2016.11.16 Wed

ポートフォリオ徹底解説No.04(ModelingCafe)>>繊細なつくり込みがもたらしたリアリティ

No.03に続き、ModelingCafe 福岡オフィスに勤務する若手モデリングアーティストの学生時代のポートフォリオを紹介しよう。中村太政氏は2014年に九州デザイナー学院を卒業し、同校の研究生を経た後にModelingCafeへ入社した。福岡オフィスの舵取りをしつつ、同校の非常勤講師も務めるモデリングアーティストの北田栄二氏は、学生時代から現在にいたるまで中村氏の成長を見守ってきた。No.03で紹介した齋藤隼人氏と同様、学生時代に『とにかくやりきった』経験が、今の仕事の土台になっていると評価する。以降では、中村氏が在学中につくったポートフォリオと、そこに掲載された代表作品の制作過程を紹介する。

中村太政氏(モデリングアーティスト)

ModelingCafe

2014年に九州デザイナー学院を卒業。同校の研究生としてさらに1年間在学した後、2015年からModelingCafe 福岡オフィス勤務。
modelingcafe.co.jp/www.artstation.com/artist/c5_417rin5

人に見せ、意見をもらい、完成度を高めたVehicle

レトロカーや銃など、実在するハードサーフェスのモデリングに注力していた齋藤氏とは対照的に、中村氏の場合は、SF(Science Fiction)、つまり科学的な空想に基づいたハードサーフェスのモデリングに力を入れてきた。「映画やアニメがきっかけでメカをはじめとするハードサーフェスに興味をもったので、SFへの関心が強いです」と中村氏は語る。以下は、そんな中村氏が学生時代に最も力を入れた自信作だ。

▲『Proto Type(Vehicle)』と題されたモデリング作品。Vehicle(ビークル)とは乗り物のことで、エンジン(右上画像参照)やプロペラ(下画像の機体側面参照)の形状から、垂直離着陸や高速飛行が可能な機体であろうという想像がかき立てられる


▲前述のプロペラ部分を拡大してレンダリングした画像を、ワイヤフレームと共に掲載している。エンジンやプロペラは特に時間をかけてつくり込んだので、ポートフォリオでは大きく掲載したと中村氏は語る。自動車などの実在するメカとは異なり、SF系のメカの場合には、現実離れしたテクノロジーや理屈の機構を有していても問題ない。しかし、多くの観客の想像力をかき立て、興味をもってもらうためには『いかにも実在しそうなリアリティ』が必要となる。本作のエンジンやプロペラは細部まで繊細につくり込まれており、その努力が作品のリアリティを高めている


本作の制作期間は5週間+3日で、ソフトウェアはモデリングにMaya、レンダリングにmental ray、テクスチャ制作や2DペイントにPhotoshopを使っている。ポートフォリオのキャプションには、『mental ray miaマテリアルの、Anisotropicシェーダを使ったこと(このシェーダについては後述する)』『フォトリアルに見せるため、リニアワークフローを導入したこと』『3DTotal.comに掲載されたこと』などが解説されている。3DTotal.comはデジタルアーティストを対象とする世界最大規模のコミュニティサイトで、世界中から投稿作品が寄せられる。本作は同サイトに掲載(※)され、アクセスランキングTOP20に入るという快挙を成し遂げた。「制作期間中は、北田先生をはじめ様々な人に見せて、意見をもらい、完成度を高めていきました。3DTotal.comに掲載されるとサイトの訪問者が投票してくれるので、そのスコアも励みになりました」(中村氏)。以降では、中村氏の試行錯誤の数々を具体的に紹介していこう。

※3DTotal.comには日本語オフィシャルサイトの3DTotal.jpもあり、中村氏の作品はそちらにも掲載されている。


▲【左】Vehicleの全体像/【右】同じく全体像のワイヤフレーム。ワイヤフレームだけを見ると、意外と情報量の少ない部分が多いことに驚く。このワイヤフレームに、シェーダによる質感設定、リニアワークフローを導入したライティングやレンダリング、2Dペイントによる汚しが施されることで、フォトリアルなVehicleが姿を現す


