2016.11.02 Wed

ポートフォリオ徹底解説No.03(ModelingCafe)>>入念なリサーチによって磨かれた造形力

ModelingCafeは、ジャンルや表現手法を問わず、あらゆるモデリングに対応できる『モデリング特化型』CGプロダクションだ。「コンセプトデザインとモデリングを一括で提案できることが強みです」と同社取締役で、モデリングアーティストの北田栄二氏は語る。そんな北田氏が舵取りを担う福岡オフィスでは、「将来有望!」と見込まれた若手モデリングアーティストたちが日々腕を磨いている。その中の1人である齋藤隼人氏は、2015年3月に日本工学院八王子専門学校を卒業し、新卒としてModelingCafeに入社した。本記事では、齋藤氏が就職活動に使用したポートフォリオと、そこに掲載された代表作品の制作過程を紹介する。

齋藤隼人氏(モデリングアーティスト)

ModelingCafe

2015年に日本工学院八王子専門学校を卒業。同年4月より、ModelingCafe本社に就職。7月より福岡オフィス勤務。現在は主に背景のモデリングを担当している。
modelingcafe.co.jp/
www.artstation.com/artist/hayato/

細部や内部構造まで、レトロカーを徹底的にモデリング

齋藤氏のポートフォリオの先頭を飾るのは、『Aston Martin Le Man』と題された以下の作品だ。キャプションでは、『細部までこだわってつくったこと』『レトロカーなので資料がとても少なく、細部がわからない場合が多々あったこと』『わからない場合は、自分で想像したり、実在するほかの自動車のパーツを組み合わせたりして整合性をとったこと』『レトロカーはパーツが多く、バランスをとるのがとても難しかったこと』などが解説されている。制作期間は2ヶ月で、ソフトウェアはモデリングにMaya、レンダリングにV-Ray、テクスチャ制作にPhotoshopとIllustratorを使っている。

▲『Aston Martin Le Man』と題されたモデリング作品。ポートフォリオの先頭に掲載した自信作だ。齋藤氏のポートフォリオは、これ以降のページも横位置で(四角形の長辺を横に置いて)つくられている。映像作品の画面は横長の長方形なので、ポートフォリオも横長(横位置)で使った方が作品を大きく掲載できると考えたそうだ。装丁は市販のクリアファイルを使用しているが、なるべく作品を綺麗に見せるため、透明度の高いファイルを探したという


Aston Martin Le Man(正式名称:Aston Martin Serie-1 International Le Mans)は、イギリスの自動車メーカーのアストンマーティン・ラゴンダ社によって1931年に製造された。実物が現存しているものの、前述のキャプションにもあるように、目にできる機会はそうそうない。齋藤氏の場合は、Aston Martin Le Manをはじめ、様々なレトロカーの写真を探し、それらを参考に制作したという。本作のモデリングにおいて、齋藤氏は外装の細部や内部構造まで徹底的につくり込むことを自分に課した。しかし内部構造の参考資料はほとんど入手できず、周囲の構造から想像するしかない部分も多かったという。このような難易度の高いモチーフを選び、2ヶ月もの期間をかけて、しっかりと作品を完成させた齋藤氏の姿勢から、モデリングに対する意気込みの高さが伝わってくる。この作品を見た北田氏は、『とにかくやりきった』ことを評価したという。

3DCGアニメーションやゲームの制作では、通常、観客やプレイヤーの目に触れない部分は制作しない。また、精密につくり込むことが常に最良というわけでもない。例えば画面に小さく表示されるだけのモデルなら、細部までつくり込む必要はない。たとえ大きく表示されるモデルであっても、カメラが固定されているなら、見えない部分は省略しても良い。データ量の上限がある場合は、モデリングだけで表現するのではなく、テクスチャを用いた表現を併用するという選択肢もある。用途やデータ量の上限に応じて、求められるディテールやつくり方は変化するため、使用目的の理解と臨機応変な対応が求められる。

齋藤氏の『Aston Martin Le Man』の場合は、用途やデータ量の上限に対する配慮は二の次で、自身の表現欲求を満たすことが最優先となっている。学生作品、あるいは個人作品だからこそ可能なことであり、無駄、あるいは過剰とも思える行為だ。しかし北田氏は「とにかく一度は無我夢中でやりきってほしい。そうやって完成させることで、何が無駄で、何が有用かを初めて理解できるようになります」と語る。以降では、そんな齋藤氏の徹底的なこだわりと入念なリサーチの数々を具体的に紹介していこう。

▲【左】ワイヤフレームを表示した状態/【右】アンビエントオクルージョン成分。ワイヤフレームを見れば一目瞭然だが、車輪を構成するハブやスポーク、タイヤの溝、車輪横のサスペンションなどが、全てポリゴンによってモデリングされている。「学生時代はテクスチャに関する知識が少なかったので、ほとんどのパーツをモデリングしています。フロントグリルの革パーツだけは、ディスプレイスメントマッピングで処理しました」と齋藤氏は語る。運転席、タイヤ上部のフェンダーなどの曲線部分には特に多くのポリゴンが使われており、造形に対する齋藤氏のこだわりが伺える


