2016.12.21 Wed

城西国際大学が実施する人体クロッキー&3Dスカルプト>>生物の観察力を磨く

人体をはじめとする生物の、生き生きとした姿や動きの本質を理解し、『生物らしく』表現するために、アーティストは何を観察するべきか。1999年から現在まで、一貫してこの課題に取り組み、多くの学生を指導してきた城西国際大学 メディア学部の高桑真恵氏。ユニークな人体クロッキーを活用した、観察力のトレーニング方法を紹介しよう。

高桑真恵氏(メディア学部 准教授)

城西国際大学

メディア学部 准教授。アニメーション・CG分野担当。京都精華大学 マンガ学部 非常勤講師。著書に『美術解剖学をデッサン・アニメ・漫画に活かす 人体クロッキー』 (2011)があり、本書は中国語・台湾語の2ヶ国語で翻訳出版されている。
www.jiu.ac.jp

内部構造、重心の位置、躍動感、勢いまで観察し、表現する

城西国際大学 メディア学部では、アニメーションやCG以外にも、映像美術、芸能、サウンドなど様々な分野を専攻できる。入学後、段階的に自分の専門を絞り込んだり、分野をまたいで複合的に学んだりできる点が特徴で、入学前から本格的なデッサン教育を受けている学生は少ない。そんな学生に、限られた時間の中で、生物の観察力を身に付けてもらうため、高桑氏は一般的なデッサンに加え、ユニークな人体クロッキーの指導も行なっている。

「伝統的なデッサンを通して、対象の形や質感を観察し、表現する力を培うことも大切です。ただし、それだけでは、生物の『柔軟性』や『動き』を見る目を養うのは難しいのです」。2D、3Dを問わず、人体をはじめとする生物を表現したい人は、その内部構造、重心の位置、躍動感、勢いまで観察し、表現できる力を身に付けてほしい。そのために、人体クロッキーの指導にも力を注いでいると高桑氏は語る。クロッキーの授業は1回あたり3時間で、多いときには60枚以上の紙を消費し、クロッキー専用ペンの芯も、まる1本を使い切る。「紙に描くことは、絶対的に効率が良いうえ、表現の可能性は無限です。量をこなし、観察力を養っておけば、その経験が後の作品制作のベースになってくれるのです」。

▲【左】人体デッサンの作例。クロッキーとは異なり、陰影の付いた面で表現されている/【右】人体クロッキーの作例。伸び伸びとした身体の動きを、大胆に誇張した有機的なカーブで表現している。胸部には、胸郭を意識したであろう線も描かれている(以上、全て高桑氏が制作)

見えないものを観察する人体クロッキー

クロッキーの授業は、『ムービング』と呼ばれる線を引く練習から始まる。クロッキー帳に、様々なタッチ、カーブ、濃淡の線を何本も引き、描ける線のバリエーションを増やすと共に、柔軟性の表現力を高めていく。それが終わったら、ヌードモデルのクロッキーへと移行する。「クロッキーでは、線だけしか使いません。制約があるほど、観察し、想像することに、学生は多くのエネルギーを費やせます」。人間の骨格や筋は、男性の方に、形態の特徴が色濃く現れている。そのため、まずは男性モデルから描き始め、慣れてきたら女性モデルにも挑戦するという。

▲『ムービング』と呼ばれる、有機的な曲線を引く練習の作例(高桑氏が制作)


「学生には、骨格、筋、勢いなど『表面に見えないものを観察し、線で表現しましょう』と指導しています」。骨や筋を観察する場合は、モデルに10分間静止してもらい、体表から見える骨や筋の隆起、筋の収縮と弛緩(しかん)の関係性などを丁寧に解説する。一方で、動きを観察する場合は、1~3分間隔で、モデルに様々な躍動感あふれるポーズをとってもらうそうだ。

▲【左】学生による、初期の人体クロッキー/【右】同じく学生による、後期の人体クロッキー。解剖学的な整合性、ポーズの柔軟性が増していることがわかる。「3ヶ月程度続けると、生命感を表現できるようになってきます。『絵のでき映えは気にしないでください。観察することに徹してください』と指導するよう心がけています」

3Dスカルプトを通して学ぶ、生物の表現

見えないものを観察する前述の人体クロッキーは、CGアーティスト、とりわけZBrushなどのスカルプトツールを使うモデラーとの相性が良いように感じると高桑氏は語る。「3Dモデルにポーズやアニメーションを付けるためには、内部にボーンを埋め込み、セットアップをする必要があります。体表と内部構造の関係、動きによる変形まで意識できるようになれば、説得力が高く、有用性も高い3Dモデルの造形が可能です。スカルプトツールは3Dモデルを柔軟に変形できるので、私からのアドバイスを、学生がすぐに反映させられる点も良いですね」。以降で紹介する高桑氏の指導を見れば、人体クロッキーの授業で伝えている知識が、3Dスカルプトの作品指導と密接に関連していることがよくわかる。

加えて、人体に関する知識は、ほかの生物の表現にも応用できるという。「脊椎動物の基本構造は共通する点が多いため、人体の知識を足がかりに、ほかの脊椎動物の内部構造や動きを想像できるようになるのです」。例えば、人体のかかとには踵骨(しょうこつ)という骨が入っており、直立時には地面とほぼ接する。しかし、馬や鳥のかかとは、地面から高く離れた位置にあり、足の指に相当する骨が長いため、地面に接するのは指の先端部分のみという特徴がある。人体の骨格が理解できていれば、馬や鳥との差異も理解でき、人らしい表現、馬らしい表現、鳥らしい表現を、臨機応変に使い分けたり、組み合わせたりできるというわけだ。「人だけでなく、様々な生物に対する好奇心も高めてほしいですね」。

▲学生によるスカルプト作品の上に、高桑氏が黄色の線で『軸』を描いている。【左】は正面、【右】は左側面だ。「身体の水平方向における各断面の重心点をつないだ線を、私は軸と呼んでいます。この作品は軸が直線的だから、生物らしくありません。軸を有機的なカーブへと変更するよう指導しました」。人体と鳥を組み合わせたクリーチャーにしたいという学生の意向も汲み取り、カカトの位置を高くする提案(【右】の赤丸部分)も行なっている


▲縫工筋(ほうこうきん)は、骨盤(こつばん)の外側から始まり、脛骨(けいこつ)の内側で停止する、太もも前面を斜めに走る長い筋だ。【左】の学生によるスカルプト作品では、縫工筋の始まる位置(解剖学用語で『起始(きし)』と呼ぶ)がやや内側にあり、正確性に欠ける。より外側、骨盤の上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)に該当する位置(【右】の赤丸部分)から始まるよう、高桑氏が緑色の線で指示している


▲人体の膝を外側から観察すると、脛骨の上端部分に停止する腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)が形づくる、平らな面を確認できる(【左】の赤丸部分)。この面を学生によるスカルプト作品でも表現するよう、高桑氏が黄色の線で指示(【右】の赤丸部分)している。足の直線的なシルエットを修正し、より生物らしい、有機的なシルエットにするための黄色の線による指示にも注目してほしい





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

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