2017.06.07 Wed

『モンストアニメ』セカンドシーズンのキャラクターは、なぜCGになったのか?

2015年10月にYouTube配信が開始され、2016年12月には劇場版も公開された『モンストアニメ』。2017年3月に第0話が配信されたセカンドシーズンからは、従来のモンスターに加え、メインキャラクターもCGへと一新された。この決断の背景を、本作の制作を担当する3氏に伺った。

砂村哲平氏(企画・原案)

株式会社ミクシィ XFLAG スタジオ XFLAG PICTURES

XFLAG PICTURESのマネージャーとして『モンストアニメ』の制作に携わる。アニメ本編の企画立案、シナリオ構成、バトルプロット制作などを、監督や脚本家と一緒に手掛けている。
mixi.co.jp
xflag.com

平澤 直氏(プロデューサー)

株式会社ウルトラスーパーピクチャーズ

プロデューサーとして様々なアニメの制作に携わる。『モンストアニメ』、『ID-0』、『ブブキ・ブランキ』など、参加作多数。
uspi.jp

奈良岡 智哉氏(CGプロデューサー)

株式会社ラークスエンタテインメント

CG部 部長として、様々なアニメのCG制作に携わる。『モンストアニメ』、『ダンガンロンパ』、『機巧少女は傷つかない』、『のうりん』、『そにアニ』など、参加作多数。
www.larx.co.jp

考えられない速度とペースで通信簿が送られてくる

平澤 直氏(以降、平澤):ここ10年間で、アニメ制作におけるCGの役割はどんどん変化しています。『モンストアニメ』は、2015年10月の第1話配信から今日までの間に、その歴史を凝縮したかのような変化を遂げてきました。ファーストシーズンの第1話~第14話まではキャラクターもモンスターも作画で表現していましたが、第15話以降はモンスターがCGになりました。その後、全52話のアニメシリーズと劇場版を経て、セカンドシーズンからはキャラクターもCGになっています。


▲2017年3月25日に公開された、『モンストアニメ』セカンドシーズン 第0話 前夜祭スペシャル「渇望の果ての理想郷」。YouTubeの公式チャンネルにて、毎週土曜日19時に最新話が配信されている ©mixi, Inc. All rights reserved.


砂村哲平氏(以降、砂村):原作であるスマホアプリの『モンスターストライク』と同様、リリースした後、ユーザーの反応に合わせて柔軟につくり変えていく体制、すなわちアジャイル開発のような制作をアニメでも実践できませんかという当社の要望が、このながれの発端でした。

平澤:従来のアニメ制作は、例えば全12話のシリーズであれば、第1話を放送した段階で、最終話までの大まかなプロットや登場キャラクターが決定しています。しかし本作はそうじゃなかった。YouTubeで第1話を配信した直後から、視聴者の率直なフィードバックをいただけたので、それを踏まえた変更が、速いペースで繰り返されてきました。

砂村:YouTube配信の場合、1話あたり約7分の尺の、どこで視聴者が離脱しているか、どの部分が繰り返し再生されているかといったデータを、すぐに取得できますからね。

平澤:地上波のアニメでは考えられない速度とペースで通信簿が送られてくるんです。これと向き合うには、変化に対応できるワークフローの構築が急務でした。

奈良岡 智哉氏(以降、奈良岡):14話と15話の間に3ヶ月の充電期間があったので、ワークフローの見直しをはじめ、様々な変更がありましたね。

砂村:例えば、アプリユーザーに人気のモンスターが登場すると、アニメの視聴者も盛り上がるとわかったので、人気モンスターをどんどん出そうという方針転換がありました。でも本作のモンスターは緻密にデコレーションされており、作画で動かすと崩れてしまいかねなかった。そこで、モンスターの3D化が決まったのです。

平澤:よりカッコ良いモンスターの、よりスケールの大きいバトルを見たいという視聴者の期待に応える上で、CGへの変更は不可欠でしたね。とはいえ、 視聴者が納得するレベルのCGモデルを短い期間で制作するのは大変だったと思います。

奈良岡:はい。それでもシリーズ前半は1話につき2~3体ペースで新しいモンスターが登場しては倒されていったので、すごい数のCGモデルをつくりました。皆さんのこだわりもあって、特に初期のモデリングは時間を要しています。だからCGアニメーターには仮モデルで動きを付けてもらい、モデルが完成したらデータを差し替えるというワークフローになったのです。

