対戦アクションゲーム『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4』、対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』、TVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』IDOLiSH7(音楽ゲーム)『RESTART POiNTER』MV。2015年末∼2016年前半に相次いで発表されたこれらの作品は、いずれも3DCGを多用しつつ、日本のセルアニメが培ってきた表現方法を様々なやり方で再現している。その取り組みが発表されたCEDEC 2016のセッション(※)「セルシェーディングの進化はどこへ向かうのか?これからの3Dアニメ表現について考えるラウンドテーブル」の模様を通して、セルルック3Dの最新事情を紹介しよう。

記事の目次

    ※ゲームとコンピュータエンターテインメントの開発者を対象とした、国内最大規模のカンファレンス。CEDEC 2016は、8/24∼8/26にパシフィコ横浜で開催された。

    芦塚慧祐氏(テクニカルアーティスト)

    株式会社サイバーコネクトツー

    2012年サイバーコネクトツー入社。テクニカルアーティストとして、最近では『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』(PlayStation®4/PlayStation®3/2015)、『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4』(PlayStation®4/2016)などのコンシューマタイトルに携わる。シェーダプログラム、および描画表現の開発を担当。

    www.cc2.co.jp

    本村 C. 純也氏(テクニカルアーティスト)

    アークシステムワークス株式会社

    2002年アークシステムワークス入社。テクニカルアーティスト兼リードモデラーとして、対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd』シリーズのビジュアル制作に従事。

    www.arcsystemworks.jp

    鈴木大介氏(取締役/CGスーパーバイザー)

    株式会社サンジゲン

    2006年に松浦裕暁氏(代表取締役)らと共に株式会社サンジゲンを設立。映画『009 RE:CYBORG』(2012)、TVアニメシリーズ『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』(2013)、『ブブキ・ブランキ』(2016)などでモデリングやCGディレクター、スーパーバイザーを務める。

    www.sanzigen.co.jp

    仲道 える沙氏(ディレクター)

    有限会社神風動画

    2014年神風動画入社。ディレクター兼デザイナーとして、美術やテクスチャ、コンポジットなどを担当。最近では『ガッチャマンクラウズ インサイト』OP(2015)、『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー3』PV(2016)、IDOLiSH7『RESTART POiNTER』MV(2016)、『ウルトラジャンプ』CMシリーズなどを監督。

    www.kamikazedouga.co.jp

    何を追求すれば、アニメらしくなるのか?

    本セッションでは芦塚慧祐氏が進行役となり、サイバーコネクトツー、アークシステムワークス、サンジゲン、神風動画における、セルルック3D制作の最新事情と今後の展望が語られた。本記事では、Webへの画像・動画掲載が許可された以下の3作品に焦点を当て、アニメらしさを追求するための多様な取り組みを紹介する。

    ●陰影表現を追求した、対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』
    ●生き生きとした表情を追求した、TVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』
    ●フェティシズムを追求した、IDOLiSH7(音楽ゲーム)『RESTART POiNTER』MV

    ▲【上】写真左から、鈴木大介氏(サンジゲン)、仲道 える沙氏(神風動画)/【下】写真左から、本村 C. 純也氏(アークシステムワークス)、芦塚慧祐氏(サイバーコネクトツー)

    Title01:陰影表現を追求した『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』

    対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』に登場するキャラクターたちは、3DCGで表現されているにも関わらず非常にアニメらしいビジュアルを実現している。その開発に携わったアークシステムワークスの本村氏は「とにかく陰影制御にこだわりました」と解説する。アニメの画は、線画、色指定、陰影指定の3要素に大別できる。1枚1枚の画をアニメーターが手で描く2Dアニメの場合、3要素の表現はアニメーターのセンスに委ねられる。

    ▲アニメの画は、線画、色指定、陰影指定の3要素に大別できる。その制御をコンピュータに委ねた場合、とりわけ思い通りにならないのが陰影指定だと本村氏は解説する ©ARC SYSTEM WORKS

    3DCGの場合には、3要素をレンダリングして組み合わせることでアニメらしいビジュアル(セルルック)を実現する。基本的に3要素の制御はコンピュータが担うため、高速で正確な処理が可能となる。ただし、コンピュータは指定通りにデータを処理する計算機であり、人間のように美醜の判断ができるわけではない。「特に難しいのが陰影制御です。アニメの陰影は、アニメーターによってデザインされています。物理的に正確かどうかといった理屈ではなく、人が見て美しいと感じるかどうかが判断基準になっており、コンピュータがつくる陰影とのちがいは歴然です」(本村氏)。

