2016.09.07 Wed

『正解するカド』キャラクターメイキング>>量産を視野に入れ、有坂あこ氏の絵を3D化

『正解するカド』を象徴するキャラクターで、キービジュアルにも登場するヤハクィザシュニナ(以降、ザシュニナ)。身体にフィットした黒のスーツ、白のマント、白髪、赤眼など、印象的な特徴をもつ美少年は、VOCALOIDのイラストなどで知られる有坂あこ氏によってデザインされた。アニメのキャラクターデザインを担当するのは初めてだった有坂氏の絵が、どのような過程を経て3D化されたのか、東映アニメーションの加藤康弘氏と岩本千尋氏に話を伺った。

※本記事は、『CGWORLD Entry』vol.16(2016年7月発行号)掲載の「2D→3D キャラクターメイキング CASE:03 TVアニメシリーズ『正解するカド』」を再編集したものです。

TVアニメシリーズ『正解するカド』

2015年3月に本格始動し、現在も放映に向けて制作中の東映アニメーションによるオリジナルTVシリーズ。本作の映像は、セルルックのフル3Dと作画のハイブリッドで表現される。
seikaisuru-kado.com

©TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI

加藤康弘氏(シニアデザイナー)

東映アニメーション株式会社

2000年代初頭から現在まで3D制作に従事。『聖闘士星矢Legend of Sanctuary』ではアニメーション・スーパーバイザーを担当。本作ではCGディレクターを務める。

岩本千尋氏(チーフデザイナー)

東映アニメーション株式会社

3Dスクールを卒業後2010年に入社。撮影、背景モデリングなどを経て、キャラクターモデリングに転向。本作ではメインキャラクターのベースモデリングを担当。

www.toei-anim.co.jp/

3Dの向き不向きより、世界観を優先

ザシュニナのモデリングに当たっては、有坂氏が描いたデザイン画を基に、プロダクションデザイナーの真庭秀明氏が作成した設定画が参照された。「本作のキャラクターは、カットに応じて3Dと作画を使い分けることが当初から決まっていました。そのため、作画で必要とされるレベルの詳細な画を真庭さんに依頼したのです」とCGディレクターの加藤康弘氏は語る。

ザシュニナの第一印象は、『東映アニメーションらしくないキャラクター』だったと加藤氏は続ける。「セルルックを意識したデザイン画ではなかったのに加え、頭身も高く、今までにない造形が期待されていることは明らかでした。さらに、大きなマント、長い飾り紐など、3Dで表現しづらい要素が多く、非常にやりがいがあるなと感じました(苦笑)」。3Dの向き不向きではなく、作品の世界観に合っているデザインが優先されたためだという。「結果として、多くの人が避けてきたデザインや表現に挑戦することになりました。それだけ、制作陣が本作にかける意気込みは強いのだと思います」。

そんな本作で、ザシュニナをはじめとするメインキャラクターのベースモデリングを任されているのが入社7年目の岩本千尋氏だ。抜擢の背景には、キャラクター・スーパーバイザーの宮本浩史氏の推薦があったという。「当社のモデラーたちは、誰が見ても破綻のない3Dモデルを造形できる高い基礎力をもっています。その中でも、岩本の力は際だっているというのが宮本の評価でした」(加藤氏)。

線1本のニュアンスも見逃さない

本作ではTVシリーズに先立ちTrailerが制作された。岩本氏の本作における初仕事は、このTrailer内に登場するザシュニナの3Dモデルをつくることだった。「どういう方向性のビジュアルを打ち出すか試行錯誤することがTrailer制作の目的のひとつでした。私自身、初めて設定画を見た段階では画のゴールを明確にイメージできなかったので、色々な方に意見を伺いました」(岩本氏)。有坂氏からは、『ザシュニナはあくまで男性だけれども、やや中性的な雰囲気にしたい』などの要望をもらったという。




設定画を読み解き立体化するときには、描き手が何を考えて描いたのか、注意深く観察し、想像するよう心がけていると岩本氏は語る。「すごく細かいディテールまで見極め、繊細な造形をする点が岩本の長所ですね。例えば正面図と側面図で線のニュアンスが微妙にちがう場合、どの線を選ぶべきか真剣に悩んでくれます」(加藤氏)。岩本氏がつくったザシュニナの3Dモデルは、宮本氏によるブラッシュアップを経てTrailer制作に使われた。『すごく再現性が高い』と有坂氏からも好評だったそうだ。

