接に関われる場合が多いです。

森野:僕も早い段階からシナリオを読みましたが、事前に青谷がチェックしていたので助かりました。青谷が色を付けた部分が多いほど、CGのボリュームが多くなるわけですが、制作のキャパシティを大きく超えている場合には、負荷を減らせないか相談することもありました。

北田:シナリオの段階で意見を言えるのはいいですね。シナリオが完成し、絵コンテも完成した後でCGスタッフに声がかかり、「いやいやいや、ちょっと待ってください......」となるケースも結構あると思います。

絵コンテやレイアウトから、必要な情報を読み解く

森野:シナリオの完成後は、それを基に絵コンテの制作に入ります。絵コンテは映像全体の構成を決める設計図のようなものです。これがなければ、次の工程へと進み辛い、非常に重要なものですね。絵コンテには、各カットのカメラワーク、キャラクターの芝居、セリフ、尺などが、画と文字で示されています。

青谷:絵コンテが完成したら、まずは監督、演出、CGスタッフ、作画スタッフなどが集まり、各カットの構成要素をCGで表現するのか、作画で表現するのか、細かく打ち合わせしていきます。その後、その打ち合わせを基に、カット制作に入ります。制作方法によって、カットは4種類に分けられます。1つ目は、作画で表現されるカットです(※2)。2つ目は、作画とCGを組み合わせるカットで、なおかつレイアウトや演技プランを作画スタッフが担当するものです。われわれは「作画先行カット」と呼んでいます。

※2 厳密に言うと、背景は美術と呼ばれる専門スタッフ、作画・CG・背景などの素材合成は撮影と呼ばれる専門スタッフが担当するため、「作画のみ」「CGのみ」で表現されるカットはない。

森野:レイアウトとは、絵コンテを読み解き、キャラクター・メカ・背景の位置関係と、カメラワークを決定する作業のことです。作画先行カットの場合は、作画スタッフが決めたレイアウトと演技プランに基づき、ジークフリードやマクロス・エリシオンなどのCGキャラクターを、CGスタッフが作画に合わせて配置していきます。

北田:今、さらっと「作画に合わせて配置」とおっしゃいましたが、キャラクターと背景の距離、カメラのアングルや画角などを、2Dの画から読み解かなければいけない......ということですよね?

森野:はい。たまに、一見すると広角レンズで撮影したような画なのに、キャラクターだけは望遠で描かれたレイアウトもあったりするので、油断できません。

北田:恐ろしや......。

青谷:3つ目は、作画とCGを組み合わせるカットで、なおかつレイアウトをCGスタッフが担当するものです。こちらは「CG先行カット」と呼んでいます。4つ目は、CGで表現されるカットです。『マクロスΔ』第1話「戦場のプロローグ」のカットの中から、具体的な例をお見せしましょう。こちらは、Sv-262 ドラケンIII(以降、ドラケンIII)がミサイル群をかいくぐるカットの絵コンテで、尺は7秒あります(下図参照)。業界内でもほんの一握りの人しか担当できないようなスペシャルカットだったので、unknownCASEの崎山敦嗣さん(本作のCGアニメーションディレクター)に依頼しました。

▲『マクロスΔ』第1話「戦場のプロローグ」にて、ドラケンIIIがミサイル群をかいくぐるカットの絵コンテ


北田:7秒まるまるアニメーションを付けるのは、結構重たいですよね。1番上のActionに「マイクロミサイル群を撃ち落としつつかいくぐって」と簡単に書いてありますが、そういう風に見えるアニメーションをつくるのがどれだけ大変か......。

青谷:おわかりいただけますか。

北田:たった一言の指示の緊張感が半端ないですね。でも、ここにいる学生や、入社1、2年目の新人に、それを察してもらうのは無理だろうと思います。このカットを崎山さんに依頼したという判断は、非常に納得できます。

青谷:崎山さんは本カットを担当するに当たり、まずはレイアウトやタイミングを自ら紙に描き(下図参照)、目標とするイメージを固めてから、実際のCG制作に着手したのです。作画のスーパーアニメーターの中には、全部を頭の中で考えて、一気に描き始める人もいます。やり方は人それぞれですが、まずは表現したい動きをイメージし、その後につくり始めるという点は共通しています。

北田:緩急の付け方がすばらしいですね。単純に絵コンテから写し取っても、こういうスピード感や、気持ちのいい回転を表現できないと思います。

森野:おっしゃる通りです。短い尺の中でも、決めの画はしっかり見せておかないと、何の印象も残らないゴチャゴチャしているだけの映像になってしまいます。決めの画を見せつつ、速さも表現することは非常に難しいです。