    コンピュータが制御する場合、ほしい位置やタイミングで陰影を出せない、明るい部分と暗い部分の境界線がガタガタになるといった問題が発生しがちだという。しかもゲームではリアルタイム&インタラクティブなレンダリングが必要とされるため、後から手作業でレタッチするといったプリレンダーの3DCGなら可能な対処法は使えない。

    「アーティストが意図を込めてデザインした陰影にこそ、プレイヤーは価値を見いだし、カッコ良い、カワイイと感じてくれます。まだまだコンピュータだけに任せておくことはできません。本作に登場するキャラクターの3Dモデルには、陰影を制御するための様々なデータを埋め込みました」(本村氏)。以降では、本作における陰影制御とその手法について、静止画・動画を交えて紹介しよう。

    ▲Softimageで調整中のソル=バッドガイの3Dデータ。【上】のように全ての陰影制御をコンピュータに委ねた場合、ほしい位置に陰影が出ず、立体感やメリハリのとぼしい画になってしまう/【下】のように顎の下、襟の内側、ベルトの下などに陰影が加わると、立体感が際だち、輪郭線が強調される。本作では、ほしい位置に陰影を出して画を引き締めるため、頂点カラーやテクスチャを使用している ©ARC SYSTEM WORKS
    ▲ポリゴンの頂点にカラー情報を設定する技術を頂点カラーと呼ぶ。【上】はアクセル ロウの頂点カラーのデータで、顎の下、襟や袖の内側、ベルトの下などに濃い陰影が出るよう指定されている/さらに【下】のようなテクスチャも併用し、ほしい位置に、ほしい濃さの陰影が出るよう工夫されている ©ARC SYSTEM WORKS
    ▲ソル=バッドガイの顔に注目してほしい。このように3Dモデルを3色(肌、1号影、2号影)で塗り分けると、色の境界線がガタガタになってしまう場合が多々ある ©ARC SYSTEM WORKS
    ▲先の現象を回避し、きれいな輪郭線の陰影をほしいタイミングで出すため、本作ではポリゴン頂点の法線を調整している ©ARC SYSTEM WORKS
    ▲この動画では、ソル=バッドガイの目の下、三角形の領域にあるポリゴン頂点の法線を調整している。三角形の領域の法線方向を変えると、三角形の領域と、それ以外の領域とで、ライトに反応して陰影ができるタイミングをずらすことができる。その結果、きれいな三角形の境界線をもった陰影表現が可能となる。本作のキャラクターの頂点法線は、同じ要領で細やかに調整されている ©ARC SYSTEM WORKS
    ▲先に紹介した頂点カラー、テクスチャ、頂点法線を調整するにあたり、不可欠となるのがリアルタイムシェーダと呼ばれる技術だ。本作の開発環境では、3Dツール(Softimage)上でリアルタイムにレンダリングされるプレビュー画面と、ゲームの実機上で表示されるプレイ画面を全く同じ内容にするためのリアルタイムシェーダが設定された。【上】はSoftimage上に表示されたカイ=キスクのデータ、【下】は実機上に表示された同データだ。両画面の陰影が完全に一致している点に注目してほしい。「両者のライティング結果にちがいがあると、3Dツール上での作業は無駄になります。アーティストが安心して作業に集中するためには、同じ結果になることが保証されている必要があります」(本村氏) ©ARC SYSTEM WORKS

    Title02:生き生きとした表情を追求した『ブブキ・ブランキ』

    2016年1月∼3月にシリーズ前半の12話が放映されたTVアニメ『ブブキ・ブランキ』。10月からの後半12話の放映に向け、サンジゲンでは現在も制作が続いている。1話あたりの尺が約20分、カット数が約300カットにのぼる本作を、同社では1話あたり約1.5ヶ月サイクルで制作している。「とにかくシビアな時間管理が求められます」と鈴木氏は語る。しかも、本作は登場キャラクターの数が非常に多い。作中に登場するロボットはブランキと呼ばれ、5人1組のチームで操縦する。主人公チームを筆頭に多くのチームが登場するため、キャラクターの総数は数十体におよぶ。