平澤:作画だと、キャラクターデザインが完成しないうちは原画に着手できない。一方で、CGならモデルの試行錯誤とアニメーション制作を同時進行できます。この点も、本作とは相性が良かったですね。

▲【左】ルシファー(神化)のアプリ用イラスト/【右】XFLAG PICTURESのデザイナーが描いた、アニメ用のデザイン画。【左】のようにゲーム用イラストは頭身が低いため、【右】のような頭身の高い画が新たに描かれ、モデリング時の指針とされた ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲デザイン画をもとに、ラークスエンタテインメントのモデラーがつくったCGモデル ©mixi, Inc. All rights reserved.

再生数600万回に迫ったルシファーとのバトル

砂村:モンスターをCGにしたことで、15話以降のバトルはパワーアップしました。視聴者の反応も良く、アニメで活躍したモンスターはゲームでも人気が上昇するという相乗効果も出てきましたね。その最初のピークは、第19話「殲滅のルシファー」でやってきました。

平澤:主人公の焔 レンのチームが、アプリでも指折りの人気モンスターであるルシファーからの猛攻撃にさらされるという内容でしたね。ルシファーの大号令を受けた悪魔たちが何十体と出現し、渋谷のスクランブル交差点で暴れ回るというバトルは、CGだから可能な表現でした。再生数は600万回に迫る(2017年3月現在)勢いで、確かな手応えを感じましたね。


▲『モンストアニメ』ファーストシーズン 第19話「殲滅のルシファー」 ©mixi, Inc. All rights reserved.


砂村:私が「これは難しいかな......」と思いながら書いたバトルプロットが、着実に映像化されていったので、その後も趣向を凝らしたバトル展開を書けて嬉しかったです。

奈良岡:「渋谷でカッコ良いバトルをやりたい!」という要望はかなり前から伺っていたので、計画的に制作できました。バトルプロットやイメージボードがあれば、絵コンテの完成前から進められる部分があることもCGの利点です。第19話の場合は、渋谷のスクランブル交差点のモデリング、ルシファーのエナジーサークル(攻撃技)の研究開発などを先行して進めました。

▲モンスターの戦い方を伝えるイメージボードもXFLAG PICTURESによって制作された。【左】ルシファーの場合は、ゲームでもお馴染みのエナジーサークル(広範囲に衝撃波を放つ攻撃技)のイメージボードが描かれている/【右】ラークスエンターテイメントによる、エナジーサークルの研究開発時の記録 ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲同じく、エナジーサークルの研究開発中の映像。前述のイメージボードを映像化する上で、最適な表現方法、タイミングなどが検討されている。エナジーサークルの完成映像は、前述の第19話「殲滅のルシファー」の2:20以降で確認できる ©mixi, Inc. All rights reserved.


平澤:第19話は手描き作画用のガイドも含めると、ほぼ全カットでCGを使っています。ルシファーは全カットCGですか?

奈良岡:カメラが近寄るカットでは、作画も併用しています。CGアニメーター自らが、レンダリング画像の上から描き足す場合もあります。

平澤:CGの制作会社は、カットに応じてCGアニメーターがモデルの形を変えたり、レンダリング画像に手を加えたりすることを良しとする"流派"と、そうではない流派があります。ラークスエンタテインメントや、現在セカンドシーズンを制作中のサンジゲンは前者に当たります。

奈良岡:当社の場合は、撮影用の素材を出力するところまでがCGアニメーターの仕事です。カメラ映えするように顔の形を変える、歯を加えるといったことは、多くの人が当たり前にやりますね。

砂村:制作状況はShotgunという制作管理ツールを通して、当社の近藤雅之(アートディレクター)や私にもリアルタイムに共有されていました。CGアニメーターの皆さんの仕事ぶりも見てきましたが、「やり過ぎだろう」と思うようなカットはほとんどなかったですね。むしろ、期待以上に良い画をつくってくださることの方が多かったです。

