2016.12.06 Tue

アニマが実施するCG制作のためのスケッチ会&デッサンクラス>>現象を見る力を磨く

アニマでは8年ほど前から有志者によるデッサンの社内勉強会が行われてきた。2016年12月現在、その勉強会は形を変え、有志者によるスケッチ会、武蔵野美術大学の先生を招いてのデッサンクラスの2種類が実施されている。『描くこと』は『見ること』の訓練であり、磨いた力は3D制作の強固な土台になると語る同社のスタッフに話を伺った。

長澤剛史氏(プロデューサー)

株式会社アニマ

プロデューサー業務と並行して、スタッフのスキルアップ支援にも意欲的に取り組んでいる。

高橋達也氏(ショットアーティスト)

株式会社アニマ

スケッチ会の発起人の1人。専門学校でCGを学んだものの、本格的な美術やデッサンの教育を受けた経験はない。現在は社内の仲間と共に、毎週のスケッチ会やデッサンクラスに参加している。

中島 丈氏(ディレクター/アニメーター)

株式会社アニマ

高橋氏と同じく、専門学校でCGを学んだ。本格的な美術やデッサンの教育を受けた経験はなかったが、スケッチ会とデッサンクラスに参加して以降、飛躍的に観察力と表現力が高まっている。

石川智久氏(アートディレクター/モデラー)

株式会社アニマ

武蔵野美術大学でデザインを専攻した後、CG制作の道に進んだ。年を追うごとに美術やデッサンの重要性を痛感するようになり、現在はスケッチクラスとデッサン会で基礎を勉強し直している。

株式会社アニマ

ハイクオリティなCG映像を中心に、オリジナル作品も手がけるアニメーションスタジオ。近年は海外からも案件を受託しており、国内外で通用する作品づくりを目指している。2015年にはTonko House Inc.(以降、トンコハウス)と業務提携を締結。
www.studioanima.co.jp

描き続けることで、壁を乗り越える力が身に付く

スケッチ会が始まったのは2016年2月。きっかけは2015年9月のTonko House Inc.トンコハウス出張だったと、高橋達也氏はふり返る。「僕を含む3名のスタッフが、サンフランシスコのトンコハウスで3週間の研修を受けました」(高橋氏)。そこで実践したペインティングの基本的なトレーニングをもち帰り、アニマで再現したものがスケッチ会だという。今回取材に応じてくれた中島 丈氏や石川智久氏をはじめ、スケッチ会に参加するアーティストは順調に増えていき、8月には武蔵野美術大学の先生を招いたデッサンクラスも並行して実施されるようになった。これらに参加するアーティストの職種は、モデラー、アニメーター、ショットアーティストなど、広範囲にまたがっている。

▲【左】高橋氏を含む3名が参加した、トンコハウスでの研修の様子。トンコハウスの堤 大介氏(写真右上)、ロバート・コンドウ氏(写真中央)らと共に、同じモチーフをペイントしている。「一緒にスケッチしたことで、彼らの自由な表現は、圧倒的な厚みをもった美術の基礎の上に成り立っていることを実感しました」(高橋氏)/【右】高橋氏が研修中に描いたスケッチ。モチーフと、それが存在する空間の明暗を観察し、太めのブラシサイズで表現している


アニマではiPad Proの使用を推奨しているが、重要なのはデジタルで描くことではなく、観察力を訓練することだという。スケッチやデッサンを繰り返すことで向上する観察力は、CGの仕事を支える土台になるとプロデューサーの長澤剛史氏は語る。「やる気はあるのに結果がついてこない、応用がきかない、伸び悩んでいるといった人は、観察力の訓練が足りない場合が多いのです」(長澤氏)。描き続けることで現象を見る目が養われ、壁を乗り越える力が身に付くという。以降では、スケッチ会、デッサンクラスの模様と、高橋氏、中島氏、石川氏のスケッチやデッサンを通して、具体的なやり方と得られる効果を紹介していこう。

光を描くスケッチと、形を描くデッサン

アニマの始業は午前11時。スケッチ会とデッサンクラスは、それ以前の時間帯にスタートする。スケッチ会は週1回開催され、1.5時間の間に、モチーフと周囲の空間を照らす光を、太めのブラシサイズで描いていく。形やディテールではなく、光の明度・彩度を正確に把握し、表現することを重視する。明度・彩度の表現は絵の土台をなすため、これらが不正確だと、どんなにディテールを載せても良い絵にならないという。

デッサンクラスは週2回、同じ内容で受講者を変えて実施される。1回あたり2.5時間をかけ、武蔵野美術大学の先生がつくった全27回のカリキュラムに則り、モチーフの形を狂いなく描く。前述のスケッチとは対照的に、ディテールに加え、固そう、冷たそうといった、"そのものらしさ"も表現する。『iPad Proでデッサンをする』という、アカデミックの常識にはないスタイルに出会った当初、先生は大きな衝撃を受けた。しかし新しい教育システムを開発する足がかりになると感じ、アニマでの指導に意欲をみせているという。

