2017.06.28 Wed

中学生・高校生が工作感覚で3DCG制作を満喫>>Maya 3DCG Special 1day

中学生、高校生のためのプログラミング・ITキャンプ、スクールを運営するライフイズテック(Life is Tech!)は、オートデスク、CGWORLDの協力を得て、Mayaの1日体験会「Maya 3DCG Special 1day」を2017年4月23日に開催した。二百数十人の応募者の中から抽選によって招待された約40人の参加者は、Mayaを使った3DCG制作に挑戦し、目を見張る成果によって開催者一同を驚かせた。本記事では、橋本善久氏(ライフイズテック)と新 和也氏(オートデスク)の対談を通して、1日体験会の一部始終をお伝えする。

橋本善久氏(取締役CTO)

ライフイズテック株式会社

東京大学工学部卒業後、セガで技術ディレクターやゲームディレクター、スクウェア・エニックスでCTOなどを務め、小規模から大規模まで様々な家庭用ゲームソフトやゲームエンジン開発を経験。2014年末よりライフイズテックの取締役CTOに就任し、オンライン学習システム「MOZER」の開発に従事。リブゼント・イノベーションズ株式会社 代表、株式会社INEI 執行役員、他を兼務。
life-is-tech.com

新 和也氏(セールスマネージャー)

オートデスク株式会社

メディア&エンターテインメント分野のセールスマネージャーとして、Mayaをはじめ、オートデスクの様々なソフトウェアのセールスを担当。
www.autodesk.co.jp

憧れの場所で楽しい体験をすることで、3DCGもMayaも、さらに楽しいと思えるようになる

新 和也氏(以降、新):ライフイズテックと私のご縁は、1年半ほど前に始まりました。橋本さんに誘われ、都内の大学で開催されたキャンプを見学したのです。中学生・高校生がUnityで3DCGのゲームをつくったり、インタラクティブなメディアアートをつくったりしている光景に衝撃を受け、「なんで当社のツールが使われていないんだ!使ってほしい!」と切実に感じました。

橋本善久氏(以降、橋本):新さんが感じたことは、キャンプの参加者や、ライフイズテックのスタッフも感じていました。ライフイズテックには 「Unityゲームプログラミングコース」「メディアアートプログラミングコース」「映像制作コース」をはじめ、素材の1つとして3DCGを扱えるコースが複数ありました。しかし、3DCGのつくり方を学べるコースはなかったのです。参加者の「3DCGをつくってみたい」という声に応えるには、どんなコース、どんなカリキュラムを設計するべきか、長い時間をかけて考察してきました。

▲橋本氏が着ているTシャツは1日体験会のために制作された限定品で、「Maya 3DCG Special 1day」のロゴがプリントされている。このTシャツは1日体験会のユニフォームとして参加者にもプレゼントされ、場の一体感を高めるのに効果を発揮した


:常日頃から「3DCGは難しい」「Mayaは難しい」と言われることが多いので、1日体験会の企画を橋本さんから聞いたときには、協力したいと思いつつ、「参加者を集められるだろうか?」という不安ばかりが先立ちました。

橋本:本当に不安そうでしたよね(笑)。でも、中学生・高校生であっても、映画やゲーム、アニメが好きな子は、3DCGに興味をもっている場合が多いです。その中には、オートデスクやMayaのことを知っている子もいます。情報の洪水の中から、その子たちが必要とする情報を選んで、丁寧に渡すことができれば、ちゃんと受けとってくれるだろうと思っていました。

:募集を開始してみたら、用意した40人分の枠は数時間で埋まり、その後も応募者は増え続け、驚くと同時に勇気をもらいました。最終的に応募者の総数は二百数十人にのぼり、遠方の都道府県からの応募もありましたね。中学1年生〜高校3年生までバランスよく分散しており、男子・女子の偏りがなかった点にもびっくりしました。

橋本:ライフイズテックのキャンプやスクールに参加したことのある生徒、いわゆるリピーターからの応募があった一方で、ライフイズテック自体が初体験という中学生・高校生からの応募もありました。1日体験会の参加者の顔ぶれからも、応募者の多様性がよくわかります。

:応募フォームの「意気込み」を書く欄に、「憧れのオートデスクで3DCGをつくりたい」と書いてくれた人もいて、嬉しかったですね。企画当初から、橋本さんはオートデスクの社屋で実施したいとおっしゃっていましたが、私は「意味があるのだろうか?」と思っていたのです。会場として用意できるのは普通の会議スペースで、われわれにとっては特別でも何でもない空間でした。でも、前述の「意気込み」や、1日体験会に集まった人たちのワクワク感に満ちた顔を見て、橋本さんの選択に納得しました。

橋本:場所の力はすごく大きいのです。憧れの場所で楽しい体験をすることで、3DCGをつくることも、Mayaを操作することも、さらに楽しいと思えるようになります。「意気込み」の欄に「以前、独学で3DCG制作に挑戦したけれど、挫折してしまいました。これを機会に、もう1度やりたいです!」と書いてくれた子もいました。そういう中学生・高校生の思いを後押しできる場所を用意することが、ライフイズテックの役割の1つだと思っています。