▲【左】第19話「殲滅のルシファー」で、上昇するルシファーの周囲をカメラがぐるりと一周するカットの絵コンテ。本カットでは、カメラは徐々に遠ざかって(ドリーアウトして)もいる/【右】CGディレクターの福島涼太氏が、本カットの演出チェックをしているShotgun(制作管理ツール)の画面 ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲前述のカットの制作中映像(アニマティクス) ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲同じく、前述のカットの制作中映像(セルルック)。このようにダイナミックにカメラが移動する演出を作画で表現する場合には、高い技術を必要とするし時間もかかる。そのため最近のアニメでは、本カットのようにCGで表現することが多い。作画を使う場合であっても、作画用ガイドとなるレンダリング画像をCGでつくるケースが増えている。本カットの完成映像は、前述の第19話「殲滅のルシファー」の3:20以降で確認できる ©mixi, Inc. All rights reserved.

坂本龍馬(獣神化)をアニメ内で先行公開

平澤:次のピークは、第32話「千のバハムート」以降の、ルシファーとのリターンマッチでしたね。

奈良岡:"千"のバハムートというタイトルを聞いた直後から、先んじて打てる手は打って、準備していました。

砂村:文字通り、渋谷上空を大量のバハムートで埋め尽くしてくださったので、第19話以上に緊迫感のあるバトルになりました。そして一連のバトルの渦中で、人気モンスターの坂本龍馬を獣神化させました。日頃のゲーム運営では、モンスターの獣神化はニュースとして告知しています。でもこの獣神化は事前発表を一切せず、アニメ内で先行公開しました。

平澤:あの瞬間、アニメの物語とゲームの物語がクロスして、自然な連動が生まれましたね。時を同じくして、劇場版の公開も発表したのです。YouTube版の制作と、劇場版の制作を同時進行することになり、ラークスエンタテインメントの皆さんには、たいへんお世話になりま した。


▲【左】坂本龍馬(獣神化)のアプリ用イラスト。本イラストは、坂本龍馬が獣神化した第33話「不滅のドラゴンスピリット」のエンディングにて初公開された/【右】XFLAG PICTURESのデザイナーが描いた、アニメ用のデザイン画 ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲坂本龍馬(獣神化)のイメージボード。「イメージボードには『ゲームのモンスターがアニメの中で動くなら、こういうバトルをやってほしい!』という、XFLAG PICTURESの思いが凝縮されています。それを踏まえた演出が、絵コンテにも、CGにも、適用されています」(砂村氏) ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲『モンストアニメ』ファーストシーズン 第34話「龍馬vsルシファー」 ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲【左】第34話「龍馬vsルシファー」で、獣神化した坂本龍馬がルシファーに銃を向けるカットの絵コンテ/【右】 福島氏(CGディレクター)が、本カットの演出チェックをしているShotgunの画面 ©mixi, Inc. All rights reserved.


【左】本カットを制作中の3ds Maxの画面/【右】同じく、After Effectsの画面。先に紹介したイメージボードの内容が、しっかりと演出に反映されていることがわかる。坂本龍馬のアニメーションに加え、炎の龍のエフェクトもCGアニメーターが制作している ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲前述のカットの制作中映像(アニマティクス) ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲同じく、前述のカットの制作中映像(セルルック)。完成映像は、前述の第34話「龍馬vsルシファー」の3:28以降で確認できる ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲龍馬とルシファーが激しいバトルを繰り広げるカットの制作中映像(アニマティクス) ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲同じく、前述のカットの制作中映像(セルルック)。完成映像は、第34話「龍馬vsルシファー」の6:15以降で確認できる ©mixi, Inc. All rights reserved.

劇場版では、20m以上のモンスターも登場

奈良岡:YouTube版では、1話平均30~40カット、多い場合は100カット近くでCGを使いました。一方、劇場版では総カット約1,200のうち、約700カットでCGを使っています。そのためYouTube版以上に、数多くの制作会社に協力を依頼しました。各会社の得意分野を踏まえて担当カットを割り振ってあるので、CGに興味のある人は、ぜひエンドクレジットまでしっかり見てほしいですね。どの会社が、どのパートを担当したのか、ちゃんとわかるように表記してあります。


▲『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』予告 ©mixi, Inc. All rights reserved.