▲【左】アニマの会議室で実施しているデッサンクラスの様子。黒色のカーテンで太陽光を遮り、モチーフ(石膏像)が一方向の光源から照らされるよう調整している。「情報量が多すぎると圧倒されてしまうので、最初は欲張らず、少数のモチーフにシンプルな光が当たるセッティングにした方が描きやすいです」(石川氏)/【右】スケッチやデッサンの道具として、アニマでは12.9インチiPad ProApple PencilProcreate(ペイントアプリ)を推奨している。絵の具を出す、鉛筆を削るといった準備が必要ないのに加え、短時間で使い方を修得できる手軽さが良いという

Case01:高橋氏(ショットアーティスト)の軌跡

高橋氏は専門学校でCGを学び、ショットアーティストとして経験を積んできた。過去に本格的なデッサン教育を受けた経験はなかったため、先にスケッチ会から始められて良かったという。「美術予備校に通う学生と同じように、紙と鉛筆を使って何時間もデッサンを描き続けるとなると、ハードルが高く尻込みしたでしょう」(高橋氏)。

iPad Proという手軽な道具を使い、1.5時間で1枚のスケッチを仕上げるスケッチ会から始めたおかげで、『描くこと』に対する抵抗感を簡単に払拭できたという。「スケッチ会やデッサンクラスの目的は、現象を見る力を養うことであって、絵が上手くなることではありません。そう思えれば、上手く描けない自分を恥じる気持ちはなくなります」(高橋氏)。上手く描こうと気負う必要はなく、モチーフや空間が発している情報を素直に拾い上げ、他人にわかりやすく伝わるように描けば良いという。

「描けば描くほど観察力のレベルが上がり、今まで拾えなかった微妙なディテールや色のちがいに気付けるようになります」(石川氏)。全員で同じモチーフを描いていると、人によって受けとる情報の内容や分量がちがうことがわかり、良い刺激になるという。「Procreateには描画の過程を記録して、映像として再生する機能があります。その映像を見れば、描き手が何を見ていたのか、どんなことを考えていたのか、伝わってくるのです」(中島氏)。お互いの映像を見せ合うことで、自分が拾えなかった情報、描ききれなかった情報に気付き、さらに見る目が養われるそうだ。

▲スケッチ会 初期の作品


▲スケッチ会 中期の作品


▲スケッチ会 後期の作品。後期になるほど、モチーフと空間の状況がわかりやすく伝わるのに加え、絵の面白みが増している。「西洋絵画における『良い絵』は、明るい面と、中間の面と、暗い面が、1枚の絵の中にバランスよく収まっているものだと、トンコハウスで教えていただきました。それを意識しながら、明暗を配置するようにしています」(高橋氏)


▲高橋氏のスケッチ過程(ペイントアプリのProcreateで記録している)


▲デッサンクラス 初期の作品


▲デッサンクラス 中期の作品


▲デッサンクラス 後期の作品。スケッチ会とデッサンクラスの絵を比較すると、まったくちがう目的で描かれていることがよくわかる。前者は光に注目し、モチーフと周囲の空間の明度・彩度を表現している。一方で、後者はモチーフの形に注目し、電球のフィラメント(初期【左】)、ワインのラベル(中期【左】)などのディテールまで丁寧に表現している。スプーンの固く冷たそうな様子、手の温かくやわらかそうな様子(後期【左】)を伝える細やかなタッチにも注目してほしい

Case02:中島氏(ディレクター/アニメーター)の軌跡

前述の高橋氏と同じく、中島氏(ディレクター/アニメーター)も専門学校でCGを学んだ。本格的なデッサン教育を受けた経験はなく、スケッチ会に参加した当初は、モチーフが何なのかすらわからない絵を描いていたと苦笑する。そんな中島氏に、絵の初心者に向けた注意点を語ってもらった。「まずは自分が描きたいものを描くことをお勧めします。ただし、複雑なセッティングにしても手に負えないので、モチーフは1個に絞った方が良いですね」(中島氏)。

その際、何を目的に描くのかを意識することも大切だという。「そのモチーフの中で、自分が1番良いと思うポイントを見定め、絵の中で表現するのです。目的がないまま描いても、それは『作業』でしかなく、意味がないと社内のアートディレクターからアドバイスされました」(中島氏)。例えば、ビンの表面で反射した光のきらめきが綺麗だなと思ったら、なぜそう見えるのか、どう描けばそれを表現できるのかまで考えて描く。その方が、見る力を養えるという。

さらに、一緒に描く仲間を見つけてほしいと高橋氏は補足した。「アニマではLINEのグループをつくり、その中でメンバーの絵を見せ合っています。他の人がたくさん描いていれば、焦りますし、やる気もでます」(高橋氏)。取材の時点で最も枚数が多かったのは中島氏で、153枚もアップロードされていた。ProcreateにはiPhone版もあり、電車内や自宅でも描いているという。着実な積み重ねがその観察力を飛躍的に向上させていることは、中島氏の絵の軌跡を見れば一目瞭然だ。