    これらのキャラクターは基本的に3DCGで表現されているが、良質な手描きアニメに引けを取らない、生き生きとした表情の実現にこだわったという。キャラクターに表情や動きを付け、生命を吹き込むのはアニメーターの仕事だが、その中には経験豊富な人もいれば、まだまだ成長途中の人もいる。「誰が担当しても、一定クオリティの表情を、スケジュールを守ってつくれるようにするため、まずは大量のモーフターゲットを制作しました」と鈴木氏は解説する。以降では、本作のキャラクターアニメーションについて、表情(フェイシャル)を中心に紹介しよう。

    ▲上は万流 礼央子のモーフターゲットの一部。実際にはこの倍以上、キャラクター1体につき約80種類のモーフターゲットが制作された。モーフターゲットの制作時には、そのキャラクターらしい表情、キャラクター性を損なわない表情になるよう、鈴木氏をはじめとする中核スタッフが慎重にチェックしている。これらのモーフターゲットを組み合わせることで、目パチ、口パク、喜怒哀楽などの多彩な表情がつくられていく ©Quadrangle / BBKBRNK Partners
    ▲前述のモーフターゲットには、誰が担当しても、一定のクオリティで、キャラクター性を損なわない表情をつくれるというメリットがある。一方で、当然ながらモーフターゲットに存在しない表情はつくれないため、アニメーターが思い描いた表情を実現できない場合もある。「アニメーターからの要望を受け、本作の途中からフェイスリグも導入しました。おかげで顔の各パーツをより柔軟に変形できるようになり、アニメーターの自由度が上がったものの、監督からのリテイクも増えました。『もろ刃の剣だな』と実感しましたね」(鈴木氏) ©Quadrangle / BBKBRNK Partners

    上ではフェイスリグを使い、朝吹 黄金に表情を付けている。フェイスリグを実装したことで、いわゆる作画崩壊と言われるような表情が増えたと鈴木氏は苦笑する。「サンジゲンとしては、作画崩壊もいとわず、生き生きとした表情づくりにどんどん挑戦してほしいと思っています。とはいえ、視聴者が『こいつ誰だよ?』と思ってしまうような顔にしてはいけない。その線引き、バランスの取り方が難しいですね」(鈴木氏)
    ▲万流 礼央子のフェイシャルアニメーションの数々。どれも3Dモデルは同じだが、担当するアニメーターによってその表情は千変万化だ。上は、たなか わかば氏担当 ©Quadrangle / BBKBRNK Partners
    ▲ビョン サンギ氏担当 ©Quadrangle / BBKBRNK Partners
    ▲加藤 良哉氏担当 ©Quadrangle / BBKBRNK Partners
    ▲遠藤 求氏担当 ©Quadrangle / BBKBRNK Partners
    ▲ささき けんた氏担当 ©Quadrangle / BBKBRNK Partners
    ▲小川 晴代氏担当 ©Quadrangle / BBKBRNK Partners

    「サンジゲンでは、アニメーターが好きに顔をいじることを昔から奨励してきました。その結果、手描きアニメの『ゆらぎ』みたいなものを3DCGでも再現できればという期待があったからです。礼央子様の場合は特にそれが顕著で、話の後半になるほど、すさまじい表情を見せてくれるようになりました」(鈴木氏)。

    ▲【左】フルアニメーションで表現した朝吹 黄金/【右】同じ動きをリミテッドアニメーションで表現したもの。本作のアニメーションは、基本的に【右】のような3コマ打ちのリミテッドアニメーションで表現されている ©Quadrangle / BBKBRNK Partners

    ディズニーをはじめとする欧米のアニメーションは、1秒間に24枚(24コマ)の画を連続再生することで動きを表現しており、これをフルアニメーションと呼ぶ。その一方、日本では手塚治虫氏がTVアニメ『鉄腕アトム』(1963∼1966)の制作を指揮した時代から、1秒間に再生する画の枚数を減らしてきた。これをリミテッドアニメーションと呼び、画の枚数が12枚の場合は2コマ打ち、8枚の場合は3コマ打ちとなる。フルアニメーションの1枚あたりの画の再生時間は1/24秒だが、2コマのリミテッドアニメーションなら1/12秒、3コマなら1/8秒となる。当初は制作負荷を減らすために採用された手法だったが、それが日本アニメの特徴となり、アニメらしさを表現する上で不可欠のものとなった。サンジゲンだけでなく、本セッションに登壇したほかの3社も、様々な方法でリミテッドアニメーションを再現している。