ザシュニナの3Dモデルは、TVシリーズ制作に向け現在も改良中だ。「初代と最新のモデルを見比べても、形はほとんど変わりがないように見えますが、データ自体は全く別物に置き換わっています。TVシリーズのスケジュールで量産するため、できる限りの表現の自動化を目指し調整を続けています」(加藤氏)。

2D WORK:有坂氏のデザインを読み解く

Point:読み解ききれない情報は、追加の解説を依頼

岩本氏をはじめとするモデラーが設定画を手にした後、最初にすることは情報の読み解きだという。「モデリング作業を始める前に、解釈に悩んだ箇所を整理し、色々な方に質問させていただきました」(岩本氏)。質問によって初めて判明することも多く、追加の画や解説も提供してもらったそうだ。「例えばザシュニナの左眼を囲むように流れる髪は、前髪と左サイドの髪がたまたま重なっているだけだろうと思ったのです。ところが有坂さんに確認したら『つながっています』という予想外の返答をいただきました(笑)」(加藤氏)。

▲有坂氏への質問の後、追加された画や解説の数々。【左】では、ザシュニナのスーツの模様の厚みや質感が解説されている。【右】では、ザシュニナのマントの中が実は異空間で、黒のベルトは物理法則を無視して伸びたり切れたりすることが解説されている


▲ザシュニナのポーズ集。有坂氏や真庭氏の描いた画がスタッフの想像力を刺激し、キャラクターが形成されていく

3D WORK:作画となじむ3Dの探求

Point01:セルルックで見映えのするポリゴン分割を意識

セルルックで見映えのするラインやハイライトを表現するため、モデリング時にはポリゴン分割に気を配ったと岩本氏は語る。「厚みを付けると、ラインが二重になったり、ハイライトが入りやすくなったりします。加えてラインとハイライトが混じると、見映えが良くありません。どのパーツに、どの程度の厚みを付けるかの見極めが重要になります」。なお、ラインとカラーを分けてレンダリングしておくと、撮影(コンポジット)時にラインをなじませやすくなる。本作は3Dと作画のハイブリッドなので、なじませるための調整は必須だ。そこでラインだけの素材を分けて出力するため、テクスチャを使わずラインを描画できるようにしている。

▲【左】ザシュニナの全身三面図(マント無し)/【右】同じく全身三面図(マント有り)


▲【左】Mayaの作業画面に表示されたザシュニナの3Dモデル(マント無し)。腕を身体から離した状態(画面右)でモデリングした後、腕をおろして(画面左)全身のバランスを確認している/【右】同じく3Dモデル(マント有り)



▲セルルックでレンダリングされたザシュニナ。クロースアップショット、バストショット、ウエストショット、フルショット、ロングショットの5段階で、ラインやハイライトの情報量、影の落ち方などを自動的に調整するMELスクリプトを設定予定だという。「3Dモデルはクロースアップに耐えられるレベルまでつくりこみ、ロングで映す際にはラインを減らすなどして、自動的に情報量を調整します。そうすることで作画と並べても違和感のない画を表現できます」(加藤氏)


▲ザシュニナの手足の設定と、それを基につくられた3Dモデル。リングの溝や厚みまで、忠実に再現されている

Point02:立体として成立する、理想的な落としどころを探る

ザシュニナの顔の設定画は、アイレベル(目高)に加え、俯瞰(ふかん)、あおりの画も作成された。ただし2Dの設定画を忠実になぞったからといって、破綻のない3Dモデルを造形できるとは限らない。モデリングに際しては、設定画に引っ張られすぎないよう、立体として成立する骨格を意識したと岩本氏は語る。「2Dの画と3Dは別物なので、厳密に合わせることはできません。2Dの特徴をしっかり拾いつつ、360度、どこから見ても成立する3Dモデルをつくる必要があります」。以降で紹介するような投影図の場合、描き手が強く望んで描いた線と、そうではない線が混在している。それらを選り分け、最も理想的な落としどころを見つけることが1番大切だという。

