2017.03.22 Wed

ZBrush公認インストラクター&大阪成蹊大学 特任准教授 和田真一氏による、ZBrush&美術解剖学講義

デジタル・スカルプティングツールのZBrushを手にした人は、多くの場合、人間、あるいは人型のキャラクターを造形しようとする。そして、実際につくってみた後に、『なんて自分は人体のことを知らないのだ!?』と絶望するという。

「人は、人をつくりたいという強い欲求をもっているのだと、つくづく感じます。3DCGはもちろん、2Dの画であっても、人を表現するなら美術解剖学の知識をもっている方が良い。クリーチャーを生み出す場合も、見たこともない骨格や筋肉構造でつくるより、実在する生物の骨格や筋肉構造を取り込んだ方が良い。そうすることで、作品の存在感、デザインの説得力は格段に増します。これは間違いのない事実です」と、日本で唯一のZBrush公認インストラクターで、BLESTAR代表取締役の和田真一氏は語る。そんな和田氏は、大阪成蹊大学 芸術学部にて、『ZBrushによるスカルプティング』と『美術解剖学の勉強』を組み合わせた講義を実施している。本記事では、和田氏の講義内容と、そこに込められた同氏の思いを紹介しよう。

和田真一氏(代表取締役)

BLESTAR

自身が経営するBLESTARを拠点にモデラーやコンセプトアーティストとして活動する一方、大阪成蹊大学 芸術学部の特任准教授としてZBrushや美術解剖学を教えている。

日本で唯一のZBrush公認インストラクターで、Pixologic社公認のトレーニング用DVD『BLESTAR ZBrushベーシック』の開発、販売も行っている。
www.blestar.com

学生の目の前で、実際に描き直して見せる

和田氏は2015年度から大阪成蹊大学の特任准教授となり、芸術学部 アニメーション・キャラクターデザインコースと、マンガ・デジタルアートコースの学生に向けて、講義を実施するようになった。最初の1年間は、1年生と3年生を対象に、人体描画の基礎も教えていたという。「私はZBrushの講師として招かれたのですが、美術の基礎も教えられないかと相談されたのです。そこで初年度だけ、パソコンを使わない完全なアナログ描画の講義を実施しました」。

和田氏は人体描画の実習を通して、美術解剖学、遠近法(パース)、キャラクターデザインなど、多岐にわたる美術の基礎を伝えたという。「まずは学生に人体を描いてもらい、私が丁寧に添削しました。学生の目の前で、実際に私が描き直して見せることで、ペンの持ち方、芯の長さ、手の動かし方といった、プロの描き方を吸収してほしかったのです。並行して、美術解剖学やパースの知識、キャラクターデザイナーの仕事についても語って聞かせました。単純ですが、効果的な講義だったと思います」。

▲【左】学生が鉛筆で描いた人体描画を、製図用ペンを使って添削している/【右】ポーズの指導に加え、キャラクターのビジュアルを通して、ストーリーを伝える方法も指導している。「目に見える部分だけでなく、見えない部分まで妄想するよう指導しています。例えば、名前、使命、職業、文化、性格、過去、家族、恋人、ライバル、趣味、趣向、余暇の過ごし方など、実在する人と同様、キャラクターも色々なものを背負っていて然るべきです。全てを画で表現していなくても、つくり手の妄想力の強さは、画からにじみ出てきます」。妄想力の強いつくり手の作品は、観る人を魅了すると和田氏は語る


▲自然なシルエットの描き方、乳房やお尻の表現方法などを、画で具体的に解説している。加えて、正しいパースを伝えるため、シーンを模倣した3DCGデータも制作し、【右】の上部に添付している。「美術解剖学と一緒に、奥行きや立体感を表現するためのテクニックも伝えるようにしています」


自身が学生だった頃、先生から画の欠点を指摘されるたび、和田氏は『そんなに言うなら、先生が描いてよ!』と思っていたとふり返る。「講義では、自分が先生にやってほしかったことを実践しています。加えて、プロになってから『学生時代に勉強しておけば良かった......』と後悔したことも伝えるようにしています」。学生時代の和田氏は、美術解剖学を全く勉強していなかった。しかしプロになり、キャラクターをつくる仕事に携わるようになってから、その必要性を痛感したという。

『やさしい美術解剖図』(J. シェパード著/1980/マール社)をはじめ、著名な美術解剖学の書籍を数多く読み、模写や模刻もしました。ZBrushのアーティストがつくった解剖図の3DCGモデルも、非常に参考になりました。人体は奥が深く、未だに新しい気付きがあるので、学生に教えながら自分も一緒に学んでいます」。