▲【左】前述の絵コンテを基に、崎山氏が描いたイメージ。ドラケンIIIの複雑な軌道に加え、本体の回転、両翼に付いた小型支援機リル・ドラケンの回転、メインエンジンの再点火などのタイミングが、フレーム単位(※3)で設計されている/【右】完成映像の中から、イメージに相当するフレームを抜き出したもの。【左】と【右】を比較すると、最初にイメージした通りの映像になっていることがわかる

※3 アニメの場合、1秒は24フレームで構成される。7秒のアニメーションなら、フレーム数は168フレームとなる。


▲前述のカットの完成映像

CG制作進行と作画制作進行が協力し、慎重にカット表の読み合わせをする

青谷:以上のように、1つのカットが完成するまでには様々な工程があり、何人ものスタッフが関わります。通常のTVアニメの場合、1話あたりのカット数は250〜300程度で、それら全ての管理を担うのが制作進行の役割です。ちなみに『マクロスΔ』第1話は通常よりもカット数が多く、絵コンテの段階では436カットありました。

北田:すさまじい。通常の倍近くの数ですね。

青谷:1話の尺に収まらなかったので、2015年12月の先行放送版と、2016年4月の本放送版の2バージョンをつくりました。『マクロスΔ』では、CGスタッフの制作管理は「CG制作進行」、作画スタッフの制作管理は「作画制作進行」が担っています。例えば作画先行カットであれば、作画スタッフによるレイアウトは完了したか、CGスタッフによる制作は完了したか、監督チェックは完了したか、リテイク対応は完了したか、といった進行状況を管理する必要があります。

北田:うっかりすると、CGスタッフと作画スタッフが、お互いに相手の作業完了を待っていたり、双方で同じ作業をしていたりしますよね。

青谷:そういう間違いや無駄が起こらないように、CG制作進行と作画制作進行が協力し、慎重にカット表の読み合わせをすることが大切です。『マクロスFRONTIER』の時代には、私はCG制作進行を担当していました。第1話のV編集(※4)が始まる頃には、第12話あたりまでの各種打ち合わせも並行して進んでおり、複数話のカット表を切り替えながら管理していましたね。

※4 Video編集の略。アニメ制作の最終工程で行う編集。OPとEDを付け、テロップを乗せ、放送用のフォーマットに変換する。

北田:頭の中で立体的に把握する必要があるわけですね。そこにバンク(※5)が絡んできたら、ますますややこしいですよね。

※5 一部の画や映像を、後の話数でも使いまわすこと。何度も登場する、変身・変形・必殺技といった見せ場のカット、背景、小道具などはバンクを用いることが多い。

青谷:ややこしくはありますが、このカットはバンクで対応できると思ったら積極的に提案するようにしていました。その分、スタッフは他のカットに力を注げますし、休みもとれますから。

新しいチャレンジは、通常よりも前倒しで制作を始める

森野:各カットは、制作の難易度に応じてS・A・B・C・Dの5段階に分類されます。難しいカットほど日数がかかりますし、担当できるスタッフは限られています。その中でも際立って難しかった事例として、『マクロスΔ』第13話「激情 ダイビング」内のチャレンジカットをご紹介しましょう。

青谷:河森総監督は、常日頃から「今までやったてきたことを繰り返すのではなく、何かしら新しい見せ方にチャレンジしたい」と語っており、『マクロスΔ』では、水を絡めた演出に挑戦することとなりました。

北田:つまり、TVアニメで水の流体シミュレーションをやりたいと......。やめてほしいですね。

青谷:おわかりいただけますか。総監督や演出がイメージする水の表現を流体シミュレーションで再現するためには、何度もテストを繰り返す必要があります。加えて、流体シミュレーションの計算やレンダリングは、すごく時間がかかるのです。

森野:しかも、目指したのは「全長約800メートルのマクロス・エリシオンが海中からせり出してくる」という表現でした。

北田:やばすぎるサイズですね。

青谷:先にも言ったように、われわれはシナリオ段階から打ち合わせに参加していました。そのため、話を聞いた時点で、一連のカットの制作を前倒したいと願い出ました。通常の進行であれば、カット制作に入るのは絵コンテの完成後です。しかし、水が絡むカットに限っては、その進行では間に合わないと確信していました。そこで総監督自らに、イメージラフを描いていただき(下図参照)、これを基に流体シミュレーションのテストを開始したのです。

