2017.01.25 Wed

いかにして、効果的なポートフォリオ講義を行うか>>コンセプトは、みんなちがって、みんないい

アニメ・ゲーム・VFX業界をはじめ、クリエイティブ系のアーティスト採用で必須となるポートフォリオやデモリール(作品集)。書籍『採用担当者の心に響く ポートフォリオアイデア帳』(2016)では、その制作方法に加え、アイデアの源泉となる実例50点や、業界での働き方を紹介している。本書の共著者で、ポートフォリオの講義、求人取材、クリエイティブ系の教材・検定開発などに携わってきた尾形美幸による教職員向けセミナー『ポートフォリオのコンセプトは、みんなちがって、みんないい』が、2016年10月15日(土)にボーンデジタル(東京都千代田区)で開催された。本記事では、このセミナーで紹介した、より効果的なポートフォリオの講義を実践するためのヒントを講演者自身がお伝えする。

※前述の通り、本記事が伝えるのは、ポートフォリオの講義を実施する教職員のための情報だ。ただし、教職員が何を重視し、どんな意図で講義を設計しているのかといった舞台裏を知ることは、講義を受ける学生にとっても有益だと思う。ポートフォリオ制作が進まない、手詰まりを感じているという学生は、本記事を通じて、問題解決の糸口を見つけていただければと願っている。

尾形美幸(編集者)

株式会社ボーンデジタル

CG-ARTS(公益財団法人 画像情報教育振興協会)、フリーランス編集者を経て、2015年よりボーンデジタル所属。CGWORLD Entry.jpをはじめ、CGWORLD関連媒体で記事の執筆編集を担当。東洋美術学校 非常勤講師。東京藝術大学大学院修了 博士(美術)。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011)。共著書に『ポートフォリオアイデア帳』(2016)、『改訂新版 ディジタル映像表現』(2015)、『CGクリエーターのための人体解剖学』(2002)がある。
www.borndigital.co.jp

本質を選りすぐり、睡魔を吹き飛ばす面白さでもって解説する

2002年から現在にいたるまで、3DCGをはじめとするクリエイティブ業界で執筆編集に携わってきた筆者は、その人脈や経験を活かし、『ポートフォリオ見本帳』(2011)、『ポートフォリオアイデア帳』(2016)という2冊の「ポートフォリオ本」を手がけた。これらが呼び水となり、様々な大学・専門学校・スクール・学会・イベントで、ポートフォリオに関する講演・講義の依頼を頂戴することになった。その多くはいわゆる単発講義(1回のみの特別講義)だが、東洋美術学校では全10回を超える連続講義も実施している。10回もあれば多くの情報を伝えられそうなものだが、120ページ以上ある書籍の全部を学生に語って聞かせることは難しい。

前述の「ポートフォリオ本」に限らず、基本的に「解説書」の類いは読者が自学自習することを前提に制作する。そのため、教職員が解説しなくても理解できるように、内容を噛み砕き、丁寧な記述を心がける。これをそのまま講義で朗読されても、学生は有り難みを感じないし、面白くもない。単調な朗読会は、睡魔の襲来を招き、机に突っ伏して熟睡する学生や、スマートフォンに熱中する学生を量産する。教職員にとって、これは非常に切ない光景だ。そもそも単発講義の場合には、1冊まるまる朗読する時間はない。

必然的に、執筆内容の中から、講義時間内で伝えられる分量の本質だけを選りすぐり、睡魔を吹き飛ばす面白さでもって解説することが求められる。なお、「ポートフォリオ本」の本質は、突き詰めていくと25文字で表現できると筆者は考えている。この25文字については、本記事の最後にご紹介する。

▲書籍『採用担当者の心に響く ポートフォリオアイデア帳』(2016)は、ポートフォリオをつくる目的や、具体的な制作方法に加え、アイデアの源泉となる実例50点、業界での働き方なども紹介している