▲【上】ザシュニナのアイレベル(目高)の設定画。ここで紹介している左側面・左斜め・正面以外に、右斜め・右側面も作成された/【下】ザシュニナの3Dモデル。「3Dで髪をつくると必要以上に情報量が多くなるので、どう整理するか悩みました」(岩本氏)。【上】と【下】を見比べると、正面の印象の再現を最優先にしたことがわかる。【上】の左側面のような眼の見え方は2Dだから可能なのであって、3Dで同じ見た目を再現することには限界がある


▲【上】ザシュニナの俯瞰の設定画/【下】ザシュニナのあおりの設定画


▲【左】ザシュニナの瞳やまぶたの表現方法を指定する設定画。まぶたの線の描き方が、NGの画とOKの画を並べつつ具体的に解説されている。3Dも作画も、この設定に準拠して表現される/【右】同じく口の設定画。歯や舌のディテールをどこまで表現するかが指定されている


▲ザシュニナの表情集。モデリングが完了したら、3Dモデルはアニメーターの手にわたり、この画などを参照しつつ様々な表情が付けられる


▲【左】赤色で描かれたペイントオーバーは、ザシュニナの足の指の造形に対するチェックバックだ。「サンダルをはいた状態で立った場合、足の指にギュッと力が入り、指の骨格に沿った隆起が生まれます。作画の方々はそういった様子も無意識に描いてくれるので、3Dでも表現してほしいという意図をこめたチェックバックです。3D空間では現実のような物理法則が働かないので、アーティストがそれを補完して表現する必要があります」(加藤氏)。3Dモデルと右側の骨格図と見比べると、指骨(末節骨・中節骨・基節骨)や中足骨の関節位置を意識した隆起がペイントオーバーされていることがわかる

【右】左から順番に、バストショット時、ウエストショット時、フルショット時のカメラ設定。それぞれ、FocalLength(焦点距離)が85mm、60mm、50mmになっている点に注目してほしい。85~60mmは中望遠レンズ、50mmは標準レンズの値だ。「被写体に近付くほど望遠レンズにすることで、パースがついて被写体が歪んで見えることを防止しています。アニメであっても、こういう部分は実写と同じ見せ方をした方が自然な画作りができます」(加藤氏)。岩本氏がモデリングする際にも、同じ設定を施したカメラで形を確認しているという

Point03:量産に向け、自動化の仕組みを構築

TVシリーズ制作に向け、ザシュニナの3Dモデルは現在も改良中だ。Point01で紹介したMELスクリプトによるラインやハイライトなどの調整以外にも、様々な自動化の仕組みを構築中だという。「自動化自体にも相応の時間がかかるうえ、今後どのような表現が求められるのか、今から全てを予測することはできません。全部を自動化することは現実的ではないので、自動化で得られるメリットと、かかるコストを天秤にかけ、自動化した方が良い部分と、する必要のない部分を見極めることが大切です」(加藤氏)。

▲【左】本作のキャラクターのカラーを指定するためのツール。アニメの色指定の専門家が、昼間の屋外、昼間の室内などの環境変化に合わせて制作する。キャラクターによっては7パターンくらい必要になるため、カットごとにCGモデルのマテリアルを手動で切り替えるのは現実的ではない。そのため前述のツールにカラーを設定しておけば、簡単な操作で切り替えられるようになっている

【右】ザシュニナの襟足(グレーで色付けされた部分)は、トポロジー(ポリゴン面の割り方)やUV座標が共通化されており、リグやマテリアルの設定を一括処理で変更できるようになっている。「襟足部分は特別な固定影やハイライトを設定していないので、同じデータを流用しています。一方で、上部の髪(白で色付けされた部分)は全て固定影やハイライトがちがうので、個別の設定が必要になります」(岩本氏)


▲【左】マテリアルの設定方法のマニュアル。上から順番に、【1】固定影やハイライト用のマスクが必要なマテリアル、【2】マスク不要のマテリアル、【3】自分でカスタマイズできるマテリアルの仕様が解説されている/【右】前述の【1】の詳細を解説するマニュアル


▲【左】ザシュニナの髪の固定影(1号影)用のテクスチャ/【右】ザシュニナの髪のハイライト用のテクスチャ。本作のテクスチャは色付けする領域を指定するマスクになっており、前述のマニュアルではその設定方法が解説されている。マスクされた領域に流し込むカラーは前述のツールを使って指定する





TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田充

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