2017.07.26 Wed

著作権は誰のもの?>>創作者の権利を理解し、自分の意志でコントロールしよう

Adobe Stockは、数千万点にのぼる高品質なロイヤリティフリーの写真・グラフィック・ビデオなどを扱うマーケットプレイスだ。販売されているコンテンツは全て提供者が権利を有するため、安心して商業利用できる。ところで『コンテンツの権利』とは、いったいどのような目的で、誰のために存在するのだろうか。自分の権利を守るため、あるいは他人の権利を侵害しないためには、どのように行動すればいいのだろうか。それらを解説するセミナー『クリエイティブ×著作権~「著作権」をクリエイティブに使いこなそう~』が、2017年5月29日に都内で開催された(主催 ボーンデジタル、協賛・協力 アドビ システムズ)。以降では、本セミナーに登壇した後藤道子氏(メディアリサーチャー/九州大学大学院法学研究院協力研究員(知的財産法))の話を通して、コンテンツの創作者に必要な著作権の基礎知識を紹介する。

後藤道子氏

メディアリサーチャー/九州大学大学院法学研究院協力研究員(知的財産法)

東京都生まれ。九州大学大学院法学研究科修士課程修了。財団法人 日本文化財団(国際文化交流マネジメント事業)を経てメディアリサーチャーとして活動。2005〜2009年、九州大学ユーザーサイエンス機構特任准教授。2006〜2010年、九州大学先導的デジタルコンテンツ創成支援ユニット(兼務)。2009年〜現在、九州大学大学院法学研究院協力研究員。久留米大学、九州産業大学(芸術学部)、九州情報大学等非常勤講師。公益財団法人 画像情報教育振興協会(CG-ARTS)協会委員、一般社団法人 九州経済連合会 知的財産権研究会運営委員、NPO法人 シアタープランニングネットワーク監事。著作権法学会・日本アートマネジメント学会各会員。共著に「知的財産権と情報セキュリティ」、『ビジュアル情報処理-CG・画像処理入門-[改訂新版]』 (CG-ARTS, 2017)などがある。

フリー・ライドする行為の全てが、ダメというわけではない

知的財産権(ちてきざいさんけん)とは、人間が知的な創造活動によって生み出した成果に対する権利の総称だ。創作者の権利を保護し、他人による成果の無断利用を防ぐことで、産業や文化の発展をもたらすことを目的としている。以降で解説する著作権(※)は、知的財産権の中の一種で、著作権法によって保護されている。

※ 本セミナーの参加者には、公益社団法人 著作権情報センターが作成した『はじめての著作権講座 著作権って何?』が配布された。これは著作権制度の骨子を簡潔に説明したパンフレットで、PDF版をこちらからダウンロードできる。

▲【左】知的財産権についての解説/【右】知的財産権には、おもに産業財産権と、著作権がある。産業財産権は、経済産業省の特許庁に出願し、審査、登録などをへなければ権利が発生しない。これに対して、著作権は文部科学省の文化庁が管轄しており、権利を得るための手続きを必要としない。著作物を創作した時点で自動的に権利が発生し、原則として著作者の死後50年まで保護される(映画の著作物の保護期間は、公表後70年とされている)


「知的財産権の教育は、創作者の権利を侵害しないことを重視するあまり『あれもダメ』『これもダメ』というダメダメ教育に陥りがちです。しかし、『模倣により他人の成果にフリー・ライドする行為、即、禁止すべき行為となるわけではない』と北海道大学の田村善之教授(知的財産法を専門とする法学者)は述べております。例えば『真似る』と『学ぶ』は同じ語源の言葉であり、古来から、他人の成果を真似ることが、学びとなる場合は多々あります。フリー・ライドする行為の全てが、ダメというわけではありません。知的財産権は『私権』、つまり『私人としての権利』です。『公権』とはちがい、基本的には権利者自身がコントロールできます。権利の内容を理解し、自分の意志で使いこなせるようになることが重要だと思います」(後藤氏)。

アイデアやコンセプトが同じでも、実質的な表現がちがえば、著作権侵害とはならない

著作権法の第1条には、『著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること』が目的であると書かれている。産業財産権法が産業の発展を目的とした法律であるのに対し、著作権法は著作物が国民に享受され、文化が発展することを目的とした法律である。

▲【左】著作権法の目的/【右】著作権制度の概要。著作権は、著作権(著作財産権)(【右】の青色領域の権利)と、著作者人格権(【右】の黄色領域の権利)に分けられる。前者は他人に譲渡できるが、後者は譲渡できない。著作者人格権の中には、未公表の自分の著作物を公表するかしないかを決定する権利(公表権)、自分の著作物を公表するときに著作者名を表示するかしないか、するとすれば、どんな名前かを決定する権利(氏名表示権)、自分の著作物の内容を自分の意に反して勝手に改変されない権利(同一性保持権)が含まれる。この権利の根底には『作品は作家の人格の発露であり、第三者が勝手に改変すると、その人格まで台無しになってしまう』という考え方がある