▲【左】タイヤのワイヤフレーム/【右】タイヤの拡大(プレビュー)。前述したように、車輪を構成するハブやスポークから、タイヤの溝にいたるまで、全ての凹凸がポリゴンによって造形されている。こうした表現は、自動車メーカーのTVCM、Webサイト、カタログなどにおいて、実写さながらの3DCGを表現したい場合には使われることもある。しかし制作期間が長くなり、制作費は高くなるため、ディスプレイスメントマッピングなどのテクスチャで表現する場合も多い。「車輪やタイヤの細部の形状は、自分で探した様々なレトロカーの写真を見ながら造形しています。参考にできる写真が限られていたので、想像力を膨らませ、より本物に近い形状を模索しました」(齋藤氏)


▲【左】左右のタイヤをつなぐ車軸付近のワイヤフレーム/【右】同じく車軸付近のプレビュー。サスペンションとして使われる板バネをはじめ、各種機構が精密につくり込まれている。「参考資料がほとんどなかったので、周囲の構造を基に、内部構造を自分で考えてモデリングしました」(齋藤氏)。この作品においては、『正確』さを追求しようにも拠り所となる資料が皆無だった。そのため想像力を働かせ『精密』な造形になるよう尽力したというわけだ。現在の自動車とはまったく異なる車軸やサスペンションの構造をリサーチし、理解を深め、パーツをつくり、組み立てる地道な作業を続けたという


▲【左】シフトギアやサイドブレーキ付近のワイヤフレーム/【右】同じくシフトギアやサイドブレーキ付近のプレビュー。レトロカーの中には、シフトギアやサイドブレーキのレバーがボディ側面に位置しているものがある。『Aston Martin Le Man』もその中の1つだ。「最初はどういう構造なのかわかりませんでしたが、リサーチする中で理解が深まり、参考資料のない部分も補完できました」(齋藤氏)。前述の車軸付近の造形についても同じことが言えるが、このように機構を理解した上で整合性のとれた構造のモデルをつくっておくと、後工程のリギング、アニメーションでも、リアリティのある表現が可能となる。自動車に限らず、メカをモデリングする場合には、その内部構造や機構がどうなっているのか、動かすためにどんな仕組みが必要なのかまで考える習慣を身に付けてほしい

モデルガンを分解し、コルト・ガバメントの機構まで再現

M1911は、アメリカのコルト・ファイヤーアームズ社が開発した軍用自動拳銃で、日本ではコルト・ガバメントの通称で知られている。齋藤氏は写真資料とモデルガンを参考に、この銃をモデリングした。ポートフォリオでは、写真資料、ワイヤフレーム画像、レンダリング画像を、1つのページに並べて掲載している。キャプションには『フォトリアルを追求したこと』『本物の銃は見たことも触ったこともない中で、写真から質感や重さを読みとるのに難儀したこと』『ある程度の使用感を出すため、手が触れる部分の汚れや傷の表現に重点を置いたこと』『ゆがみをなくすため、トポロジー(ポリゴンの構成)を研究したこと』などが書かれている。制作期間は1ヶ月で、ソフトウェアはモデリングにMaya、レンダリングにV-Ray、テクスチャ制作にPhotoshopとIllustratorを使っている。

▲『M1911』と題されたモデリング作品。モデリング時には、写真を下絵として各パーツの位置を合わせている


▲【左】『M1911』のワイヤフレーム/【右】撃鉄(ハンマー)部分の拡大。先に紹介した『Aston Martin Le Man』と同様、齋藤氏はここでも機構に配慮した造形をしている。M1911はブローバック式のオートマチック拳銃で、引き金を引いて銃弾が飛び出した後、銃の上半分が後方にスライド=ブローバックし、内部の機構が一瞬あらわになる。撃った際は撃鉄(ハンマー)と引き金(トリガー)だけではなく、遊底(スライド)や銃口付近まで動くので、その奥に隠れた様々なパーツも作成しなければならない。当然ながら、スライドする銃の上半分のポリゴンと、下半分のポリゴンは、別々のオブジェクトにしておく必要もある。そのため、実際に動くモデルガンを調達して分解し、その動作を的確に把握した上で、モデルに反映させたという

多彩なモデルを掲載し、造形力を伝える

在学中からモデリングのスペシャリストを目指していた齋藤氏は、レトロカーや銃などのハードサーフェス以外にも、人体や背景など、多彩なモデルを自身のポートフォリオに掲載した。以降では、代表的な作品を紹介しよう。

▲【左】ZBrushを使いこなすため、オリジナルデザインのキャラクターを自主制作した。制作期間は3週間/【右】卒業制作用につくった背景モデル。制作期間は、上の作品が1.5ヶ月、下の作品が1.5週間



▲4ページを使い、以下で紹介する自主制作の3DCGアニメーションを紹介している。本作は2名のクラスメートと一緒に共同制作したもので、齋藤氏は背景モデリング、ライティング、音付けを担当した。そのため、後半の2ページでは背景のモデリングとライティングにスポットを当て、こだわった点を解説している。チームで制作した作品を個人のポートフォリオで紹介する場合には、自分の担当範囲、自分の能力が明確に伝わるよう、情報をしっかり編集するよう心がけてほしい


▲『Love Apartment』/日本工学院八王子専門学校 在学時に、齋藤氏がほか2名のチームメンバーと一緒に自主制作した3DCGアニメーション

書籍紹介





TEXT_CGWORLD編集部
制作協力_中ノ子 基高(CCiT/MyPLANET)

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