CGはもちろん、フォト、映画、テレビ、アニメーション、サウンド、インスタレーションなど、映像メディアに関する幅広い分野の教育環境を有する名古屋学芸大学。同校でCGを教える岩野一郎先生に、学生時代の成長の秘訣を伺った。

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    岩野一郎先生(映像メディア学科 専任講師)

    名古屋学芸大学

    専門学校や他大学でCGを教える傍ら、2015年より名古屋学芸大学 非常勤講師を務める。2017年より現職。

    名古屋学芸大学

    フォト、映画、テレビ、CG、アニメーション、サウンド、インスタレーションを基礎科目に設定し、横断的に学べる教育環境が特徴。CGゼミに所属する学生は、VFX、フルCGアニメーション、VRなど、より専門性に特化した研究や作品制作を行っている。
    www.nuas.ac.jp

    学ぶ内容や時間の使い方を、自分の判断で決められる

    映像メディア学科には、CGアニメーションやゲームが好きで、自分もつくってみたいという思いを抱いた人たちが数多く入学してくる。しかし、どんな分野、どんな職種であれば、自分の力を発揮できるのかを自覚している人は少ないと岩野一郎先生は語る。「1年次は、幅広い分野の、様々な職種について学び、その一端を体験してみる。2年次で段階的に選択肢を絞り込み、3年次以降はゼミに所属して、自分の専門性を極めていく。時間をかけて自分の適性を探れる点が、大学で学ぶ価値のひとつです」。

    岩野先生が担当するCGゼミの定員は、1学年あたり約10名。3年次には課題制作を通してCGの基礎を学びつつ、10月のゼミ展用の作品も制作する。「まずは全工程の基礎を学習し、短い尺でいいから、自力で1つの作品を完成させるよう指導しています」。全工程を体験することは、自分の向き・不向きを自覚する機会になるし、4年次でチーム制作に挑戦する場合の下準備にもなる。

    岩野先生は、大学に加え、専門学校でのCG教育にも長年携わってきた。両者を比較すると、大学生にはより高い自主性が求められるという。「大学生は、専門学校生以上に、学ぶ内容や時間の使い方を自分の判断で決められます」。誰かに強制されなくても、自主的に作品をつくり、チェックを受け、何度でもやり直す学生ほど上手くなる。そうして培った自主性は、就職先の会社でも必ず評価されるという。

    ▲【上】CGゼミの演習風景/【下】CG制作を学ぶ一方で、自主的に粘土彫刻などの腕を磨く学生もいる。「粘土彫刻で培った造形力は、ZBrushでのスカルプトにも確実に反映されます。ある程度の造形力が付いたら、今度はMayaを使ったリトポロジーにも挑戦し、何らかのコンテンツをつくれる力を見に付けてほしい。CGは時間のかかる表現ですが、その現実にくじけることなく、ねばり強く制作を続けた学生は、高い確率でCGを仕事にする力を身に付けています」と岩野先生は語る

    School Life:映画ゼミ、サウンドゼミの学生と共に、VFX映像を制作

    ▲『鏡の体温』は、CGゼミ所属の4年生(当時)4名によるチーム制作の映像作品だ。2016年4月〜12月にかけて制作され、翌年の卒業制作展で上映された。同学科の映画ゼミの学生たちに実写素材の撮影を依頼し、CGゼミの学生たちが監督、役者、VFX制作などを担当した。音響はサウンドゼミの学生たちが協力している。夜の商店街で撮影された実写素材と、多脚ロボットやエフェクトなどのCG素材を合成した力作だ。実写素材のクオリティが予想以上に高く、『それに見合うCGをつくらなければ!』というプレシャーが、学生たちを飛躍的に成長させたと岩野先生はふり返る。「CG以外を専攻する学生が身近にいて、刺激や情報、協力を得やすいことも当校の価値だと思います」
    ▲『鏡の体温』のメイキング映像。企画、絵コンテ、プリビジュアライゼーション(プリビズ)、実写素材の撮影、メカのデザイン、CGのモデリング、リギング、アニメーション、コンポジットからなる工程を順番に紹介している

    Graduate:ゲーム業界を目指し、アクション中心のデモリールを制作

    櫻井紗希氏(2016年3月卒業)

    株式会社バンダイナムコスタジオ

    映像メディア学科でCGを専攻し、4年次から岩野先生の指導を受ける。在学中は作品制作に注力し、卒業後、デモリール制作と就職活動を行う。現在はバンダイナムコスタジオでアニメーターとして勤務。
    www.bandainamcostudios.com

    ▲櫻井紗希氏のデモリール。ゲーム会社への就職を意識して、壁を登る・降りる・飛び越えるといった、短いアクションが中心となっている。「学生の間が、1番自由に作品をつくれる期間だと聞いていたので、自分の好きなものを詰め込んだ作品をつくることに力を注ぎました」と櫻井氏は語る。見た人に『こういうものが好きなんだな』と伝わる作品になるよう、常に意識していたという。「CG以外の分野について学んだり、CG制作の全工程を1人で担ってみたことも、良い経験でした」。視野や表現の幅が広がり、自覚していなかった自分の好き嫌いなどが把握できたことで、自身の将来像が明確になったそうだ

    TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
    PHOTO_大沼洋平