Time Schedule[10:30〜12:30]アクティビティ・午前の開発

▲【左】集合直後の会場。この時点では、多くの参加者が緊張していた/【右】全体の進行は、ライフイズテックの森谷善隆氏(左)と小森勇太氏(右)が担った。軽快な話術で場を盛り上げつつ、「開発(※)を楽しもう」などのルールを提示していった

※ライフイズテックでは、学習や制作のことを「開発」と総称している


▲【左】ライフイズテックに在籍する大学生メンターたちによる自己紹介/【右】参加者は5〜6人のチームに分かれて着席し、各チームにメンターが配置された。メンターは、チーム内の進行と、開発時のサポートを担った


▲「きみの脳みその中身を教えて!!」と書かれた自己紹介用のシート。「モンスト」「ハリーポッター」「MARVEL」「パソコン」「3D」「Maya」「AR」「VR」などの文字が並んでいる


▲シートを使い、チームごとに自己紹介を行なった。お互いに初対面のため、まだまだ表情が硬く、声の小さい参加者もいた

リニア(直線的)に進める部分は減らし、好きな順番でつまみ食いできる教材を目指す

:ライフイズテックの場をつくる力はすごいですね。こういう1日体験会を開催する場合、多くの会社はすぐにツールに触れてもらうと思うのです。ところがライフイズテックの場合、アクティビティという名のゲームからスタートなさる。しかも、われわれがハラハラするほどゲームの時間が長い。

橋本:ライフイズテックは、教材と同じくらい、アクティビティの質にもこだわっています。アクティビティを通して場を温めることで、楽しい雰囲気がつくられ、それが学習や制作の楽しさにもつながっていくのです。

:アクティビティが進むほどに、参加者の緊張がほどけ、声が大きくなっていったのが印象的でした。メンターがほぐし役となり、うまくチームを盛り上げていましたね。今回のメンターは、どういう経歴の方々なのでしょうか?

橋本:普段から、大学でMayaを使って3DCGや映像を制作しているメンターもいます。一方で、1日体験会のための事前学習をきっかけに、Mayaを覚えたメンターもいます。彼らは1日体験会用の教材を使った学習に加え、さらに深掘りした3DCGの講義も受けています。「以前から3DCGに興味があったので、勉強する機会をもらえて良かった!」と言ってくれるメンターもいました。

:ライフイズテックは、中学生・高校生と、その保護者の方々に加え、大学生がMayaを知る機会もつくってくれているわけですね。ますます有り難いです。今回の教材は、いつ頃から開発を始めたのですか?

橋本:ライフイズテックのオンライン学習システム「MOZER」用のインタラクティブ教材としてトライアルを重ね、手応えを得たのは半年ほど前ですね。教材のプロトタイプを実際にライフイズテックの生徒たちに触ってもらい「Mayaを学習する時間がどれくらい必要か」「楽しんでくれているか」「きちんと自分の作品をつくれるようになるか」を確認しながら開発を進めました。教材はWebブラウザベースになっており、マウスでクリックしながら進めていくとMayaの基本操作を学べます。学んだ内容を確認するクイズも盛り込まれています。他に、逆引き辞典のような要素も加えてあり、作例一覧の中から自分がつくりたいものを選び、その作例をつくるのに必要な機能を学べるようにもなっています。

:自分が興味のある機能を、好きな順番で学べる構成も盛り込んであるわけですね。

橋本:将来的には、基礎は網羅しつつ、モデリング、アニメーション、エフェクト、レンダリングなど、やり込みたい内容に応じて枝分かれしていける教材にしたいと思っています。リニア(直線的)に進める部分はなるべく減らし、好きな順番でつまみ食いできるようにしたいのです。生徒によって性格や興味の対象はちがいますから、決められた順番通りに関門を突破していくだけの教材だと、相性の悪い関門にぶつかった時点で、挫折してしまう生徒が出てくるからです。

:アニメーションを経験する前に、リギングで挫折する学生が多いといった話はよく聞くので、有効な設計だと思います。

Time Schedule[10:30〜12:30]アクティビティ・午前の開発

▲開発の前に行われた「ニセ芸術家をさがせ!」と題したアクティビティ(ゲーム)の様子。メンターがチーム内のコミュニケーションをうながし、参加者の緊張をほぐしていった


▲開発の様子。参加者は、Mayaと、Webブラウザベースの教材とを交互に切り替え、各々のペースでMayaの基本操作を学んでいった。わからないこと、困ったことがあれば、メンターがサポートしてくれる。作例は、ヒヨコ、自動車など、中学生・高校生が親しみをもって取り組めるモチーフが選ばれている

「Maya 3DCGコース」は、コラボレーションを促進するハブになりうる

:当社の門口(洋一郎氏)の講演を聞いた高校生が、今後の受験科目について具体的に質問していた点も印象に残っています。「これから先、3DCGの道に進むとしたら、英語と数学は必須として、物理も学んでおいた方がいいのでしょうか?」と聞いていました。彼らの将来が楽しみです。