▲スケッチ会 初期の作品


▲スケッチ会 中期の作品


▲スケッチ会 後期の作品。同じ人が描いたとは思えないほど、飛躍的に絵のわかりやすさが向上している。初期の【左】は何を描いたのか不明だが、中期の【左】はどう見てもビンとレモン、後期の【左】はミカンである。例えばビンのきらめきを表現したい場合、ビンだけに注目しても、きらめきの理由は解明できないし、表現もできないという。「周囲の空間にも意識を向けることで、『背景が暗いから、手前のきらめきが綺麗に見えるんだ』と気付けます」(中島氏)。モチーフの見え方は、それが置かれた空間との関係性で変化する。モチーフだけを集中して描くのではなく、最初に背景色で画面全体を塗りつぶし、その上にモチーフの色を重ねていった方が描きやすいと中島氏は解説する


▲中島氏のスケッチ過程(ペイントアプリのProcreateで記録している)。最初に背景色で画面全体を塗りつぶしている点に注目してほしい


▲デッサンクラス 初期の作品


▲デッサンクラス 中期の作品


▲デッサンクラス 後期の作品。初期【左】と後期【左】を比較すると、手の立体感が格段に増している。このような絵を描くとき、写真を見る人もいるが、なるべく実物を見ながら描いた方が良いという。「見える角度も、光の方向も固定されている写真は、情報量が少ないぶんだけ描きやすいのです。加えて、撮影者が良いと思ったポイントにフォーカスされています。どうせ同じ時間をかけるなら、実物をしっかり観察し、自分が良いと思うポイントをしっかり描くことをお勧めします」(石川氏)

Case03:石川氏(アートディレクター/モデラー)の軌跡

先に紹介した2人とは異なり、石川氏(アートディレクター/モデラー)は武蔵野美術大学の卒業生で、高校時代には本格的なデッサン教育を受けている。ただし大学での専攻がデザインだったこともあり、在学中にデッサンの必要性を感じる機会は少なかったという。「CG制作を始めて以降、年を追うごとに美術的な考え方の大切さを実感するようになっています」(石川氏)。

美術の基本は、画づくりの共通言語でもあるため、基本が欠落しているとアートディレクターとの会話が成立しにくいという。「例えば『画面内の、この部分を暗くしてほしい』と指示されたとき、美術の基本があれば、暗くする目的を察することができるのです」(石川氏)。先に中島氏が語った絵を描く場合と同様、CGで画づくりをする場合にも、目的を意識することが大切だという。「画面全体の立体感を出したいのか、主役を目立たせたいのかなど、画づくりの目的がわかれば、何をどの程度暗くするべきか、適切なさじ加減を判断できます」(高橋氏)。

指示された仕事の目的を意識するか否かで、得られる経験は大きくちがってくるという。「目的を考えないまま、指示内容を『作業』として実行し、却下されて訳もわからず落ち込むくらいなら、相手の意図する目的を理解し、それに応える『仕事』をした方が、はるかに実のある経験ができます」(石川氏)。スケッチやデッサンの繰り返しは、現象を見る力に加え、画づくりの目的を察する力の訓練にもなる。それ故、アニマでは多彩な職種のアーティストが実践しているというわけだ。

▲スケッチ会 初期の作品


▲スケッチ会 中期の作品


▲スケッチ会 後期の作品。初期の時点で、すでにモチーフと空間の状況がしっかり伝わる。中期、後期ではさらにレベルが上がっており、絵の上達に終わりはないことがよくわかる。「モチーフや空間を観察していると、モチーフのデザインに込められた意図や、空間の成り立ち方を分析する力が養われます。私の場合はモデラーなので、その経験が、デザインや設定画に込められた意図を読み解く際に役立っています」(石川氏)


▲石川氏のスケッチ過程(ペイントアプリのProcreateで記録している)


▲デッサンクラス 初期の作品


▲デッサンクラス 中期の作品


▲デッサンクラス 後期の作品。スケッチ同様、後期になるほどモチーフの存在感が増している。高橋氏がトンコハウスで習ったスケッチと、デッサンクラスの先生が伝えるデッサンとでは、表現の切り口にちがいがあって面白いと石川氏は語る。「トンコハウスでは、先入観や思い込みをなくし、観察した色を素直に描き写すことで、光や空間の本質を捉えるよう伝えます。一方で、デッサンクラスの先生は『ディテールまでしっかり追い求めることで、物そのものの本質を捉えましょう』と教えるのです。光や空間を伝えたい場合と、物そのものを伝えたい場合とでは、表現の切り口が変わってくる。言葉と同様、絵もコミュニケーションツールのひとつなのだと実感しました」(石川氏)





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

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