良質な資料を何度も見て、模刻を繰り返すことが最良の道

2016年度以降はZBrushによるスカルプティングの講義のみを担当するようになった和田氏だが、『学生の目の前で実演して見せる』、『並行して美術の基礎を伝える』といったスタイルは継続している。「現在は、ZBrushの基礎を教える講義(2年生前期の必修)、ZBrushの応用と美術解剖学を教える講義(2年生後期の必修)、ZBrushの上級者向け講義(3年生前期の選択制)を担当しています。2年生向けの講義は必修ですが、2Dの作画アニメなどを専攻する学生の中には、3DCGをやりたがらない人もいますね。そういう場合は、『3DCGの講義だと思わず、デジタルの彫刻の講義だと思ってやりなさい』と伝えています」。

2Dの作画アニメ、マンガ、イラスト、3DCGなどの表現手法を問わず、キャラクターをつくるなら、美術解剖学は避けて通れない知識だと和田氏は語る。「例えば画の初心者がキャラクターの腕や脚を表現すると、ハムのような左右対称のシルエットにしがちです。しかし実際の人体の腕や脚は、骨格も筋肉構造も左右非対称です。どんな形の骨に、どんな筋肉が付いているかを確認しながらスカルプティングしていけば、人体の正しい形や構造を学習できます」。

和田氏によるZBrushの講義では、DVD『BLESTAR ZBrushベーシック』を副教材として、最初にZBrushの基本機能を解説する。学生は前述のDVDを使って予習・復習を行い、講義中はスピードスカルプティングの課題に取り組みながら、基本機能を学んでいく。それが終わったら、成人男性の3DCGモデルのスカルプティングを行いながら、人体の美術解剖学を学ぶ。

「『筋肉質な男性はつくりたくない。細身のイケメンや、女性キャラクターをつくらせてほしい』という人もいます。しかし、細身のイケメンだって、皮膚の下には筋肉があります。カッコ良い身体を表現したければ、筋肉を知る必要があるのです。女性を表現するにしても、まずは男性のスカルプティングを通して人体の基本的な構造を学んでから、女性ならではのプロポーションや脂肪の付き方を学ぶよう指導しています」。

美術解剖学を学習するなら、良質な資料を何度も見て、模刻を繰り返すことが最良の道だと和田氏は語る。「学生には『スカルプターのための美術解剖学』(アルディス・ザリンス、サンディス・コンドラッツ著/2016/ボーンデジタル)という書籍を勧めています。私は日本語版が出版される以前から原著『Anatomy For Sculptors』を愛用してきました。本書では、初心者がやりがちなミス、勘違いしやすいことなどを、具体例をあげて解説しています。しっかり読み込んで、不断の努力で模刻を続ければ、キャラクターの表現力は確実にレベルアップするでしょう」。

実際、和田氏の講義がきっかけで美術解剖学に興味をもち、自主的に学ぶようになった学生は、色々な点に注意しながらキャラクターを制作できるようになったという。「そういう人の成長を目にすると『教えて良かった』と思いますね」。

▲【左】『BLESTAR ZBrushベーシック』は、ZBrushによるスカルプトに焦点を当て、全機能をわかりやすく解説したPixologic社公認のトレーニング用DVDだ。日本語で学習できる良質な教材として、国内の多くのユーザーから高く評価されている/【右】『スカルプターのための美術解剖学』は、極力文字に頼ることなく、人体の形や構造を画像で簡潔に解説した、Kickstarter発の美術解剖学書だ


ただし、他人が良いと思う本が、自分にとっても良い本だとは限らない。図書館や本屋に行き、実際に中を確認して、自分に合う本を見極めてほしいと和田氏は補足する。「画がいっぱい載っている本が良いと思う人もいれば、骨や筋肉構造に関する理屈をしっかり解説している本が良いと思う人もいます。いずれにせよ、1冊買ったら、途中で投げ出さず、しっかり読み込むことが大切です」。

立体的な形や構造を把握できる点が、3DCGを使った模刻のメリットだと和田氏は続ける。「本に載っている3面図を模写するだけでは、脇(わき)の下、脚の間など、描かれていない部分の情報が補完できないのです。3DCGであれば、全ての要素を立体的に模刻できるので、学習内容に漏れがありません」。

▲2年生〜3年生にかけて、和田氏の講義を受講してきた学生の作品。2年次の講義でつくった成人男性のCGモデルをアレンジして、人型のクリーチャーを制作している

知識を吸収し、しっかりと消化する。その上で表現しなければ、作品として成立しない

加えて、完成したキャラクターにリギングを施し、アニメーションを設定すれば、キャラクターに演技を付けられる点も3DCGのメリットだ。「講義中に本格的なリギングやアニメーションを実践するような時間の余裕はないので、Adobeが提供しているMIXAMOというWebサービスを使っています」。本サービスを使えば、アップロードしたキャラクターの3DCGモデルに対して、ほぼ自動でリギングを施し、ライブラリ内のモーションキャプチャデータを流し込める。MIXAMO内で制作したデータをFBX形式でダウンロードすることも可能だ(※1)。