橋本:ライフイズテックがきっかけで、3DCGの道に進む生徒が出てきてくれれば嬉しいですね。3DCGと、数学や物理はとても相性が良いので、数学の授業で習う「三角関数」や「マトリックス」、物理の授業で習う「慣性の法則」や「フックの法則」などが、楽しい道具であることを知ってもらうきっかけにもなればと願っています。

:学ぶことと、楽しむことを両立させる教材開発の難しさが、1日体験会を見ているだけでも伝わってきました。開始から数時間しか経っていないのに、教材そっちのけで自分の好きなものをモデリングし始める人もいましたよね。夢中になってくれる人ほど、こちらが意図するレールに乗らず、予想外の方向へと突っ走ってしまう......。

橋本:基本的な形のつくり方を学んだら、工作感覚で好きなものをつくりたくなったのでしょうね。「色を付けよう!(マテリアル カラーを設定しよう!)」とメンターが言っても、なかなか聞く耳をもってくれない(苦笑)。Mayaは、うまくいけば30分でわかりやすいアウトプットをつくれる、手応えを得やすいツールです。それだけ参加者を魅了する力が強いのだと思います。今日の反響は、しっかりと今後の教材開発に活かしていきます。7月・8月には都内で5日間のキャンプを実施するので、そのためのカリキュラムと教材をつくることが次の目標です。

:5日分の教材となると、かなりのボリュームが必要ですね。

橋本:1日目の午前中は自己紹介やアクティビティ、5日目の午後は発表会があるので、開発に当てられるのは正味4日ほどです。そのうち、前半の2日間は教材を使った個人での開発、後半の2日間はチームでの開発を予定しています。ライフイズテックには、新しく追加される「Maya 3DCGコース」を含め、全部で17のコースがあります。その多くは個人でつくりきるカリキュラムになっていますが、「Maya 3DCGコース」では、テーマを決め、1つのシーンをチームでつくるコラボレーション型を導入したいと思っています。例えば「自動車レース」がテーマなら、自動車をモデリングする生徒、コースをモデリングする生徒などに分業できます。「RPGの世界」がテーマなら、勇者をモデリングする生徒、モンスターをモデリングする生徒、お城をモデリングする生徒などに分業できるでしょう。

:分業してつくったデータを、最後に1つのシーンにインポートして、レンダリングするわけですね。

橋本:仕上げにカメラワークを付ければ、見ごたえのある映像ができると思います。いずれは 「Unityゲームプログラミングコース」「メディアアートプログラミングコース」など、他のコースとのコラボレーションにも挑戦したいです。コラボレーションは、今後ますます重要なスキルになっていくと思います。「Maya 3DCGコース」は、コラボレーションを促進するハブになりうると期待しています。

Time Schedule[13:30〜16:30]講演・午後の開発

▲オートデスクの門口 洋一郎氏による講演と、その後の質疑応答の様子。門口氏は3DCGの用途として、VFX・アニメ・ゲーム・VR・AR・建築シミュレーション・医療シミュレーション・ロボット制御など、幅広い分野を紹介した。さらに、クロスシミュレーションの計算に「フックの法則」が使われていることを示す動画を上映し、学校で習う物理法則が、3DCGと密接に関連していることを伝えた


▲教材の作例を参考に、ヒヨコや自動車をつくりこむ参加者がいる一方で、複雑な曲線で構成された抽象的なモデルをつくる参加者もいた。このモデルのマテリアル カラーには、時間の経過に応じて様々な色へと切り替わるアニメーションも設定されていた


▲会場にはVR機器も用意された。MayaでつくったモデルをVR空間内に表示し、様々な角度から見て楽しむチームもあった

1回でも経験しておけば、3DCGに対する敷居はぐっと下がる

橋本:ライフイズテックは、参加者全員に、将来プログラマーやデザイナーになってもらうことを目指しているわけではありません。プログラミングやITは、英語と同じように「これからの時代を生きる力」「人生を楽しむための道具」になると考えています。3DCGもまた、そういう生きる力や道具の1つになりうると思うのです。中学生・高校生のうちに3DCGに触れておけば、その後の人生の選択肢が1つ増えます。たとえ3DCGの道に進まなかったとしても、何らかのプロジェクトを立ち上げるときに「3DCGを使おう」という選択肢が、自然と脳裏にちらつくと思うのです。映画を見るときに、その制作の裏側を楽しめるようにもなります。

:「MayaとUnityで、ちょっとプロトタイプをつくってみようか」といった選択肢がちらつくでしょうね。今や3DCGの用途は建築、医療、ロボット制御などにも広がっていますから、どんな業界であろうと、そのちらつきがプロジェクトを前進させてくれる可能性はあると思います。CGプロダクションに発注するにしても、3DCGの制作経験があれば、より的確な発注ができるでしょう。

橋本:1回でも経験しておけば、3DCGに対する敷居はぐっと下がります。そうやって裾野を広げることが、3DCGの可能性や用途を広げることにつながるだろうと期待しています。

Time Schedule[16:30〜18:00]発表会・エンディング

▲参加者の保護者や家族も会場に入り、発表会が行われた。チームメンバー、メンター、保護者や家族が見守る中、参加者1人1人が自身の体験を語り、1日体験会はエンディングを迎えた





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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