著作権法の保護対象を著作物と呼び、著作物は『思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』と定義されている。つまり、以下の4つの要件を満たしていれば著作物として認められる。

『思想・感情』を含むこと
『創作性』があること
『表現』したものであること
『文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』であること

思想・感情を表現したものは保護されるが、思想・感情そのものは保護されない。また、実用品や工業製品は著作権法の保護対象とならない。数字の羅列のようなデータ、『いつ・どこで・誰が・何をした』というような事実、誰がつくっても同じような表現になるもの、決まり文句、ありふれた表現、アイデア、コンセプト、レイアウト、画風・書風なども著作物ではない。

「創作者にとって一番大切なのはアイデアやコンセプトであるという話をよく聞きますが、アイデアやコンセプト自体は保護されません。同じアイデアやコンセプトに根ざしたものでも、表現のやり方は、様々なパターンがありえます。著作権法では、アイデアやコンセプトを保護しないことで、表現の多様性や、創作活動の自由を確保しているのです」(後藤氏)。

▲【左】著作物の例示。これらに該当しなくても、『思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』という定義に当てはまれば、著作権法で保護される/【右】著作物でないもの(著作権法で保護されないもの)について解説する後藤氏


本セミナーでは、以下のような事例も紹介しつつ、著作権に対する考え方が解説された。

▲左は書籍『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社, 2009)のカバー。その横に並んでいる3点は、『金欠の高校生がバフェットから「お金持ちになる方法」を学んだら』(PHP研究所, 2010)、『もし、かけだしカウンセラーが経営コンサルタントになったら』(出版文化社, 2010)、『もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら』(イカロス出版, 2010)という書籍のカバー。アニメやコミック調のキャラクターの背景に、青空と白い雲を描くというアイデア・画風は共通している。3点のカバー制作において、左のアイデア・画風が借用されたことは明らかといえる。しかし、それぞれのカバーにおける表現はちがっているため、著作権侵害には該当しない


▲会社案内の制作を巡って裁判となり、原告が勝訴した事例。『会社案内』というアイデアやコンセプトが同じでも、実質的な表現や編集内容がちがっていれば著作権侵害とはならない。しかし本事例の場合は、制作会社が提出したパンフレットのデザイン(下のカンプ)が、見積もり金額の高さを理由に不採用となったにも関わらず、ほぼそのままの内容で使われた(上の会社案内)として、制作会社がクライアントを訴えた


▲前述の裁判において、東京高等裁判所が1995年に出した判断。具体的な素材の選択、配列に強度の共通性があるため、単なるアイデアの共通性に過ぎないという被告の訴えは認められず、原告の編集著作物に対する侵害が認められた

「会社案内事件」東京高裁平成7年1月31日判決より

会社の仕事として作成した著作物は、会社などの法人が著作者となる

著作物を創作する者のことを著作者と呼び、『著作者』『共同著作物の著作者』『職務上作成する著作物の著作者』『映画の著作物の著作者』の4種類に分けられる。本セミナーでは、『著作者』と『職務上作成する著作物の著作者』について解説された。

「著作物を実質的に創作する者が著作者となります。制作にかかる費用を負担したり、制作用の機材を提供しても、実質的な創作に関わっていなければ著作者にはなれません。ただし、契約などを結び、権利の譲渡を受けることで著作権者になれます。契約といっても特別な書類を用意する必要はなく、話し合いでも構いません。創作者も発注者も、権利について曖昧なままにせず、話し合うことが大切だと思います」(後藤氏)。

▲【左】著作者の種類/【右】著作者についての解説


「一方で、職務上、つまり会社の仕事として作成した著作物は、『職務著作の5要件』(下図【右】参照)を満たす場合に限り、実質的に創作した従業員ではなく、会社などの法人が著作者となります。この場合の『従業員』は正社員に限りません。契約社員、派遣社員、アルバイトなど、会社との間に雇用関係があれば従業員となります。ただし従業員であっても、私的な時間に趣味などで創作した著作物の権利は、創作した本人のものです」(後藤氏)。