▲セミナーで使用されたスライド。以降では特に重要なスライドを引用しつつ、セミナー内容を紹介していく。【左】書籍の内容をそのまま朗読されても学生は有り難みを感じないし、面白くもない/【右】講義を実施する際には、書籍の内容を取捨選択し、講義時間内で伝えられる本質だけを選り分け、面白そうに解説することが必要となる

「志望する業界も職種も決まっていない」という学生に、座学60分で何を伝えるか

筆者の場合、講義内容は教育機関のニーズと学生のニーズを伺った上で決定する。教育機関からの依頼で最も多い講義形式は「座学90分」だ。依頼時期は、在学期間の中盤~就職活動の開始直前が多い。しかし、90分間、ずっと受け身の姿勢で講義を聞かされることは学生でなくても辛いと思う。少なくとも筆者は辛い。睡魔に対して、負け戦だとも思う。そのため可能な場合は、「座学60分」「休息10分」「ワークショップ60分」を1セットにした講義を逆提案するようにしている。ワークショップでは、座学で伝えた内容を、自分の身体を動かしながら体験してもらう。その方が、より深く知識が定着するだろうし、自分の頭で考えること、自分が解決すべき問題に気付くことを促せるとも思う。ただしワークショップの実施は、学生の人数が増えるほど難しくなる。筆者の経験上、単発講義の場合は30人程度が限界だろうと考えている。

講義を設計する際には、その時点での学生の進路希望も聞くよう心がけている。例えば「3DCGコース」に所属する学生向けの講義を依頼されたなら、フルCG志望、アニメ(セルルック)志望、VFX志望、コンソールゲーム志望、スマートフォンゲーム志望といった、各業界の志望者人数を尋ねる。モデラー志望、アニメーター志望、エフェクト志望、ゼネラリスト志望といった、志望職種の情報も欠かせない。ポートフォリオ制作の本質は、クリエイティブ系のすべての業界、職種において共通しているが、学生に示す事例や作例は、志望業界、志望職種に沿っていればいるほど、興味をもって聞いてもらえる。

加えて「志望する業界も職種も決まっていない」という学生の人数を把握することも重要だ。この類いの学生は、どの教育機関にも一定数いるように感じている。それどころか、働くこと自体に後ろ向きな学生もいる。彼らの多くは、そもそも「何を目的に、ポートフォリオをつくるのか」「自分は、何者になりたいのか」ということが理解しきれていない。しかし、この2点を理解してくれないことには、ポートフォリオ制作はもちろん、就職活動のスタートラインにも立てない。「志望する業界も職種も決まっていない」という学生が受講者の半数以上を占める場合は、前述の2点に重点を置いた講義を実施するようにしている。

前述の「何を目的に、ポートフォリオをつくるのか」は、座学60分でも伝えられると思う。しかし「自分は、何者になりたいのか」を理解するためには、腰を据えた自己分析と業界研究が必要だ。筆者にできるのは、その必要性に気付いてもらい、基本的なやり方を伝えることに留まる。だがしかし、就職活動の開始直前に筆者が講義を行い、自己分析と業界研究の必要性を語っても、「時既に遅し......」という気がしないでもない。「自分は、何者になりたいのか」を考えず、教職員の指示にしたがっただけの課題や、自分の好みに合わせただけの作品しかつくってこなかった学生は、自分が培ってきた能力や進路希望を表現できる作品をもたないため、ポートフォリオ制作で迷走するケースが多い。最近は「就職活動直前ではなく、在学期間の前半1/4〜1/3の時期に講義を実施した方が効果的なのでは」と考えるようになっており、徐々にそういう取り組みも始めている。

▲【左】「志望する業界も職種も決まっていない」という学生は、どの教育機関にも一定数いるように感じている。それどころか、働くこと自体に後ろ向きな学生もいる/【右】そういった学生の存在も考慮に入れつつ、「何を目的に、ポートフォリオをつくるのか」「自分は、何者になりたいのか」を出発点に、講義を設計していく