▲『マクロスΔ』第13話「激情 ダイビング」にて、マクロス・エリシオンが海中からせり上がるシーンのイメージラフ


森野:こちらが、その後で制作された絵コンテです(下図参照)。カット337のActionには「海面上が白波立ち、ザバーッと出現して来るへーメラーの艦首!」と書いてあります。へーメラーというのは、マクロス・エリシオンの右前腕部に位置する空母です。Dialogには、作中に登場する戦術音楽ユニット ワルキューレが歌う「一度だけの恋なら」の歌詞が書かれています。この曲は、第一期のOPでもありました。

▲前述のシーンの絵コンテ


青谷:「奪って 縛って まだまだ」とあるのが歌詞の一部ですね。河森総監督は、歌詞の内容や曲のテンポに合わせて絵コンテを描くので、その意図を汲み取ることも大切です。

北田:空恐ろしい絵コンテですね。1枚の画の中に入っている情報量があまりに多い。

森野:続くカット339には「船体から水を滝のように流しながらゆっくりとせり上がってくるへーメラーからPAN(※6)マクロスエリシオンのブリッジが見える。その奥で起き上がってゆく両肩のタワー」と書かれています。

※6 パンのこと。カメラの操作方法の1つ。カメラの位置は変えず、地面と平行にカメラを横回転移動させること。広々とした風景を見せたり、動く被写体を追従したりする場合に用いる。

北田:さらに「できればアングル変化」とも書いてある......。この「できれば」というのは、マスト(Must)という意味ですよね?

青谷:「やってほしいなあ......」という感じですね。CGは作画よりもカメラアングルを変更しやすいので、リクエストされることは多いです。ただし、それが効果的な演出になり得るのかどうか、しっかりイメージした上で、自分たちの考えを言うことも大切です。

森野:頭から否定はしませんが、不用意にカメラを動かすと、そのシーンで何が起こっているのか伝わりにくくなるのです。このカットの場合、へーメラーの奥に位置しているブリッジをしっかりと見せるため、アングルはこのままにしましょうと提案しました。こちらは、RealFlowによるテスト映像と、完成映像です(下図参照)。

北田:TVアニメでRealFlowを使うケースは滅多にないと思います。パーティクルエミッタの数がやばい......。TVアニメとは思えない重たさですね。確かに、絵コンテが完成してから手を付けていたのでは間に合わなかったでしょう。的確な判断だと思います。

▲【左】前述のシーンを制作中のRealFlowの作業画面/【右】前述のシーンを制作中の3ds Maxの作業画面


▲前述のシーンのRealFlowによるテスト映像


▲前述のシーンのレンダリング映像


▲前述のシーンの完成映像

人は目標がないと、自分から積極的に動けない

北田:最後に、お2人が仕事をする上で、心がけていることを教えていただけますか?

青谷:より良い作品をつくるため、スタッフとのコミュニケーションには注意しています。「報告・連絡・相談」に加え、「確認」も大切です。先輩からは「ホウレンソウカク」と教わりました。これらができていないと様々なトラブルが起こります。一方でトラブルが少ないほど、スタッフはクリエイティブなことに多くの時間を費やせます。

森野:1人でつくるわけではないので、他人の意見を取り入れることと、自分の意見を言うことの両方が大切です。採用面接で若い人に接するたび、作品は良いのに、話せない人が多いなと感じます。そういう人は、入社後に苦労するケースが多いです。自分はどうしたいのか、どう思うのか、周囲に伝えられない一方で、上からは色々な指示が出されるので、どんどん自分を追い込んでしまうのです。

僕の場合、目標をしっかりイメージしてから行動することも意識しています。「ミサイルのアニメーションをマスターしたい」といった近い未来の目標と、「CGディレクターになりたい」といった遠い未来の目標の2つがあるといいでしょう。人は目標がないと、自分から積極的に動けません。迷ったり、途中で目標を変えることがあってもいいと思いますが、最初から何の目標もなければ、ろくな結果が出ないと思います。

北田:目標がないと、行動に一貫性がなくなるし、周囲に流されてしまいますね。

森野:目標をしっかりイメージすることは、カット制作においても大切です。完成映像をしっかりイメージした上で手を動かす人の方が、いい映像をつくれます。

北田:確かに、イメージしないで積み上げた仕事は無駄が多くなるし、空中分解しやすいと思います。さて、本日はこの辺で終了したいと思います。重厚な内容で、たいへん素晴らしかったです。有難うございました。





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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