▲【左】職務上作成する著作物の著作者についての解説/【右】職務著作の5要件

一定の条件下では、著作物の自由利用が認められる

基本的に、他人の著作物を無断で利用する行為は著作権侵害となる。ただし、一定の条件下では著作権が制限され、権利者から許諾を得ずに著作物を自由に利用できる。

「何でもかんでもダメダメと禁止したのでは、非常に息苦しい世の中になってしまいます。そのため、個人的に使用する場合の複製、学校の授業の過程で使用する場合の複製、営利を目的としない上映、引用(下図【右】参照)などは認められています。これらは著作権の権利制限規定として、著作権法の第30条〜第50条に記されています。著作者の利益や人格を不当に害する行為は厳格に規制する一方で、インターネットを介して誰でも情報を発信できる社会だからこそ、公正な自由利用は認めていこうという考え方が主流になってきています」(後藤氏)。

▲【左】著作権の権利制限規定/【右】引用についての解説


「『無断引用』という言葉をたまに目にしますが、これはおかしな用法です。引用とは、無断で行えるから引用なのです。『誰々さんのイメージやコンテクストを引用して、この作品をつくりました』という言い方をする人もいますが、この場合は『インスパイアされた』『触発された』といった意味で使われています。著作権法における引用とはちがうので、注意していただきたいと思います。法に反しない引用の基準は5点あり、(下図【右】参照)、引用する必然性があること、自分の著作物と引用部分とが明瞭に区別できること、引用される著作者人格権を侵害しないことなどとされています。例えば「この絵が好きだから」という理由で、内容と全く関係ない絵を貼り付けることは認められません。文章を引用する場合には、カギカッコでくくる、フォントを変えるなどして、引用部分がわかるよう区別する必要があります。引用した文章や絵を細切れに分解して、同一性保持権を侵害するような行為も認められません」(後藤氏)。

▲【左】引用についての解説/【右】列記された5点を満たせば、他人の著作物を無断で利用できる


さらに2つ、本セミナーで語られた事例を紹介する。

▲参考書の表紙に掲載された被告イラスト(右側4点)が、原告イラスト(左側3点)の著作権を侵害しているとして裁判となり、原告が勝訴した事例


▲前述の裁判において、東京地方裁判所が2004年に出した判断。被告は、本作における人体のデフォルメ方法はありふれたものであり、ポーズも一般的なものであると主張し、その根拠として『木造天燈鬼・龍燈鬼立像』(鎌倉時代)を示した。しかし、原告の表現方法は、原告の思想又は感情の創作的表現であり、被告イラストは原告の表現に基づいて作成されていること(依拠性があること)、原告の表現の本質的な特徴をそのまま受け継いでいること(類似性があること)を理由に、原告の勝訴となった

「LEC書籍事件」東京地裁平成16年6月25日判決より
www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=10235


▲廃虚を撮影した被告写真(【上段左右】【下段左】の右側)が、原告写真(【上段左右】【下段左】の左側)の著作権を侵害しているとして裁判となり、原告が敗訴した事例/【下段右】は、この裁判において、知的財産高等裁判所が2011年に出した判断。原告と被告は、どちらもプロのカメラマンである。原告は、廃墟という被写体を探し当て、廃虚写真というジャンルを確立したのは自分であり、同じ被写体を撮影することは著作権侵害であると主張した。しかし、被写体は誰でも自由に立ち入れる場所にあり、原告は被写体のあるがままの姿を撮影しているため、被写体自体に表現の本質的な特徴があるとは認められず、原告の敗訴となった

「廃墟写真事件」知財高裁平成23年5月10日判決より
www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=81312

自分の権利をどうしたいのか、しっかり考え、意思表示をする

本セミナーでは、受講者が事前に送った質問に対し、後藤氏が回答する一幕もあった。その中の1つを紹介して、本記事の締めくくりとする。

▲受講者が事前に送った質問と、それに対する後藤氏の回答


「今日は権利の話をたくさんしましたが、現在のインターネット社会において、ひとたび作品をアップロードすれば、リスクゼロはありえません。だったら、自分の作品をどうしたいのか、何のためにアップロードするのか、意思表示をしていくことが大事ではないでしょうか。その手段の1つが©(マルシー)マークによる著作権表示(下図参照)です。日本国内においては、この表示をしなくても著作権は保護されます。しかし、この表示によって権利者名と発行年が明確になるため、『この作品の権利は私にありますよ』と意思表示できるメリットがあります。他にも、データにプロテクションをかける、画像データの画素数を減らすなど様々な意思表示の方法があります。それらを通して、自分で自分の権利をコントロールすることが必要だと思います」(後藤氏)。

▲著作権に対する意思表示の一例として、後藤氏が紹介した著作権表示についての解説


「作品の公表が社会にどんな影響をもたらすのかといったことも含めた、多角的な視点から判断する力を養い、著作権をクリエイティブに使いこなしていくのが望ましいと、私は考えております。まずは、自分の作品の権利をどうしたいのか、守りたいのか、広く拡散しても多くの人に知ってもらいたいのかなど、しっかり考え、意思表示をすることが重要ではないでしょうか」(後藤氏)。





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田充

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