第1の目標は、学生を飽きさせない、眠らせないこと

講義を実施するとき、筆者は2つの目標を定めるようにしている。第1の目標は「学生を飽きさせない、眠らせないこと」だ。睡魔は最優先、かつ全力で倒すべく、講義内容を日々アップデートしている。学生に無駄な時間を過ごしてほしくないという思いもあるが、何よりも、自分のテンションが下がるからという理由の方が切実だ。

現在心がけている試みは、大きく分けて3つある。1つ目は、テンポの良い進行だ。講義スライドは、1分あたり平均1.5枚を消費する。速すぎるくらいで調度良いと思っている。ちゃんと見ていないと、すぐにスライドが差し替わってしまうという緊張感のある方が、学生は集中してくれる。その代わり、大事なことは間隔を開けて繰り返す、選択式クイズで学生の参加意識を呼び起こす、要点をまとめたスライドだけは長めに表示してノートをとってもらう(写真撮影を許可する場合もある)などの工夫をしている。

2つ目は、テキスト情報は完結に表記し、なるべくビジュアライズもすることだ。伝えたいことの本質を選りすぐり、極力少ない文字数で、大きな文字サイズで、見やすいフォントで表記するよう心がけている。さらにフリーの写真素材などを活用し、テキスト内容をビジュアライズして伝えると、知識の定着率が増す。人に情報を伝えるときには、掲載媒体に合わせた編集が必要だ。同じ情報を扱う場合でも、書籍、雑誌、Webサイト、講義スライドでは、編集方法を変えた方が伝わりやすい。加えてターゲットに合わせた編集も必要だ。学生向けの講義スライドの場合は、紙芝居や風刺漫画に近い編集が適しているように思う。

3つ目は、笑い(ユーモア)を忘れないことだ。話す内容にも、スライドにも、適度なユーモア、緩さを織り交ぜるようにしている。その方が、筆者自身が楽しいし、学生も楽しんでくれるように思う。

だがしかし、これらの試みを総動員しても、寝てしまう学生はいる。そういう場合の対策として、状況が許す場合は、学生が興味をもちそうな解説書や画集数冊を講義に持参し、「私の講義がつまらないのは私の力量不足なので申し訳ない。でも、貴重な学習時間を睡眠に消費するのはもったいない。これらを読んで自習してください」と言うようにしている。

▲【左】貴重な学習時間を睡眠に消費するのはもったいない/【右】睡魔は最優先、かつ全力で倒すべく、様々な試みを実施している

第2の目標は、自主的な行動を起こすスイッチを押すこと

講義における第2の目標は「自主的な行動を起こすスイッチを押すこと」だ。これを言ってしまうと身も蓋もないが、講義を聞くだけで、学生が劇的に成長するわけがない。講義で聞いた内容を記憶に留め、それを道しるべに、自主的な行動を継続することで、学生はようやく成長できる。そのための「スイッチを押す」ことが筆者の役割だと思っている。ポートフォリオの講義では、ポートフォリオ制作を山登りに例え、講義後にどんな行動を起こせば良いか、具体的に示すようにしている。例えば、ポートフォリオをまだつくっていない人(=山登りの1合目)は、2〜3日以内に、市販のクリアファイルに作品を詰める。取りあえずつくった人(=山登りの3合目)は、周囲の人に見せて意見をもらう......というように、各段階の行動指針を伝えている。

前述の指針を伝えるときには「兎に角つくること」と「恥ずかしがらず人に見せること」が大切だと強調している。前述の「自分は、何者になりたいのか」が理解できていない学生に対しても、それを探ることと、ポートフォリオをつくり、人に見せ、ブラッシュアップすることを並行して進めるよう伝えている。本人の行動や、外部からの刺激によって、突破口が開ける可能性は大いにあると信じている。加えて、学生生活は長いようで短いので、のんびりしている余裕はない。

とはいえ、学生の中にはスイッチを押せば即座に反応する人もいれば、押してもなかなか反応しない人もいる。こういった学生には、ワークショップップや個別相談を通した、より具体的な指針の提示、ねばり強いスイッチの押し直しなどが必要だと思う。そのためには常勤の教職員の皆様との連携が必須なので、講義後のフォローも視野に入れた、目標や考えの共有をしていきたいと感じている。