平澤:YouTube版のモンスターは大きくても3~4m程度のものがほとんどでしたが、劇場版では20m以上のモンスターも登場しました。様々な大きさのモンスターが入り乱れて戦うカットは、CGでなければ表現するのが困難だったと思います。

砂村:オルタナティブドラゴンとアカシャのバトルは「怪獣戦争のようにしたい!」と思いながらバトルプロットを書きました。とはいえアカシャは「本当に動かせるだろうか?」と心配になるようなデザインですし、我ながら無茶なお願いをしているなと心苦しく思っていました 。ところが予想以上のカットが続々と仕上がってきて、本当に嬉しかったです。

【左】オルタナティブドラゴンのCGモデル/【右】アカシャのCGモデル。この2体のモンスターは20m以上という設定のため、その巨大さを伝える演出も必要とされた ©mixi, Inc. All rights reserved.


【左】オルタナティブドラゴンと、人間サイズのカグツチが合流するカットを制作中の3ds Maxの画面/【右】同じく、After Effectsの画面。「CG、作画、美術といったあらゆる素材を集約し、最終的な画にまとめる撮影は、日常的に演出と接することができる工程です。そのため、撮影から演出家を目指すという道もあると思います」(平澤氏) ©mixi, Inc. All rights reserved.


先に紹介したカットを構成する素材の一部。これらの素材をAfter Effects上で合成し、様々な特殊効果を追加することで、最終的な画が完成する。【左】カグツチのライン素材/【右】 カグツチのベースカラー素材 ©mixi, Inc. All rights reserved.


【左】カグツチのハイライト素材/【右】カグツチのエフェクト素材 ©mixi, Inc. All rights reserved.


【左】オルタナティブドラゴンのライン素材/【右】オルタナティブドラゴンのベースカラー素材 ©mixi, Inc. All rights reserved.


【左】オルタナティブドラゴンのハイライト素材/【右】背景素材① ©mixi, Inc. All rights reserved.


【左】背景素材②/【右】背景素材③ ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲前述のカットの制作中映像(アニマティクス) ©mixi, Inc. All rights reserved.


▲同じく、前述のカットの制作中映像(セルルック) ©mixi, Inc. All rights reserved.

セカンドシーズンは総カットの8~9割がCGベース

奈良岡:いきなり劇場版をつくったのであれば、こう上手くはいかなかったと思います。当社の場合、本作は1班体制でつくっていたので、経験値がどんどんチームに蓄積され、より速く、より良いカットをつくれるようになりました。特にCGディレクターの福島涼太がすごい速度でカットを仕上げていき、彼に引っ張られるようにして、他のCGアニメーターもキャラクターを自分のものにしていきましたね。

平澤:CGの場合、チームの集合離散が少なく、会社にノウハウが溜まりやすいので、2~3年目でCGディレクターになる新人もいます。作画の場合、2~3年目で作画監督になる新人は、それよりもずっとまれでしょう。

奈良岡:観察力があって、現実の事象や先輩の技を模倣することに秀でた人は、最小限の手数で良い画をつくってきますね。

平澤:作画の場合、他人のデザインしたキャラクターやモンスターに似せられる、綺麗な線を引けるなどの技術も求められますが、CGは構図をとること、動かすことの2点に注力できるので、より早くバッターボックスに立つ機会が巡ってきます。ただし、私が今からアニメ制作を志すなら、プログラムと演技の勉強もしたいですね。

奈良岡:私なら、あえて作画の勉強もやります。CGの表現技術は、今後も進化していくでしょう。そうなれば、ソフトをより深く使いこなすためのプログラムの知識、演技や作画といったCG以外の引き出しが、差別化の要因になると思います。

砂村:セカンドシーズンからはメインキャラクターもCGになったので、これまで以上にCGアニメーターの演技力や、作画に対する理解が求められるでしょうね。

奈良岡:現在当社では、第1話、第3話、第5話を制作中です。現実の役者同様、初期の演技は固いのが通例ですが、話が進むごとにキャラクターに命が宿っていくと思います。その過程も楽しみながら、応援してもらえると嬉しいです。

平澤:セカンドシーズンは総カットの8~9割がCGベースなので、CGディレクターが演出に関わる機会も増えます。守備範囲が広がれば、作品全体のワークフローにまで目を向け、改善を提案する機会も増えるでしょう。このながれが続けば、CGディレクター出身の演出家や監督も、想像を超えるスピードで増えていくだろうと期待しています。





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

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