※1 MIXAMOについては、アドビクリエイティブクラウド BDスタッフブログ『MIXAMOでの3Dキャラクターアニメーション』で紹介しているため、こちらも参考にしてほしい。


「Adobeアカウントをもっているユーザーであれば、一連のサービスを自由に使えるので、とても重宝しています。スカルプティングの段階では、キャラクターはTポーズやAポーズ(※2)をとっているため、プロポーションや形が不自然でも、学生の多くは気付きません。ところが、MIXAMOにアップロードして、人間らしい動きをさせた途端に、その不自然さが誰の目にもハッキリとわかるようになるのです」。見慣れないポーズのときには気付かなかった不自然さが、日常的に見慣れた動きをさせることで、よくわかるようになるという現象は非常に興味深い。

※2 モデリング時にキャラクターにとらせるポーズの名称。その名の通り、アルファベットのTの字のように、身体の外側方向へ両腕を水平に上げ、両脚を垂直に下ろした状態をTポーズとよぶ。両腕をやや下ろし、両足をやや開き気味にした状態はAポーズとよぶ。

▲同じく、和田氏の講義を受講した学生の作品。「ZBrushでクリーチャーをつくることは、世界中で流行っています。当校の学生たちも色々なクリーチャーをつくります。ただし『クリーチャーは自分の頭の中から生みだすから、自由に考えて良いんだ!』と思っているようではいけません。自分と、作品を見てくれる人との間にある共通認識、つまり実在する生物の形や構造を盛り込むことが大切です。それによって、『実在するかもしれない』『動きそう!』と思えるような存在感が宿ります。そんなキャラクターがゲームの中にいれば、『仲間にしたい』あるいは『狩りたい』と思うでしょう? 美術解剖学はそのためにあるのです」


1年間にわたるZBrushの必修講義を受け、さらに上級者向けの内容も学びたいという学生には、3Dプリンタでの出力方法や、他のソフトウェアへのデータコンバートの方法も教えるという。「3Dプリンタでの出力だけなら、ZBrushの作業だけで完結します。しかし、多くのデジタルコンテンツ制作は、他のソフトウェアへのデータコンバートが必須です。学生の志向に合わせて、他のソフトウェアの使い方も教えるようにしています」。例えばリアルタイムCGをやりたいという学生には、Mayaや3ds Maxを使ったリトポロジーのやり方、Substance Painterを使ったテクスチャ制作のやり方なども伝えているそうだ。

▲同じく、和田氏の講義を受講した学生の作品。クリーチャーだが、人体の三角筋、上腕二頭筋などに近い筋肉の隆起が表現されている。一方で、踵(かかと)を地面よりも高い位置にするなど、人体以外の生物を意識した構造も見られる


▲上段で紹介した3DCGデータをZBrush上で5分割した後、3Dプリンタで出力して組み立て【左】、着彩している【右】。出力に際しては、歯のような薄い部分が折れないよう、根本部分に厚みをもたせるなどの調整を加えたという。「仕事でフィギュアのデジタル造形を依頼されることもあるので、そこで得た経験を学生に伝えるようにしています」


▲同じく、和田氏の講義を受講した学生の作品。毛は、ZBrushのFiberMeshという機能を使って制作し、レンダリングにはMayaを使用している


講義を通して美術解剖学の知識が深まり、『人体の骨格は、なぜそんな形をしているのか』『人体の筋肉は、なぜそんな構造をしているのか』といった理屈がわかってきた学生は、筋肉を描く楽しさに気付き、覚えたての知識を存分に描きたい衝動に駆られるという。「皮膚や皮下脂肪がほとんどないキャラクター、急所を守ることなく大半の筋肉を露出しているキャラクターをつくっても、そのキャラクターを取り巻くストーリーは伝わらず、表現とは言えません」。

まずは知識を吸収し、しっかりと消化する。その上で表現しなければ、作品として成立しない。それを1人でも多くの学生に伝えたいという思いで、日々、試行錯誤していると和田氏は語る。同氏の教えは徐々に学生たちに根付き、ゲーム会社をはじめ、デジタルコンテンツ業界への就職を果たした学生もでてきたという。和田氏の今後の教育活動に、引き続き期待していきたい。

本記事によって美術解剖学に興味をもった人は、ぜひZBrushを使った美術解剖図の模刻に挑戦してほしい。





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

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