▲【左】プロペラの拡大画像/【右】同じくプロペラのワイヤフレーム。本作のプロペラは、とりわけ情報量が多く特徴的な要素だ。ヘリコプターのメインローター(回転翼)をモチーフにしたと思われる上部と、巨大なプロペラファンのような下部とで構成されている。特に上部は過剰なほどに精密につくり込まれており、本作のリアリティを高めるのに大きな効果を発揮している。情報量の多いプロペラと、比較的情報量の少ない周辺部分とのコントラストによって、画面にリズムが生まれ、空間の広がりが強調されている


▲【左】エンジンの拡大画像/【右】同じくエンジンのワイヤフレーム。エンジン周辺の白色のカバーに描き込まれた汚れも、リアリティを高めるために一役買っている。こういった汚れは、制作の初期段階では存在しなかったという。「北田先生に勧められ、レンダリング後の画像にPhotoshopで加筆しました」と中村氏は語る。汚れの溜まりやすいつなぎ目や、他の部品とふれ合う面ほど目立つ汚しが入っており、機体とうまく馴染んでいる。現実世界において、汚れのないピカピカの新品を目にする機会は少ない。そのためCG制作者の間では『汚れを制する者は、リアリティを制す』と言われる場合もある。ただし、自動車、カメラ、化粧品、マンションなどの商品広告では、中古品だと思われるような汚しの追加は好まれない。その場合には、色やライティングを工夫してリアリティを高めるなど、代替手段を講じる必要がある


▲先に紹介したエンジン部分のマテリアルに割り当てられたAnisotropicシェーダの設定。このシェーダは異方性シェーダとも呼ばれ、表面に溝のあるマテリアルを表現する場合に使われる。表面に溝のある物体は、溝の特性や溝の方向に応じて、異なる方向に光を反射させる。例えばCDやDVDの表面には無数の溝が刻まれており、入射した光を異なる方向に反射させるため、見る角度によって様々な色に見える。MayaのAnisotropicシェーダの詳細については、オートデスクによる解説を参照してほしい。なお、入社した光を等しく同じ方向に反射させる物体には、等方性シェーダであるPhongやBlinnを適用する。

本作の外装やエンジンは、ABS樹脂やカーボンのような光沢を放っており、見る角度(カメラの位置)やライトの位置によってハイライトの入る場所が変化する。このマテリアルを表現するため、中村氏はAnisotropicシェーダを使用した。「なかなか思い通りの質感を表現できず苦労しましたが、リアリティを出すためにこだわりました」とふり返る

とことんまで極めた、SF系ハードサーフェスの数々

在学中の中村氏はSF系のハードサーフェスモデリングに繰り返し挑戦し、この分野をとことんまで極めた。ポートフォリオには、先に紹介したVehicle以外にも多彩なハードサーフェスが並んでいる。以降では、代表的な作品を紹介しよう。


▲『Proto Type(Suits)』と題されたモデリング作品で、『Proto Type(Vehicle)』の世界観に合わせてつくられている。Vehicleに跨って空中戦をくり広げるためのプロテクトスーツという設定で、制作期間は6週間+2日だ。マテリアルには主にAnisotropicシェーダが使われ、ボディ全体を覆う白黒のメッシュはテクスチャで表現されている。「尊敬するコンセプトモデラーのVitaly Bulgarov氏の作品を参考にしています。人型のロボットをつくるのは初めてだったのに加え、テクスチャを綺麗に貼り付けることができず苦労しました」(中村氏)


▲初期につくられた作品で、こちらはドイツのコンセプトデザイナーであるDaniel Simon氏の影響を受けている。制作期間は3週間。この作品がきっかけとなり、ハードサーフェスモデリングにのめり込むようになったそうだ

書籍紹介





TEXT_CGWORLD編集部
制作協力_中ノ子 基高(CCiT/MyPLANET)

記事が気に入ったらシェアしよう!

New Post最新の記事はこちら

Ranking今週の人気記事

Findキーフレーズから探す

Top