    「『ブブキ・ブランキ』の場合、基本的には3コマ打ちで、動きの内容やシチュエーションによっては、2コマ打ち、フルアニメーションも併用しています。手描きアニメは同じカットの中でもコマの打ち方が変わったりして、これといった法則性は見当たりません。3DCGでの再現を始めた当初、『どんなコツがあるんですか?』と手描きのアニメーターの方に質問したら『そんなものは経験だよ!』と言われました(苦笑)。『俺たちには無理かもな』と思っていたのですが、自分たちが見てきたアニメを再現するつもりでコマを打っていくと、徐々にアニメらしい見映えの動きをつくれるようになり、今にいたります」(鈴木氏)。

    Title03:フェティシズムを追求したIDOLiSH7『RESTART POiNTER』MV

    「IDOLiSH7(アイドリッシュセブン)」は、2015年8月にリリースされたバンダイナムコオンライン初の女性向けリズムゲームアプリだ。神風動画では、本作の主人公である7人の男性アイドルグループが歌う楽曲『RESTART POiNTER』のMVを制作した。

    ▲アイドリッシュセブン『RESTART POiNTER』MV ©アイドリッシュセブン

    本作のメインターゲットは女性だったため、女性のこだわり、女性が求めるフェティシズムを追求したと仲道氏は語る。「ディレクターの私をはじめ、モデリングチーフ、アニメーションチーフなどの主要スタッフを女性が占めている一方、スタッフの中には男性もいました。制作を通して男女のフェティシズムのちがいを実感できたカットがあったので、その制作過程をご紹介します」(仲道氏)。

    ▲本作の絵コンテは仲道氏が制作した。上は逢坂壮五のお尻をスローモーションで観せるカットの絵コンテだ。先に紹介した完成映像の1:38∼1:39のカットに相当する。この前後にある一連のカットを制作スタッフはフェチパートと呼んでおり、脚・腰・手など、各キャラクターの魅力が凝縮された身体のパーツをじっくりと観せる演出が施されている ©アイドリッシュセブン
    ▲【上】前述の絵コンテを基に男性アニメーターが制作したカット/【下】仲道氏をはじめとする女性スタッフの意見を踏まえ修正されたカット。【上】はいわゆるモロパンなのに対し、【下】はパンチラになっている。両者を見比べれば、男性に受けるフェティシズムと、女性に受けるフェティシズムのちがいが一目瞭然だ。多くの女性はわかりやすいサービスではなく、想像力をかきたてられるチラリズムを好むため、このような変更が加えられたという ©アイドリッシュセブン
    ▲本カットではチラッと見えるお尻の形にもこだわっており、より引き締まったお尻に見せるため、専用のモーフターゲット(通称、お尻モーフ)が制作された ©アイドリッシュセブン
    ▲【上】お尻モーフなし/【下】お尻モーフあり。女性の胸にたとえると【上】はBカップ相当、【下】はDカップ相当のボリューム感がある。手描きアニメでは、各カットの見せ場に合わせ、キャラクターの形や動きをアニメーターが臨機応変に誇張することが当たり前に行われてきた。3DCGの場合も、誇張することでカットの見せ場が引き立ち、より印象的な画になる点は変わりない。そのため神風動画では、本カットに限らず、カット単位で専用モーフを増やしたり、撮影処理の方法を変えるなどの手間をかけている ©アイドリッシュセブン
    ▲完成カット。境界線が明確な陰影と、グラデーションの付いた陰影を組み合わせた繊細な質感表現、ステージを照らすライトによって浮かび上がるホコリなどが加わり、さらに印象的な画に仕上がっている ©アイドリッシュセブン

    セルルックに限らず、3DCGの技術レベル・表現レベルは年々高くなっており、コンピュータによって自動化できることも増えてきた。それでも、観る人の心を揺さぶる魅力的な画づくりのためには、アーティストの意図が込められた調整は欠かせない。全てをコンピュータで自動化することは不可能だからこそ、アーティストがセンスを発揮する場が消えることはなく、アーティストが手を入れやすい制作環境の構築は不可欠と言えるだろう。

    ▲セッション会場全景。本セッションは非常に人気が高く、会場に入りきらない数の受講者が詰めかけた

    TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
    PHOTO_弘田充