▲【左】講義を聞くだけで、学生が劇的に成長するわけがない/【右】講義を聞いた後、学生が自主的な行動を起こせるような指針を示すことが重要だと考えている

何も考えずに実例を真似しても、自分のコンセプトは伝わらない

先に紹介した『ポートフォリオ見本帳』には44点、『ポートフォリオアイデア帳』には50点にのぼるポートフォリオの実例を掲載している。講義を実施する際には、これらの実例の中から、学生の進路希望にフィットしたものを選択し、提示するようにしている。ただし実例は、あくまで「例」であって、それを何も考えずに真似したところで、大した効果も成長も得られない。実例は、自分のポートフォリオのコンセプトを考え、表現するためのアイデアの源泉として扱う必要がある。

ポートフォリオ制作においては、コンセプトが非常に大切だ。コンセプトとは、言い替えると「全体を貫く方針」であり、「そのポートフォリオを通して、何を伝えるか」ということだ。例えば前述の実例の中には、「自分が感じる日本アニメの魅力を、セルルックの3DCGで表現したい」、「ユーザーに世界観を提示できるデザイナーになりたい」といったコンセプトのポートフォリオがある。優れたポートフォリオは、パラパラッとめくっただけで、コンセプトが伝わってくる。逆に言うと、コンセプトがわかりやすく伝わるように、情報を取捨選択し、編集する必要がある。

そして自分のコンセプトは、自分が培ってきた知識・技術・経験、つくってきた作品、進路希望を基に、自分で考える必要がある。借り物の、付け焼き刃のコンセプトでは、採用担当者の心に響かない。童謡詩人の金子みすゞ氏の言葉をお借りして、「ポートフォリオのコンセプトは、みんなちがって、みんないい」と筆者は語ることが多い。先にも述べたが、「自分は、何者になりたいのか」が理解できていない学生は、採用担当者に対してコンセプトを提示することが難しいため、ポートフォリオ制作において迷走するケースが多い。

多くの場合、採用担当者は一度に大量のポートフォリオに目を通す必要があるため、最初の評価にかける時間はおしなべて短い。数秒〜数分という短い時間内で「後ほどじっくり見るポートフォリオ」と「これ以上見る必要のないポートフォリオ」に大別するのだ。このジャッジにおいて、前者のグループに入るポートフォリオをつくることが、最初の勝負だと学生たちには伝えている。文字を読まなくても、ビジュアルを目で追うだけで、コンセプトが伝わる。そんな強力なビジュアライズを心がけてほしいと願っている。

それでは最後に、筆者が考える「ポートフォリオ本」の本質をお伝えしよう。

<<採用担当者に、自分自身のコンセプトを1分で伝える。>>

上記の25文字が、ポートフォリオをつくる目的であり、ポートフォリオの講義で伝えるべき、最も重要な本質だと思っている。

▲【左】ポートフォリオ制作においては、コンセプトが非常に大切だ。優れたポートフォリオは、パラパラッとめくっただけで、コンセプトが伝わってくる/【右】フリーペーパー『CGWORLD Entry vol.14』にて新卒採用企業89社を対象に行ったアンケート調査では、約1/4の企業が1点あたりの評価に要する最短時間を1分未満と回答した


▲【左】筆者が考える、ポートフォリオをつくる目的を表した講義スライド/【右】「ポートフォリオ本」に掲載された実例は、自分のポートフォリオのコンセプトを考え、表現するためのアイデアの源泉として扱う必要がある


以上が、2017年1月時点でのポートフォリオ講義に関する筆者の考えであり、本セミナーの骨子である。さらに詳しい内容を知りたい方は、お申込フォームより、セミナー動画と関連資料の閲覧申請をしていただきたい。





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO(PORTRAIT)_大沼洋平

記事が気に入ったらシェアしよう!

New Post最新の記事はこちら

Ranking今週の人気記事

Findキーフレーズから探す

Top